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ゾラクシア異聞録―天の鍵を創りし者―  作者: 海道ほこ


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プロローグ

 かの地、ゾラクシア。

 その名は、人を初めて陽の光の元へ導いた者から、頂いたものである。

 ゾラクシアは人々に知恵を授け、皆で豊かな国を築き、平和な世を作り上げた。

 ゆえに、かの人は世界の救世主と呼ばれた。


 しかし、長い年月が経つと、救世主の作り上げた平和は崩れ去った。

 自らを闇の魔法使いと称するリードヴァスなる者によって、世は混沌に陥ったのだ。

 ゾラクシアは、リードヴァスを止めるために立ち上がった。ゾラクシアもまた、魔法使いだったがために。

 両者の戦いは長く続いた。両者ほどの力を持たぬ人々は、ただ見守るほかなかった。

 戦いは終わらないに等しいと察したゾラクシアは、三つに分かたれた国のそれぞれに、強力な力を残した。

 

 剣武と力を慈しむ逞しき国ミガリスには、輝く波を。

 知恵と秩序を守る美しき国ラフィトアには、聖なる炎を。

 創造と遊楽を尊ぶ誉れ高き国オルドラバーンには、常しえの風を。


 再び闇が迫りし時、分かたれた力を一つにせよ。

 さすれば、闇は葬られよう。


 言葉と三つの力を残したゾラクシアは、その後にリードヴァスと共に空の彼方へと消えた。闇の魔法使いリードヴァスは、ゾラクシアによって空の果てに幽閉されたのだ。

 そうして世界は救世主を失いながらも、つかの間の平和を取り戻す。


 この話が、人々の間での語り草となった頃……。

 空の向こうで、邪悪な闇が目を覚ますのだった。






 世界三国のうちひとつ、ラフィトア。

 この国は魔法使いが多く住まい、その中でも特に優秀な魔法使いを国の長としていた。

 だが長はひとりと決めず、男女各二名ずつ。計四名で国を治めている。人々は彼らを、魔国賢人会と呼んでいた。

 そんな魔国賢人会の面々が、ラフィトアの中心都市にある会議場に集まっていた。

 皆が席についたのを見ると、目の前に水晶玉を置く老齢の女が口を開いた。


「どうか今回ばかりは、外れてほしいと願っている。だが、私の占いの評判は、まだ落ちないらしい……」


 立派な口髭を三つ編みにしている老齢の男が、肩をすくめて答えた。


「改めて、何を視たのか教えちゃくれないかね」


 老齢の女は、水晶玉にゆっくりと手のひらをかざしながら、目を細めて再び口を開いた。


「空が割れ……闇が溢れ出した。抑えていたはずの光は、どこへ行ったのやら。だがその代わりに……三つの星が輝きだした」

「ゾラクシアが残したと言われる、三つの遺物……」


 一番背の高い、白金色の髪をひとつにまとめた初老の男が口を挟んだ。それを肯定するように頷いた老齢の女は、続ける。


「三つの星は、ひとつの柱に集う。その柱は……ここより東の地にあるらしい」

「東ってぇ……オルドラバーン?」


 一番若い女が訊ねると、老齢の女はもう一度頷いた。


「まだここまでしか視れていないが……おそらく、この柱が“誰“なのかわかれば、その先も視えるようになるだろう」

「ま、ようするに闇の魔法使いリードヴァスが、ついに復活を果たした。奴を再度封印するため、ゾラクシアが残した三つの遺物を集めて、ひとつにしなきゃならん。言い伝えに従ってな」

「でも、本当にそれでリードヴァスをどうにかできるものなのぉ? ていうか世界の救世主ゾラクシアでさえ抑えきれなかった相手を、あたしたちでどうにかできる感じぃ?」


 老齢の男と若い女が話していると、初老の男が立ち上がった。


「どうにかするしかないであろう。我らは知恵と秩序を守る国、ラフィトアの民。ましてや、国を担う魔国賢人会なのだぞ」

「はーあ、やだやだぁ。泥臭い戦いなんか、お断りなんだけどぉ~」


 若い女の言葉を無視して、初老の男は外へ出るための扉へと歩み寄る。


「おまち、ハイウェット」


 老齢の女に呼び止められ、初老の男―ハイウェット―は立ち止まった。


「まだなにも決めていないだろう。何をそんなに急いている?」

「闇の魔法使いが復活したとなれば、ラフィトアを含む三国の危機。早急に動かねばなるまい。私は“遺物が集う“柱を探しに行く」

「はあ、全く……ならば、二つの花を連れていけ。ちょうど一昨日、ミガリスから職を求めてやってきたはずだ。あなたのこれからの旅に、必要だと出ている」

「感謝する、クリール殿。各々方は、これからどうするおつもりで?」


 そう言ったハイウェットの隣に、老齢の男がやってきた。彼も外に出るつもりなのだろう。オールバックにした白髪を撫で、靴紐を魔法で整え、シャツの襟元を正していた。


「儂は逞しき国、ミガリスへ行こう。遺物のひとつである、輝く波を探しにな。あの国は儂のような年長者が向かったほうが、話も通しやすいじゃろうて」

「うむ、タレス殿が向かうなら安心であろうな。では……常しえの風は、誰が探しに?」


 ハイウェットの言葉に、若い女はちらりと老齢の女―クリール―を見た。クリールは期待を寄せるような視線を受けながらも、依然として着席したままでいる。


「……四人中、三人が遺物と柱探しに出るとなると、誰かはここを守らねばな。ミレア殿と私、どちらが防衛に適しているかなど……火を見るよりも明らかでは?」


 クリールの言葉に、ミレアと呼ばれた若い女は、うんざりとしたようにため息をついた。


「わかったわよぉ……そうね、あたしはクリールさんみたいに、超広範囲に魔法を使えたりしないから……でも、外に出るってことは汚れるってことでしょお? はあ、ほんっとサイアクぅ~……」

「世界に危機が迫っているという時に、なんと呑気な……」


 苦言を呈するハイウェットに、ミレアは指を差す。


「それはそれ! これはこれ! 文句は言うけど、ちゃんとやりますぅ~!」

「ならば良いが……」

「ま、ミレアちゃんも優秀なのはわかっとるから、心配はしとらんよ。それよりもハイウェット、聖なる炎を忘れずにな」


 老齢の男―タレス―に言われ、ハイウェットは頷いた。



「では行こう。伝承に則って、世界のために」

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