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第14章 氷の記憶、再び

 そこに立っていたのは、同胞を討たれた悲しみと怒りによって生まれた消滅の具現であった。

 真紅のオーラを覆うその身体はビャクを討った者達の存在を再認識すると、その炎のような揺らめきをより一層強めながら2人の方へと闊歩を始める。


「お前等は…、僕達の仲間を殺した…!それを敵と呼ばずに何と言えばいい…?」


 ジハトとイナバの両眼に、蒼黒の破壊神が映る。その身体が一歩を踏み出す度に、足跡から蒼い炎が上がりその周辺を無慈悲に焼き焦がす。イナバは咄嗟に“梵槍(アカシャ)”を構えるが、ジハトは左眼を蒼く輝かせながら平静を保っていた。


「ボク達は、今の状況下で最善の策をとったまでです。ボク達にとって、…そして貴方達にとっても。」

「ビャクは、何も知ろうとしなかった僕に世界を教えてくれた…。自分の部屋と本以外の世界―この広い世界を。そして、ここは決して砂漠だけじゃないことを知った。大災害で少なくなっても手を取り合って助け合う人々とその心。仲間がいることの温かみ。そして―。」


 その蒼黒い兜の奥で、ダイの両眼から一筋の涙が頬を伝い、胸元に落ちる。


「ただ純粋に、それらを求めて世界を駆けまわってきたビャク本人の寂しさと切なさも…!それをよくも………!!」


 ダイはかつてジハトと対峙した時と同じ間合い―“梵矢(クシティ)”と“梵棒(チャクラ)”が互いに攻撃範囲内に収まるギリギリの位置で歩みを止める。それと同時に、周囲の地面が蒼い炎に包まれ、無を生み出す。生身のヒトがもしその場にいようものなら、その原型を留めておくことは不可能であろう。


「…予言(シナリオ)は結果的に正しく遂行できたようでしたが、やはり感情の起伏の激しい貴方の存在を先に消しておくべきでした。せめて貴方達が出会う前にあの方を討っていれば、もっと多くのヒトがこの荒れ果てた世界を生き延びることが―。」

「黙れぇぇぇ!!!」


 蒼黒の鎧からジロウの咆哮が放たれる。


「…我はダイ殿がいたおかげで、幼い命を殺めずに済んだ。同時に予知や予言という(しがらみ)から解き放たれ、自らの意思で歩むことの大切さを思い出せたのだ。それは、予言に頼らず我々今を生きるヒトの力で世界を変えようとする強い意思だ。…それをたった一度とはいえ完全に否定した貴様達は、決して同胞ではあらぬ…!!」

「よく言ってくれた、ジロウのおっさん…!もう僕達はお前等と分かり合える気がしない。ここでお前等を消して、僕達が"あの話"の続きを作り上げる!!」


 今まで黙って話の流れを聴いていたイナバが、しびれを切らしたようにその白銀の鎧をカチカチと音をたたせながら身体を震わせる。銃口をダイの脳天に向けた“梵槍(アカシャ)”の引き金を引きたくて仕方がないという感じだ。


「…的の数を自ら減らしておいて、おまけに撃って下さいと言わんばかりの無防備な姿をさらけ出しておいて、アンタ達ホントにバカだねー。そんな脳筋バカはもうこの世界に必要ないよー?だから…サヨーナラー。」


 イナバがそう言い終える頃には、既に“梵槍(アカシャ)”から蒼い弾丸が1つ発射されていた。その衝撃で、ひび割れていた大地がさらにその亀裂を広げる。


 ―ジュワッ…


「えー…!?」


 その後にイナバの耳に聞こえたのは、間違いなくダイの脳天に命中したはずの弾丸が着弾の直前でドロドロに溶けて蒸発した音であった。


「…そのお花畑脳こそ、この世界において無能なモノであると思うがな。」


 ジロウの怒りに燃える声がイナバの背筋を凍りつかせる。硬直したイナバを尻目に、ダイはその視線をジハトに戻す。


「―お前は“梵眼(アヴァロキタ)”も持っている、と言っていたな…。僕はその力を知っている。伝説では、それを持つ者が普通の対人戦で指一本触れさせることは敵わないと言われるほどの驚異的な回避・迎撃性能があるのだとか。」

「…流石はユリウスに導かれし者。予習はしっかりとされているのですね。仰る通りです。しかしボクはこの力に加え、時を司る“梵棒(チャクラ)”も持ち合わせているのですよ?もはや、貴方達がどのような力を持っていようが、今のボクを討つ手段はありません。」


 そう言うや否や、ジハトは瞬時にその姿を消す。ダイの背後に回って鳩尾に一発掌底をかまそうとする。しかし―。


(なんだって…!“梵坤(ニルリティ)”を発現させたというのに、彼等の姿を捕捉できない!?)


