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傍観者による冷ややかな一瞥。

※傍観者・観堂の視点

どうしよう。

こんな、こんな事が知れてしまったら…。

もう遅いわよ。言ってらしたじゃない、お友達に話した、と。

止めてよ、私はまだ婚約相手決まってないのよ?


わ、私、何もしてないわ!

私だって!


なぁ、―先輩が川添さんの荷物を…。

俺が見たのは、―先輩だったな。


どうせ一部の人間の話だろう。程度が知れる。


今回のだって、宮成達が…。




カオスです。

宮成生徒会長が迫力美人な御母君と退場し、川添沙希が可憐系お母さんに引き釣り出されて行き、そして透子さんと璃玖君が立ち去っていった会場では、秩序も理性もあったものじゃない、混沌が支配しております。

透子さんの、絶え間なき努力。そんな名を隠れ蓑にした毒は無邪気にも放たれ、璃玖君が笑顔で水撒きと肥料を撒いて芽吹かせて見せた。その上で、宮成夫人と川添夫人が丁寧に収穫作業をして、出荷までしちゃったと来た。

娘の栄誉を自慢するという形で、社交界へと羽ばたいてしまった毒。

もうすでに、止めることも否定することも出来ないところまで、駆け抜けてしまっているんだろうなぁ…。

ほら、他人の不幸は『み・つ・の・あ・じ』って言うし。

途中で分身・分裂、ついでに進化も果たしているみたいだけど。嬉々として超進化だってさせている人は確実にいそうだし。


近い将来に足を踏み入れることになる社交界で、この学園にこの時期所属していたというだけで、私達には多くのチャシャ猫の視線が降り注いでくるのだと、少し考えるだけで簡単に想像が出来る。

それに気づいて一番動揺したのは、一番早くに大人として社交界に出席することになる三年女子。三年男子も、頭の回転が早い人間から、それが女子だけでなく、自分達の結婚にも深く関わってしまう事だと理解した様子。

もうすでに社交界に足を踏み入れている者だっているけど、それはまだ子供として。親の庇護を受けていると、ちゃんと認識されている上でのこと。一個人として好奇な目を受けることになって、最も毒がこの身に染み込むというもの。高校を卒業して、大人への一括り。すぐにでも結婚して繋がりを生み出す対象として注目を浴びせられる大人となった後では、視線の意味も重さも違ってくる。

三年生達はそれを容易に想像してしまって、いや想像よりも酷いかも。確信を抱いてしまったからこその顔色の悪さ。皆、顔が真っ青に染まっている。


ちなみに、私は他人事みたいに思っちゃってますけど、これにはちゃんと理由があるんですよ。

高校卒業後は、ちょっと海外に行く事になってるんです。あっちで大学に入りますし、あっちで就職を狙ってます。社交界に顔を出すつもりもありませんし、そもそも大した家柄でもない我が家は社交界の付き合いはそんなに密なものでもありませんし、家族達もそれを承諾してくれる。

早くて来年には見られる社交界での光景を、直に拝めないのは少し残念だけど。

自分には関係ないから。

卑怯かも知れませんが、慌てふためく皆の姿は私には他人事なんですよね。


暫しの沈黙は、彼等が冷静を取り戻す為のものだったのか、それとも現実逃避のものなのか。

…どうやら、現実逃避の方が多かったみたい。

人間、追い詰められて始めるのが、必殺『人のせい』。それを、待ち構えている現実を拒否して、逃げようともがいて口にする。それはもう面白い程に、出るわ出るわの、オンパレード。


誰々があんなことしてた。

誰だってやってた。

川添沙希に。春乃透子さんに。


育ちのいいお嬢様達の所業だからこそか、そのやったという事のレパートリーは私から見ると、腕を組んで仁王立ち、背後に雷雲とか背負っちゃって「生ぬるいわぁ」と活を入れて指導したくなる程度のものです。

ですが、やられる方も育ちのよいお嬢様なら、効き目はばっちりでしょうね…。

最凶のイビリ経験者な透子さんはどうだったのでしょうか。(その程度のことに)気づかなかった、なんてオチはありそうですね。頭の中がハッピーで多分、ヒロインだからね、で終わらせているだろう川添沙希には、効き目は薄かったとは思われます。


にしても、なんというか、そう…あまっちょろい事を皆して言っていますね。


自分は関係ない?

