↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/108

第48話 ベヒモスの生息地


 竜骨山脈はリグラト平原と中央平原を隔てる分水嶺であり、最高峰はザファルトの顎と呼ばれている。この山の裾野にザファルティアの街があった。

 竜骨山脈を迂回すると一ヶ月以上余計な行程を費やすため、多くの隊商や旅人が山越えルートを選択する。よってザファルティアは西方街道の要衝として栄えていた。近年この街の隆盛に拍車をかけたのが、火山ダンジョンの発見だ。富と名声目当ての冒険者やダンジョン産資源目当ての職人や商人にとって、ザファルティアは中継地から目的地へと変わった。


 リスナルの孤児院救国の家を出奔して冒険者となった二人組ルファートとシルヴィは、女冒険者メルダリアの旅に同行してザファルティアまでやってきていた。

「あたしはリグラトの王都セルメスト行くからここでお別れだね」

「いろいろありがとうございます。勉強になりました」

「あんたたち、舐められるから言葉遣いもうちっと崩したほうがいいよ。この稼業、舐められたらケツの穴の毛まで毟り取られるからね」

 孤児とはいえ、救国の家の方針で比較的まともな教育を受けているルファートとシルヴィ。上品とは言わないが、二人の言動には貧民層らしからぬ教養を感じさせるものがあった。

「わ、分かった」

 メルダリアは隻腕だが凄腕の剣士で、旅の途中剣の手ほどきを受けたのだ。彼女もかつては孤児だったらしく、ルファートとシルヴィの境遇に絆されたようだった。

「後進の指導なんて柄じゃないと思ったけど、案外面白かったわ。技術なんて長くやってりゃ自然に身につく。だからまぁ長生きしなよ。焦って危ない橋渡らなくても金は後からついてくる。とにかく生き残ることを主眼に据えて活動していったらいいよ。あたしから餞別に言えることは以上かな」

「肝に銘じておきます」


 メルダリアと別れた後早速冒険者ギルドに出向いて依頼掲示板をチェックしてみたが、駆け出しの二人が受注可能なクエストはお決まりの薬草採取くらいだった。

「木(アルボー)級は金(アウル)級以上の人とパーティ組むか、荷物持ちのポーターに雇ってもらわないとダンジョン入れないみたい。どうする?」

「うーん、地道に薬草採取で下積みするか。メルダリアさんにも釘刺されたし」

 背後から馴れ馴れしく肩を組んできた見知らぬ男。

「よぉ兄ちゃん。俺ぁポーターの口入れ屋やってる者だ。報酬のいい仕事あるんだがどうだい?」

「ん~俺たちこの街に着いたばっかだし、もう少し情報集めてからにするよ」

「そうかい。まぁ気が変わったら声かけてくれ」

 他の冒険者の耳目があるためか、斡旋業者の男はあっさり引き下がった。

「胡散臭さ満点ね」

 シルヴィが評した。

「俺ってそんないいカモに見えるのか。凹むな」

「仕方ないよ。あたしらまだ子供だし」

「もう少し生意気そうな空気醸し出してみるか」

「やめときなって。ヤンチャなのに目ェ付けられて絡まれたら面倒だし」


 当面は堅実に薬草採取に励むことにした。一口に薬草と言ってもこれがなかなか奥深い。採取対象の薬草は数百種類にも及ぶという。その辺の野原に自生している稀少な生薬もあるらしいが、知識がなければ路傍の雑草でしかない。

