第3話「共鳴」
戦闘は、いつも突然始まる。
そして同じように、終わる。
だがその日は、何かが違っていた。
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敵部隊は予想より深く侵入していた。
通常なら前線で止まるはずの戦力が、
すでに後方域にまで達している。
警報は意味を持たない。
ここでは、警報が鳴る頃にはすでに遅い。
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「散開。迎撃開始」
短い指示。
だが誰も慌てていない。
慣れているのではない。
慣れる前に終わるからだ。
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彼女はすでに動いていた。
白い装甲が光を反射するたび、
戦場の“優先順位”が書き換えられていく。
敵の進行ルートが崩れる。
遮蔽物の意味が消える。
戦術が成立する前に、構造そのものが破綻する。
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主人公は後方支援として配置されていた。
本来なら“戦闘に関与しないはずの位置”。
だが現実は違う。
戦場は、彼を無視してはくれなかった。
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敵の一部が、こちらに向く。
偶然ではない。
戦場の中で“最も弱い点”を選び取っただけ。
そこにいたのが、彼だった。
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「……来る」
声は出なかった。
体が先に理解する。
死が、こちらに向かっている。
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その瞬間だった。
世界が“ずれた”。
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視界が一瞬だけ切り替わる。
彼のものではない。
誰かの視点。
高すぎる俯瞰。
すべてが同時に見えている感覚。
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敵の動きが、手に取るように分かる。
いや違う。
理解している。
予測ではない。
“確定した未来”が見えている。
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銃撃。
回避。
反撃。
それらすべてが、思考より先に成立する。
彼の体が、戦場のルールに沿って動く。
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——これは、自分じゃない。
そう理解した瞬間、感覚は途切れた。
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膝をつく。
呼吸が乱れる。
周囲の音が戻ってくる。
銃声。
爆発。
指示。
現実。
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「今の……何だ?」
呟きは誰にも届かない。
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戦闘後。
敵部隊は殲滅されていた。
いや、“処理された”と言った方が正しい。
感情も抵抗も介在しない結果。
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彼女は戦場の中心に立っている。
いつも通り。
何も変わらないように見える。
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主人公は彼女を見つめる。
さっきの感覚が、まだ残っている。
あの“視点”。
あの“理解”。
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(彼女の……視界だった?)
そんなはずはない。
だが、他に説明がつかない。
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彼女は振り返らない。
ただ静かに言う。
「処理完了」
それだけ。
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主人公は立ち上がる。
手が震えている。
恐怖ではない。
混乱でもない。
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“自分の中に、他人の戦場が入ってきた”という違和感。
それだけが残っていた。
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戦闘後、撤収命令。
部隊は移動する。
誰もその異常に気づいていない。
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彼女も。
軍も。
誰も。
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主人公だけが、その感覚を引きずっていた。
頭の奥に残る、他人の思考の残響。
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(今のは何だった?)
答えはない。
だが確かに感じていた。
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——これは偶然じゃない。




