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第47話 霊薬素材を求めて


 あれこれ煩悶していても物事は好転しない。こういう時は行動あるのみだ。

(まずは比較的集めやすそうな魔晶石からいってみるか)

 魔力の結晶である魔石が、長い歳月を経て属性を帯びると魔晶石と呼ばれるものになる。

 火の魔晶石を採取するなら火山ダンジョンが最適というライセルトの助言もあり、結界玉観測からの転移扉でやってきたのは竜骨山脈の活火山ザファルトの顎。ここの地下洞窟は大陸有数のダンジョンと化しており、ザファルティアは数多くの冒険者や商人や職人で賑わっていた。人の集まるところに金の臭いを嗅ぎ取り、更に近隣から人が集まってくるのだろう。辺鄙な山奥にこれだけの街ができるのだから、ダンジョン経済侮りがたしだ。

 まずは初訪問地恒例の転移門設置作業に勤しむ。結界玉観測と転移扉の合わせ技で転移門と同等の効果を得られるクッコロではあるが、転移門の魔力効率の高さや転移容量の大きさは無視できなかった。目視範囲への短距離転移術である転移扉は、どちらかというと戦闘時の手札に適している気がする。


 転移門設置作業が終わったところで、情報収集がてら冒険者ギルドに顔を出してみた。

(冒険者ギルドの中にダンジョンの入口あるのね、ここ)

 ザファルトの顎へ入るには事前申請と入洞税の納付が必要らしい。

「申し訳ありませんが、(アルボー)級のソロでの入洞は認められません。(アウル)級以上の方とパーティを組んでいただかないと」

 受付で冒険者証を提示したところそのように言われた。

(むぅ。ミリーナ先輩連れてくるべきだったか)

「どうしても入洞したいのであれば、あちらの掲示板に高ランクパーティがポーターの求人を出してますので、応募するといいですよ」

「ポーターって何ですか?」

「鞄持ちと言いますか、荷物運搬人のことです」

 皇都あたりの金満パーティならいざ知らず、この片田舎では高価な大容量魔法袋を所持する冒険者が稀らしい。小容量の魔法袋はそこそこ出回っているようだが、主に水や食料の携行に使われるという。ここをおざなりにする冒険者は早死にと相場が決まっていた。かくして戦利品を運搬するポーターの需要が生まれる訳だ。

(しゃあない。ダンジョンに結界玉先行させて、転移扉で潜入するか)

 クッコロが思案を巡らせていたところ、たむろする冒険者たちの囁きが耳に入ってきた。

「おい見ろよ。ザディックの野郎、また新しいポーター入れてやがる」

「あいつらが次の犠牲者か。かわいそうに、まだガキじゃねえか」

「ポーターは戦闘奴隷より安上がりで後腐れもねえからな。ダンジョンの中じゃおっ死んでもなかなか死因の調査が捗らねえ。ギルドもパーティの事後報告鵜呑みとくらぁ。胸糞わりぃ話だぜ」

「失敗体験が新人の成長の糧たぁ言うが、死んじまったら元も子もねぇわな」

 彼らの視線の先を追うと、歴戦冒険者といったていの大男が、初々しい駆け出したちに訓示を垂れていた。

(あのちぐはぐな装備の子たちがポーターってやつか。ほんとに子供だな……日本だと小学生高学年くらいじゃないの)

 少年少女たちを前にがなり立てるいかにも一癖ありそうな髭面の男に眉を顰める。掲示板でポーターの求人票をチェックし、受付カウンターで訊いてみた。

「ポーターに応募してみたいんですが。お薦めのパーティありますか」

 受付嬢が資料の束を捲りつつ説明する。

「高額報酬を提示するところは深い階層を往来するので、初心者の方にはあまりお勧めできませんねぇ。お、これなんてどうです。女性ばかりの四人パーティ」

 クッコロが女子のソロなので配慮してくれたのだろう。

「じゃあそこでお願いします」

「承りました。先方に話を通しておきます。午後の八点鐘の頃、こちらのホール内でお待ちください」

(午後の八点鐘って何時頃だっけ? 夕方だったと思うけど。精密な時計ない世界ってやっぱ不便ね。あたしも骨の髄から日本人染み付いちゃってるな)

 受付嬢が激励してきた。

「試用期間をそつなくこなせば、パーティに勧誘されることもあるみたいです。頑張ってくださいね」


(鞄持ちだし、容量大きめのリュックサック調達しとくか。空間収納は秘匿したほうよさそうだし)

 ザファルティアの商店街を逍遥。ダンジョン探索の戦利品か、魔物素材らしき革製品の品揃えが充実していた。

(ポーターってたぶん戦利品持たされるんだよね。嵩張るだろうし、リュックより背負子のほういいかな?)