「これってモーリュ草かな?」

「図鑑の絵と似てるけどどうだろ? とりあえず採取しておいたら。どうせ納品の時ギルドで鑑定してくれるし」

 何日か野外活動しているうち同世代らしき駆け出し冒険者たちと知り合い、情報交換を通じて仲良くなった。

「こんだけ頭数いれば狩りもいけるんじゃね? パーティ組んでみないか」

「ヴィルボアールとか無理だろ。死人出るぞ」

「あれならいけるんじゃないか? 一角兎」

「アルミラージか。あれも気を付けて狩らないと。けっこう事故あるって聞くぞ」

「まあ挑戦してみようぜ」


 駆け出し仲間たちと正式にパーティを組み、採取に狩猟と充実した日々を送り、冒険者稼業も軌道に乗ってきた。そんなある日、パーティ仲間の少年が言い出した。

「金もいくらか貯まったし、そろそろ火山ダンジョンに挑戦したいな」

「俺ら全員木(アルボー)級だし、まだ入れてもらえないぞ」

「銅(キュープラム)級五人以上で入洞許可下りるんだっけ? もしくは金(アウル)級がパーティに一人いるか」

「ポーターって手がある。雇い主のパーティが実績上げた場合、ポーターも鉄(フェルム)級への昇格審査で色を付けてもらえるって話だ」

「ほんとかよ」

「まぁ高ランクパーティの活動間近で見学できりゃ経験にはなるわな」

 評議の結果ポーター求人に応募してみることに一決。ルファートとシルヴィはあまり気が進まなかったが、初めて組んだパーティの和を乱すのも躊躇われた。


「雇い先決まったよ。白金(プラチナ)級のザディックって人のパーティだ」

「ああ、あの髭面のおっかねえおっさんか」

「大丈夫かな? ザディックさんて、あまりいい噂聞かないけど」

「まぁ大丈夫だろ。この街じゃ大手の一角みたいだし。名の通ってる人なら、そうそう理不尽な真似しないだろ、たぶん」

 翌日彼らは認識の甘さを悔やむ羽目に陥るが、全ては後の祭りだった。


「俺たちゃ有望な若手を補充し、ゆくゆくはザファルティア随一のクランを設立したいと考えてる。鉄(フェルム)級への昇格も積極的に後押しするつもりだ。ポーター業は地味な下積みだが、我こそはと思う奴ぁ励んでくれ」

 髭面の大男ザディックが、ポーターとして雇用した駆け出しの少年少女たちを前に訓示を垂れる。

「では出発する」


 深層へと下るうち耐えがたい暑さとなってくる。大荷物を背負っていた初老のポーターが躓いて転んだ。疲労困憊の様子で衣服が汗だくだ。

「ち、使えねえオヤジだな。そんなんだから万年木(アルボー)級なんだぞ。オラ! しゃきっとせんかい!」

 初老ポーターを乱暴に蹴とばすパーティメンバー。

 新人冒険者は青雲の志を懐いた若者というイメージがあるが、逃散農民や食い詰めた流れ者など、意外に高齢な者も多いという。

(しくじったかも。このパーティはダメだ。ポーター頻繁に募集してるって時点で気付くべきだったな。帰るまで何事も起きなきゃいいけど)

 臍を噛むルファート。


 地下広場の一つを拠点にして狩りが始まったが、程なく事故が発生。

「アイトヴァラスだと……くそったれ、なんだってこんなもん釣ってきやがる! サラマンダー狙いだって言ってんだろ」

「すまねえ。釣り役のアホが感付かれちまった」

 腹を括ったのかザディックのパーティが戦闘態勢を取った。しかし、盾役の重戦士が岩壁に叩き付けられ早々に死亡。後衛たちは算を乱して逃げ出し、あっという間に戦線崩壊。

 空腹だったらしい赤い大蛇は、右往左往するポーターたちにも容赦なく襲いかかり食い散らかしていった。

「逃げるぞ、シルヴィ」

「うん」

 血溜まりに滑って転ぶシルヴィ。駆け出し仲間の虚ろな顔の生首に悲鳴を上げる。アイトヴァラスがシルヴィに狙いを付けた様子。

「くそっ」

 ルファートは闘気を練る。メルダリアに夜な夜な叩き込まれた技術だ。

「剣技なんて一朝一夕に身に付かないわ。んなもんより、今はひたすら闘気を練り上げるといい。こっちのほうがずっと実用的だし、大事」

 メルダリアに言われた言葉を心中で反芻。短剣に練り上げた闘気を纏わせ、投擲。アイトヴァラスの目に短剣が突き立つ。苦悶する赤蛇。

「今のうちに逃げろ!」

「けど……」

「近くにいる高ランク冒険者連れてきてくれ。早く!」

 シルヴィの性格からして自分だけ遁走するのを潔しとはしないだろう。だから任務を与えてやれば迅速に行動するはずだ。

「分かった!」

(シルヴィ、生き残ってくれ)

「さて、俺は命懸けの追いかけっこといくか……」


 メルダリア直伝の練闘気。これを全身に巡らすと、飛躍的に身体能力が向上した。まさに目から鱗だった。

(すげえ……俺が俺じゃないみたいだ)