今の私が言う事ではないですが、んな事ある訳ないじゃないですかって。

まぁ、私が前世において涎を垂らしながら拝見していたアンチ王道系なら、あっそうですね、と壇上で状況を遅らばせながらに理解して青褪めている生徒会の面々を断罪して終わりっ!さぁ皆、あんな奴等の事なんて放って幸せになりましょ?になるんでしょうけど…。

此処は現実です。ゲームな人物達が居る点を考えれば、確かにゲームの世界なのでしょうが。それでも、私達中に住んでいる者達からすれば、ちゃんと時間が流れて、モブに位置する人間にも感情と生活のある、現実ですよ。

少なくとも、私はちゃんと現実だって思ってますよ?

ただ、そこに傍観者として立とうと心掛けていただけ。

それはそれで、被害者の立ち位置にある透子さんからすれば迷惑極まりない、鬱陶しい存在に当たるものなんでしょうけど。


現実だから、めでたしめでたしで終わるにはまだ早い。

ちょっとうっかりさん過ぎませんか、お坊ちゃま、お嬢ちゃま方?


あちらに、春乃姉弟達が立ち去った後も微動だにせずに残っている方がいるのが、目に入りませんか?

あれって確実に春乃透子さんの味方な人じゃないですか?

そんな人が確実に聞いている状況で、そんな重要な情報をポンポン言っちゃいますか?


それにしても、璃玖君ファンクラブの皆さん、そりゃぁ璃玖君が立ち去ってしまって名残惜しいのは分かりますけど、あからさまに落胆の表情にならないで下さい。帰りたいオーラを振り撒かないで下さい。

というか、璃玖君ファンクラブの主だった面々の皆さん、なんで…余裕の面持ちなんですか、恐ろしい。謗り合いとか、罪の擦り付け合いをしろとは言いませんが、将来を悲嘆して青褪めるくらいしませんか?

こうして冷淡に周囲を見回している私も、人から見たら彼女達の同類みたいになっているのでしょうけど。

これは事情を全て聞き及んでいるから。そして、他人事として見ているから。

その上での事ですよ。


本当に誰も前橋先輩を気にもしていないようなんですけど…。


「秋月先生。」


背後から、よく知っている声が。

「鳳凰院。なんだ?」

私の隣には、前橋先輩によって篭っていた部屋から強制的に引っ張り出された秋月先生。

背後から声を掛けてきたのは、私にとっての腐れ縁みたいな、幼馴染の鳳凰院春日ほうおういんかすが。頭が良く、テスト前などにはよくお世話になっている。生徒会長、副会長に次ぐ成績の優等生。生徒会メンバーを選出する際には、多くの推薦を得ていたみたいだが、私情プライベートが忙しいと頑なに拒み立候補はしなかった。でも、立候補さえしていれば当選していたかも、とは幼馴染の欲目。色々と総合的に考えてみるには、親衛隊達が不断の努力を張り巡らせた現・生徒会メンバーの圧勝に少しだけ変化をもたらすだけだったでしょうね。


「あの人が、前橋彰子さん、ですか?」

あれ?


春日かすがは前橋先輩の事を知っていたの?

でも、私が言うのもなんだけど、知る機会なんてあったかな?


あっ、そういえば…春日かすがには兄が居たな。最近では滅多に姿を見ないから、すっかりと忘れていたわ。

鳳凰院の家はよく分からない。

春日よりも六つ年上の長兄が居るのに、跡継ぎは春日ということになっている。

その為に、学業の他に、社交に必要なスキルを学んだり、色々と忙しい毎日を送ってる。お前、過労死って言葉知ってる?と何度聞いたことだろうか。一応、フォローを入れておくと、鳳凰院の御両親との交流もあるのだが、彼らはそこまでやれと春日に言っていない。一つのスキルを学び終えると、さぁ次だと勝手に予定を入れてくる春日に、注意を入れるくらいだ。

六つ違いって事は…、もしかして春日の兄である飛鳥さんって、前橋先輩と同時期に学園に居ました?

あれ?あれれ?

えぇっと…興味が引かれて頑張って調査した前橋伝説によると…名前が明らかにならない事例が一つ…あったかな?確か、停学の末に自主退学で、留学した男子生徒が一人。何を仕出かしての停学なのかも、探ることが出来なかったのが少し悔しいですね。


「そうだ。変な事をするなよ、鳳凰院?」

「兄みたいに、ですか?」


加えさせて貰うと、秋月先生みたいに、ですよね?

