表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片翼の堕天使  作者: ハオ
5/12

第5話「軍の判断」

軍の会議室は、いつも同じ匂いがしていた。


金属と空調と、乾いたコーヒーの匂い。


人の気配はあるのに、人間味だけが削ぎ落とされている空間。



巨大な戦術ホログラムが中央に浮かんでいる。


そこには、彼女の戦闘データが表示されていた。


動きの軌跡。

敵殲滅率。

戦場再現ログ。


すべてが数値化されている。



「結論から言う」


一人の将校が口を開く。


「彼女は“再現可能”だ」



空気がわずかに揺れる。


だが誰も驚かない。


むしろ当然の結論として受け止めている。



「戦術パターンは固定化されている」

「意思決定は演算モデルに依存」

「個体の感情は誤差範囲」


言葉は冷静だった。


感情を排除した結果としての正確さ。



「ならば、データ化すべきだ」


別の声が続く。


「個体依存はリスクになる」



ホログラムが切り替わる。


彼女の動きが分解されていく。


フレーム単位で解析された戦闘。


そこには“人間”の痕跡はほとんど残っていなかった。



誰も悪意を持っていない。


むしろ合理的だった。


それが一番厄介だった。



「彼女は英雄ではない」


誰かが言う。


「戦力資源だ」



その言葉は、会議室に静かに落ちた。



主人公はその場にいた。


末席。


発言権はない。


ただ記録要員として同席しているだけ。



だがその言葉だけは、

妙に耳に残った。



——戦力資源。



彼女は、人ではなくなるのか。



その疑問すら、

ここでは意味を持たない。



会議は続く。


次は量産化計画。


データ抽出方法。


戦術最適化アルゴリズム。



彼女はすでに“現象”として扱われていた。



主人公は拳を握る。


だが、何も言えない。


言えば壊れると分かっているからではない。


言っても意味がないと知っているからだ。



会議の最後。


議長が静かに言う。



「戦力として最大効率で扱う」



それが決定だった。



誰も反対しない。


誰も疑問を持たない。



それが一番恐ろしかった。



会議が終わる。


椅子が引かれ、資料が閉じられる。


いつもの日常に戻るように。



主人公は最後に一度だけ、

ホログラムを見上げる。



そこに映っている彼女は、

もう“彼女”ではなかった。



ただの戦術構造。


ただの最適解。


ただの資源。



(あいつは……これでいいのか?)



答えはない。


ここには、答えを出す機構が存在しない。



彼は部屋を出る。


廊下は静かだった。



だがその静けさは、

平和ではなかった。



何かが決定された後の静けさだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