 実のところ今の今まで要領が分からなかったのだが、窮地に追い込まれたことでコツに開眼したのだろうか。

(もしかして逃げ切れるかな)


 現実は厳しい。急な身体強化の反動か、十分ほど経つと突如体が鉛のように重くなった。腕を上げることもままならない。

(ここまでか。ごめんシルヴィ、先に逝く。お前は生きて夢をかなえろよ)

 アイトヴァラスの大口が迫る。禍々しい牙から唾液が滴った。黒い影が視界を塞いだ。

「めっ!」

 黒覆面黒マントの謎の少女がいきなり出現し、アイトヴァラスの巨大な頭を指で弾いた。爆発的な衝撃。生臭い血の雨。

(な、な何が起こった?)

 恐る恐る周囲を確認。アイトヴァラスの頭部は原形をとどめておらず、長い胴体だけがびたんびたんと悶えていた。

(近場に居た高ランク冒険者か? ありえねぇ、あの化け物を一撃かよ……)

 メルダリアの強さも常軌を逸していたが、あの覆面娘はそれ以上かもしれない。

 覆面娘と目が合った。手を振られた。次の瞬間、謎の魔法陣の光を残し、覆面娘が消え失せた。

「ははは……あんなとんでもない冒険者がいるのか。世界は広いな」

 もはや笑うしかなかった。



 幸先よく火の魔晶石を入手したクッコロは、次なる魔晶石の情報を得ようと青の月(アグネート)の禁書庫に転移。とんがり帽子の幼女ライセルトが即座に近寄ってきた。

「あなたここに転移門敷設したの。恐いもの知らずねぇ」

「まずかったですか?」

「私が寝ていたら侵入者と間違われて自動迎撃される可能性があるわ。面倒でも入口の魔法陣から入ってちょうだい。その方が事故を未然に防げる」

「すみません。以後気を付けます。転移門消しときますね」

「別にいいよ、そのままで。何かの役に立つかもしれないし」

 クッコロは空間収納から火の魔晶石を取り出し、ライセルトに鑑定してもらった。

「うん。火の魔晶石で間違いない。次はどれいってみる? 土の魔晶石あたりが採りやすそうだよ」

「土の魔晶石ですか。これもやっぱ魔物から摘出するんですか?」

「そう。ベヒモスから採れるよ。若い個体のはまだ魔晶石化してないだろうから、千歳くらいのが狙い目かな」

(ベヒモスいるんだ……最果て遺跡オンライン(ゲーム)でなら狩ったことあるけど)

「ただし、角三本ある個体は手出し厳禁ね。レクスベヒーモスって上位種でベヒモスとは別物だから。あなたなら狩れないこともないだろうけど、隕石招来(ミーティア)って厄介な魔法使うから、高確率で破局的な災害になるよ」

「それは避けたいですね……で、ベヒモスはどのあたりに生息してるんですか」

 ライセルトは頬に手を添えて考え込んだ。

「昔はリムリア大陸中にけっこうな個体数いたけど、近頃めっきり少なくなったみたいねぇ。遠くない将来絶滅するんじゃないかしら」

「そんな絶滅危惧種を狩るのはなんだか気が引けますね」

「リュストガルトの固有種じゃないから、駆除しても問題ないわよ。元々は、ネイテルがそこら中に穿孔したワームホールから湧いてきた魔物だもの」

「なるほど……」

 ネイテルという魔法使いは魔創神(ヘカテー)の一人らしい。時空に穴を穿つなどというでたらめなことが、果たして本当に可能なのだろうか。

(神ってのも伊達じゃないってことか)

「下界の民は地下迷宮化と呼称してたね。そもそもの原因はネイテルが掘った次元の穴なんだけど、まぁこれは下界の人々には内緒ね」

「吹聴したところで、誰も信じませんよ」

 水晶玉の一つを覗き込むライセルト。

「話を戻すけど、ベヒモスの生息地ね。アカシックレコードによると、アレク大森林とノルトヴァール諸島で百年くらい前に目撃された記録があるみたいだよ。アレク大森林なら木の魔晶石も狙えるから一挙両得ね。こちらはエルダートレントから採取できるわ」

(ん? 今ノルトヴァール諸島って言った? うちの領地にベヒモスなんて怪物が徘徊してるの)

 これは早めに駆除するべきか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人格を共有する双子兄妹のお話→ パラレル・クエスト
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。