 という訳で背負子とロープを購入。後は夕方まで適当に時間を潰す。珍しい食材や調味料を買い込んだり、麵料理の屋台を見かけて腹ごなししたりして過ごした。


 冒険者ギルドで紹介されたパーティに引き合わされる。槍士二人、弓士一人、ヒーラー一人というなかなかバランスのとれた編制。 

「クッコロといいます。(アルボー)級です」

「昔の英雄と同名たぁ縁起がいいね。あたしはパーティリーダーのメリンズ、(アウル)級だ。よろしく」

 大柄で筋肉質な女槍士がそう自己紹介。

「覆面したままですみません」

「かまやしないさ。この業界訳ありの奴ぁごまんといるからね。仕事さえキッチリこなしてくれたら何も文句はないよ。パーティメンバー紹介するね」

「パトリシア。(アルゲント)級。武器は弓を使う」

 ぶっきらぼうな女弓士。頬の刃創が印象的。

「あたしはロゼッタ。(アルゲント)級で槍を使う。あんまし似てないけどメリンズの妹だよ。よろしくな」

 姉とはうって変わって小柄で敏捷そうな少女。

「治癒士のエミリー、(アウル)級よ。よろしくね」

 柔和な美人。冒険者のヒーラーは数が少なく、業界では優遇されているらしい。

(アウル)級が二人か。安定感ありそうなパーティでよかった)

「じゃあ今日はもう遅いから、明日朝一で入洞と行こうか。ポーターも雇ったしたんまり稼がなきゃね。――クッコロ、この後どうだい? あたしら軽く一杯ひっかけるつもりだけど」

 冒険者パーティには享楽主義の信奉者が多いので、おしなべて宴会好きな傾向が見られる。まさしくパーリーピーポーだ。

「明日に備えて早めに寝ようかと。寝不足で皆さんの足引っ張ったら事ですし」

「クッコロちゃんはどこに宿とってんの? 懐具合大丈夫なら、あたしらんとこに来るかい?」

「あ、お構いなく。その辺で野宿しますんで」

 野宿の振りをしつつ青の月(アグネート)の屋敷へ転移予定だ。

「ダメダメ! 夜は筋の良くないゴロツキが徘徊してるからね。あんたみたいな非力そうな女の子は、すかさず逢引宿連れ込まれちまうよ」

「はぁ。ではギルド近くの安宿取ります」

 冒険者相手の木賃宿ならそこいらにあるだろう。所持金は潤沢だが、駆け出しの小娘が高級宿でお大尽コースというのも不自然だ。

「ケチって晩メシ抜いたりすんじゃないよ。うちらの商売は体が資本なんだから」

 早速先輩風を吹かせてくるロゼッタ。クッコロは素直に頷いておいた。


 翌朝。メリンズから紐付きの護符を二つ渡された。

「首にかけときな。毒煙除けと熱気緩和の魔道具だよ」

 火山ダンジョンなので、奥の方は灼熱の過酷な環境らしい。猛毒の霧も所々滞留しているという。

(火山ガスは比重重いだろうし、地底深い層は危険そうね。結界はもちろん、転移魔法で換気切らさないようにしないとな)

「エミリー、水と食糧と薬の補充は?」

「問題ないわ」

 ザファルトの顎探索では水分補給が死活的に重要とのこと。熱中症の恐ろしさは冒険者ギルドでも周知されているもよう。

「各自、武器防具の手入れは抜かりないな?」

「あたぼうよ」

「問題なし」

 なあなあで妥協せず、いちいち確認する姿勢に好感を持った。おそらくクッコロへの新人教育の意図もあるのだろう。

(雰囲気もいいし良さげなパーティだな。って、あたしってば素人のクセして何上から目線で論評してるんだか)

「んじゃま、行くか」

「あいよ」

「クッコロはあたしの指示に従ってな。戦闘には極力参加しないでおくれ」

「はい」

「うちは攻略じゃなくて金策メインのパーティだから、もっと肩の力抜いていいよ。四六時中気を張ってたら持ちゃしない」


 入洞税を納め、いざダンジョンへ。小手調べに入口近くを巡回したが、魔物が少ない。

「同業者が多くて獲物枯れ気味だね。仕方ない奥へ行くか」

 途中、二十人ほどの大所帯パーティがメリンズのパーティを追い越していった。

「ザディックんとこだね」

 ロゼッタが激昂した。

「あの野郎! ポーターのガキを前衛に置くたぁどういう料簡だ!」

「よしなロゼッタ。余所の方針に干渉すんのは御法度だよ」

「けど姉貴」

 聞こえていたのか振り返って冷笑する髭面の大男。

「お貴族様の接待じゃねえんだ。冒険者は死線をくぐってなんぼだろうが。俺ぁひよっこどもが一日も早く独り立ちできるよう指導してやってんだ。事情を知らねえ部外者はすっこんでろ」

(うわぁブラックパーティだ……あそこに応募しなくてよかった。あのポーターの子たち大丈夫かな)