 今のジハトの左眼には、その動きを止めたように見えるイナバの姿と、そのオーラによって炎そのものとなっているダイが映っていた。


(か、彼等の姿はどこに!?―)


 確認の為にダイの背後に回った瞬間一時的に“梵坤(ニルリティ)”を解除したジハトは、すぐに今の自分の行動が愚かであったことを思い知らされる。

 “梵坤(ニルリティ)”の解除とほぼ同時に、そのダイと変わらない細さの右腕が二の腕辺りまでを瞬時に焼失させられたのだ。


「う、う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 目の前で焼失した右腕の残りを凝視しながら絶叫を上げるジハトの眼前で、ダイは静かに言葉をかける。


「…お前は知っているか?その無敵であるはずだった“梵眼(アヴァロキタ)”の持ち主も、物理的には二度、間接的には一度敗北しているんだ。前者の敗北は、その絶対的回避性能をも凌駕する融合した2つの蒼い遺伝子の猛攻に。そして後者は―。」


 ダイは真紅に燃え盛る右手拳を、ジハトの顔面に突きつけるように出す。




「―仲間として共に旅していた“蒼い遺伝子の発現者”の1人が、その本来とは真逆の力を隠し持っていたことを見抜けず、そいつの身代わりとして死ぬという運命に…だ。」




 その瞬間、真紅の炎がジハトの身体を全て覆い尽くさんとし、完全に飲み込んだ。その中でドサッとジハトが倒れる音がし、左腕が炎の中から脱出しようともがくかのように露出する。しかしそれも長くは続かず、先程の右腕のように瞬時に焼失した。


「まるで…今のお前と僕のように、な…。」


「ハ、ハッちゃん…!―うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 一部始終を見ていたイナバが、拘束を解かれた獣のようにダイへ向かって突進する。その姿には騎士の面影がなく、殺戮以外の感情を失った凶戦士がそこにいた。


「貴様は我の意思でトドメを刺そうぞ。…良いな?ダイ殿。」

「…あぁ、僕の分もブッ飛ばしてくれ。」


 ビャクに直接ダメージを負わせ、トドメを刺した張本人からの攻撃に反応し、ダイの身体はジロウの意思によって迎撃の体勢をとる。これは、かつてイナバと同様のことを試みようとしたジロウ自身に対する戒めであった。

 ダイの右腕に“梵弓(マンジュ)”のような(ボウガン)が形成されるが、その大きさはオリジナルの二回り以上もあり、その銃口付近では“梵矢(クシティ)”にあるような鋭利な5本の突起が巨大な花弁のように展開されている。さらに今はジロウではなくダイの身体から生じている為、その体格とのギャップがイナバにさらなる恐怖として視覚的に襲い掛かる。


「―“梵巽(アグニ)”!!!」


 ジロウの意識に合わせて、ダイも声を重ねて叫ぶ。その右腕の銃身から炎を纏った巨大な光弾が放たれ、イナバの“梵槍(アカシャ)”と衝突。鍔迫り合いをするように両者はせめぎ合うが、先に気圧(けお)されたのは―。


「ち、ち…、畜しょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 脅威の破壊力を持った己の銃槍を、それを上回る消滅の力によって粉砕されたイナバであった。彼女の姿もジハトと同様に跡形も残さず、騎士らしからぬ断末魔と共に光弾の威力に飲み込まれていった。

 その景色の遥か向こう側では、聖域を囲む蒼い城壁が関門のハシラごと飲み込まんとするが如く激しく燃え盛っていた。


 ―


「…仇はとったぞ、ビャク。………今まで………、あり…がとう………。」


 ダイは蒼黒い(ジロウ)と分離し、乾いた大地に横たわる少女の身体を優しく抱き、その胸に寄せる。ダイの両眼から一筋の涙が流れ、少女の頬を濡らした。


「…ダイ殿、一度町へ戻ったら改めて聖域へ向かおう。ビャク殿の死を無駄にしない為にも、我々はこの世界の真実を括目せねばならぬ。おそらく、彼等を導いた者にも会えるはずだ。」


 元の大柄な青年の姿に戻ったジロウは、やはりその両眼から流れる涙を隠すように蒼い城壁を見つめながら言う。


「…そうだな、行こう。―これからも助けてくれるか?"ジロウさん"。」

「む!?……も、もちろんだ!」


 一瞬聞き間違いかと思い、ジロウは反射的に訊き直す。


「しかし、その呼び方は…?」

「…め、面倒だから略しただけだ!か、勘違いするなよ!?」

「………うむ、心得た!」


 3(・・)は遠くで燃え盛る城壁に背を向け、無の荒野を後にした。


 ―


「おい…、一体どうなっているんだ…!?」

「わからぬ…。我々がいなかった間に、何者かが侵入したことは間違いなかろう。」


 集落に戻ったダイとジロウは、その光景を目の当たりにして身体を震わせずにはいられなかった。


「ただ、これがヒトの仕業とはとても思えぬが…。」

 

 確かに、自分はこれに近い景色を見た記憶がある。

 そう思うダイですら、今目の前に広がる景色を受け入れることはできなかった。




 "あり得ない"




 こんな砂漠のど真ん中にある町全体が雪と氷に覆われているなど―。 

続きます。

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