そうか、あれは春日のお兄さんだったのか。

何をしたんだろう?

前橋先輩が在籍中にも、乙女ゲームのヒロインが現れたのは聞いている。

というか、そっちのゲームも全てやりましたとも。その時も、秋月先生が攻略対象に入っていれば奮闘し、入っていなければ二次などで補給しました。

まだ小学生だった頃、飛鳥さんにはちょいちょい遊んで貰った記憶が残っている。あの感じからすると、不良な一匹狼系?

っていうことは…。

あらぁ…、何か、しちゃいましたかぁ…。


あちゃぁと、声に出す事は流石にしませんでしたが、顔には堂々と出ていたようです。

二人で何か小声で話をしていた秋月先生と春日が私の顔を覗きこんで、何してるんだ、と怪訝な顔をしている。

いやぁ~春日はどうでもいいけど、秋月先生にそんな目で見られると、必死に押さえ込んでいた憧れの願望が甦ってきちゃうじゃないですかっ。


「ねぇ~知ってるぅ~?」


「ひっ」

ビクっとしました。

秋月先生も小さく息を呑んで、引き攣った悲鳴を上げました。

その普通ではない、異様なイントネーションの言葉に、ザワザワと騒がしかった会場に沈黙が落ちました。

中にはそれに聞き覚えのある生徒さんも居るようですね。


正真正銘の良家の御令息・御令嬢たる者、低俗なるテレビなど目にしないものらしいですが。

前橋先輩の、とあるCMの緑色の奴の口調を真似したそれに、反応を示した方達の中には良家の方もいらっしゃる様子なので、それは都市伝説だったみたいですね。まぁ、それはそうでしょうね。例え低俗だったとしても、そこには世間の考え・流行・動きが出ているだもん。良家ということは将来人の上に立って、人を率いて世間の荒波を乗り越えていく立場。世間の事を知っていない人間が出来ることでは無いでしょうね。


「自分は関係ないのに、なんて本気で思っている訳では無いでしょうに」

皆どうしてそんな冗談を口にするのかしら、と前橋先輩はフフフッと会場中に通り抜ける声で高らかに笑う。


冗談ではない。

冗談ではなく、本心からそう思って口にしていた皆が、息を飲んで口を閉じる。そして、ニィと意地悪い笑みを浮かべて視線を周囲の生徒達へと突き刺して回る前橋先輩を怯えた様子で注目しました。


「あら?あらら?まさか、本気で?いやだ、優秀なこの学園の生徒である皆様方が、まさか本気で関係無いなどと信じていらっしゃるの?」

今度はにっこりと優しささえ見える笑顔を浮かべて、前橋先輩は一瞥する。

それでも、誰一人として口を開ける者はいなくて、前橋先輩の言わんとしている事に気づき始めた一部の生徒達から目を逸らす姿を晒し始めている。


「無関係なんて言葉、この会場に居る人間が、いえ学園に在籍している以上は使えないの。そんな簡単な事に気づける生徒が、まさか居ないなんてことはないでしょうね?」

事を起こしたのは、生徒会なのよ?

そして、今度は笑みを一切消した真剣な面持ちで、そんな言葉を言い捨てた。

生徒会、その存在の意味とその成り立ちを理解していれば、前橋先輩の言葉の意味に気づけないなんて事は無い。






「春乃様達が立ち去られた後、あの会場は喧騒に包まれておりました。舞台上に残された生徒会の方々はさすがに、息を潜めて気配を消すようにしておられましたが。生徒達は皆、口を閉ざしているのは難しい心境だったのでしょう。ですが、口につくのは自分ではない誰かを、生徒会に川添様、そして彼等を取り巻くことで名と顔を表立たせた生徒達を責める声ばかり。口を閉ざしていた生徒達も目が、そうじゃないか、と語っておりました」

まさか、あの会場での話を事細かに透子さんの耳に入れる訳にもいかず。

私と同じ考えなのか話を少し濁して口にしている春日にあわせ、私も話を要約して少しだけ濁して、相対している透子さんと、隣で訝しげな顔をしている璃玖君に聞かせます。


いやいや、それにしても『若さゆえの過ち』が璃玖君の耳にまで届いていたとは。

とっても恥ずかしい。

そのおかげで、前橋先輩にも出会えたし、先生との未来がお先真っ暗にならなくて済んだから、結果オーライではあるけれど。

うん。海外逃亡を決めておいて、本当に良かった。


一生徒だったなら、話は違ったのに。

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