 しばらく進むと目に見えて魔物との遭遇率が跳ね上がった。火蝙蝠イグナウェスペやワインゼリーぽいルベルスライム、火蜥蜴サラマンダーといった魔物たちと連戦に次ぐ連戦。

 クッコロは手出しを禁じられているので、後方でひたすら観戦。戦利品の魔物素材をせっせと背負子に括りつけていく。

(連携も手慣れてて強いなこのパーティ。サラマンダーって(アウル)級パーティでもてこずるってミリーナちゃん言ってたのに)


「ここらで休憩入れるかね。クッコロも疲れたろう」

「まぁ、はい」

 ロゼッタがクッコロの尻を叩いた。

「正直華奢ななりで物になるか危惧してたけど、あんたなかなか根性あるじゃないか。あたしゃすぐに音を上げると思ってたよ」

「この分ならうちに加入してもやってけそうだね。どうだいクッコロ、正式加入してみるかい? 水が合わなけりゃいつでも脱退していいよ」

「前向きに考えときます」

 その時、数人の冒険者が息急き切って駆け込んできた。

「逃げろ! アイトヴァラスが出た!」

 血相変えて立ち上がるメリンズたち。

「火蛇が? なんだってこんな浅い階層に」

「ザディックの馬鹿たれがやらかしたんだ。罠を張って深層から釣ってきたはいいが、あっちゅう間に戦線崩壊してとんずらかましやがった。かわいそうに、何も知らねえポーターのガキどもが捨て石にされてるよ」

「ち! みんな、撤収するよ! グズグズすんな」

 冒険者たちの狼狽ぶりから、かなり危険な魔物であることが察せられた。

「そんなヤバめの魔物なんですか? そのアイトヴァラスとかっての」

「あたしら程度じゃ挑んでも餌になるのがオチさ。討伐するなら魔銅(アダマンタイト)級の手練れが何人か必要だろうね」

 ヒーラーのエミリーが頷く。

「私たちに出来るのは、周辺パーティへの注意喚起とギルドへの通報くらいよ」

 深層へ続く通路から少女がまろび出てきた。メリンズたちを見て駆け寄ってくる。

「お願いします、助けてください! ルファートが――あたしの連れが……」

「あんたは確か――ザディックんとこにいたポーターの子だね。奥の状況は?」

「ザディックさんやパーティ主力の人たちは、赤い大蛇に食べられました」

 嗚咽しながら語る少女。冒険者登録しているからには成人なのだろうが、未だあどけなさを色濃く残していた。


 少女冒険者はシルヴィと名乗った。逃げようとして躓き転倒したらしく、あちこち擦り傷だらけだ。

「あたしも大蛇に食べられそうになりましたが、連れのルファートが身を挺して助けてくれました」

 ルファート少年が咄嗟に投擲した短剣。これが火蛇アイトヴァラスの目に刺さり、猛り狂ったアイトヴァラスが必死に逃げるルファートを追いかけまわしているらしい。

(この子の彼氏かな? 彼女守るためにモンスのタゲ取ってマラソン中って、健気だわ……なんとか助けてあげたいな)

 ロゼッタが驚いている。

「不意を衝いて偶々弱点の目に刺さったにせよ、駆け出しの小僧が堅牢なアイトヴァラスの防御を突破するとはね。火事場の馬鹿力ってあるんだな」

「そいつ、将来有望だな。……生き残れたらの話だけどさ」

 シルヴィが両手をついて懇願する。

「お願いします! 何でもします! ルファートを助けてください!」

「お嬢ちゃん、安易にそういう事言っちゃダメだ。悪い大人だっているんだから。姉貴、どうする?」

「……すまないね。手助けしたいのは山々だけど、パーティを危険に晒す決断は下せない」

 下唇を噛んで落涙するシルヴィ。

(まぁそうなるよね……)

 リーダーを張る者が冷徹な判断を下せなければ早晩パーティは全滅の憂き目を見ることになる。

「あの~すみません。こんな時に何ですが、ちょっとお花摘みに……」

「しょうのない子だね。我慢できないのかい? さっさと済ませてきな」


 クッコロは岩陰に隠れるとすかさず転移。アイトヴァラスの位置は結界玉で把握済みだ。

(赤い蛇。こいつか。でかいな……)

 全長二百ケルディほどもありそうだ。アイトヴァラスは今まさにルファート少年を丸飲みにせんと開口したところ。その鼻先に出現したクッコロ。

「めっ!」

 クッコロのデコピンが炸裂。アイトヴァラスの頭部が木っ端微塵の肉片と化し、頭を喪失した胴体がのたうち回った。

(なんかデコピンの威力どんどん増してきてるような……まぁいいや、せっかくだから魔石だけ頂いていこっと)

 転移魔法で摘出すると、ルビーのような魔石が出てきた。内部でかなりの魔力が揺らめいている。

(お? もしかして火の魔晶石かな? このレベルの魔物だと持ってるのか。ラッキー)

 へたり込んで呆然とするルファート少年と目が合ったので、手を振っておく。


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