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あの後の嘲笑

ねぇ知っている?


私達が去った後にただ一人で残られた会場で、彰子姉様がザワめく空気をその言葉だけで切り裂いてみせたのだと、鳳凰院様は語り始めました。


「"無関係なんて言葉、この会場に居る人間が、いえ学園に在籍している以上は使えないの。そんな簡単な事に気づける生徒が、まさか居ないなんてことはないでしょうね?"。彼女のその言葉の意味に、すぐに思い至れた人間は残念なことにいなかった。私も含め、誰も彼もが他人事として目を逸らしていました」


「春乃様達が立ち去られた後、あの会場は喧騒に包まれておりました。舞台上に残された生徒会の方々はさすがに、息を潜めて気配を消すようにしておられましたが。生徒達は皆、口を閉ざしているのは難しい心境だったのでしょう。ですが、口につくのは自分ではない誰かを、生徒会に川添様、そして彼等を取り巻くことで名と顔を表立たせた生徒達を責める声ばかり。口を閉ざしていた生徒達も目が、そうじゃないか、と語っておりました」


どうしよう、と言う声が一番多く渦巻いたのだと、観堂様が憂いの表情で仰いました。


どうしよう。

こんな話がOB・OG、社交界に知られてしまったら。婚約者に知られたら。

自分は何もしてないのに。

あの人が愚かな事をしているのを目にした。

いや、あの人も。

こんな事になったのは、あの人のせいじゃない。


いや、全部全部、川添沙希のせい。いや、生徒会のせいで。


会場の中でそれぞれの囀りは段々と大きくなった。そして、それは最後には一つの、大きなさざめきになった。

こんなサプライズを行ったのは生徒会じゃないか、と。


「春乃様が蒔かれ、璃玖様が芽吹かせた"毒"は、あの短い時間に充分、あの場に居た全員の中で育まれていた

、ということになりますわね」


毒。

それは彰子姉様が私に与えてくれた、私の行ってきた努力によって絶大な効果を示せることになった、問いかけの形をとった糾弾。

でも、それを言い表す表現の仕方を知っているということは。


「本当に観堂先輩は、彰子姉さんと親しい間柄なんですね」


その言い方を知っているという事は、彰子姉様と本当に親しいお付き合いをなさっておれれると言うことなのだと、璃玖が口にした考えと同じ事を私も思ったのです。

下手な方に知られては、もしかしたら漏れ出てしまうかも知れない。漏れ出てしまっては、折角彰子姉様が考えて下さった事なのに、無用の長物に成り果ててしまうでしょう。それを御存知ということは、それだけ彰子姉様に信頼されているということ、なのではないでしょうか。


「えぇ。前橋先輩には、とても良くして頂いております。特に、恋愛相談に何時も親身になって乗って頂いておりますの」


「恋愛、ですか?」


意外、と言っては観堂様にも彰子姉様にも失礼かも知れません。ですが、彰子姉様と恋愛という言葉がなんだか結びつかなくて。そして、年も離れて接点が無いように思える観堂様と彰子姉様が?と思うと自然と首が傾いでしまっていました。


「恋愛って、」


どうして、でしょうか。璃玖や鳳凰院様の表情が何だか優れないような。

「…姉さんは知らないだろうとは思ってたけど、本当に知らないんだね」

「まぁ、知られているとは言っても、一部の間でのこと。春乃さんが知らなくても構わないことだと、私は思うが」

「あぁ、そうですね。あのかわぞえさきも知らないみたいでしたし…。知らない人は知らないんだとは思います」

二人の会話を耳にした限りでは、観堂様の恋の話は学園では有名なものなのでしょうか。

「お恥ずかしいことに、まだ恋に浮かれていた頃に盲目的な行動を少々。…それを止めて下さったのが、前橋先輩だったのです」


「少々?」

「…」


頬を染められて目を伏せて見せられた観堂様は、その御容姿も相まって、女である私から見えてもとても可愛らしく思えました。

ですが、そんな観堂様を横目に鳳凰院様は憮然とした表情で言葉を発することもせず、私の隣に座る璃玖など疑問の声を無遠慮にあげて、鳳凰院様と同じ表情を浮かべていました。

一体、私が周囲に目を向けていなかった間に、学園ではどんな騒動があったのでしょうか?


なんだか惜しいことをしてきたのだな、と思います。

思い返せば思い返す程、学園での思い出というものがありません。

体育祭も文化祭も、学園で催されたイベントに参加はしてきた筈です。なのに、私にはそれらを思い出そうとしても、はっきりと思い出せる記憶が無いのです。

そんな余裕が無かった、ということなのでしょう。

でも、それがとても寂しく、悲しく、そして悔しく思います。


後半年程。

私に残っている学園での生活は、後半年しかありません。

ダンスパーティーをやり直す、直さないを別にすれば、夏休み明けに行われる最後の体育祭に、十二月に行われる最後の文化祭。これ以上の悔いが無いように、それらを思う存分に楽しめれば、と今は思いを馳せるしか出来ません。


「前橋先輩と初めてお会いした時にお叱りを受けてしまったのです。"人がこうである、こうでなければなどと決め付けず、そして自分の思いを押し付けようとしないこと"と。それによって目が覚め、少々暴走気味だった自身を自制することが出来ましたの」


今は付かず離れず、あの方が私の事を目に入れて下さる時をじっくりと待っている所なんですの。


そう言って微笑まれる観堂様のように、恋というものを出来れば。そんな今日の今日で気の早い事を、ついつい考えてしまいました。


「後半年。私は卒業までの残された時間を有意義に過ごしていこうと思っております。ですから、」


彰子姉様の指摘をしかと受け止めて、残りの学園生活をこれ以上の悔いの無いものにしたい。観堂様はまるで私の心を読んでいるかのように、私の思いと同じことを口になさいました。


「細かい話はこれから話し合っていくことになります。その為にまずは今日、春乃さん達が去られた後に、決定しておくべき事を決めました」

それもまた、彰子姉様の指摘によって思い至ったことだったと、鳳凰院様は表情を一瞬ではありますが曇らせました。

「決定しておく事、ですか?」

「生徒会の解任と、臨時の生徒会の発足です」


これだけの事をした生徒会を、そのまま任に就かせて全てを任せたままなわけ?


その時、彰子姉様がわざとらしく浮かべられたのは、嘲けるような笑みだったそうです。

でも、それも仕方無いことだと仰いました。彰子姉様に言われるまで、誰一人として文句や恨み節を口にするだけで、そんな事を口にしなかったのだから、と。


「役者不足ではありますが、私が臨時に生徒会長を務めることになりました」

副会長には鳳凰院様の気心も知れている、そして成績からいっても順当な方が。書記には情報処理の観点から情報処理部部長が。会計には数学研究同好会会長。それぞれに、臨時としてもそれをこなす事が出来るだろうと思われる方々が務めることになった。

生徒会が任期の途中で解散する、という前例の無いことに対処方法を記したものがなく、彰子姉様の指摘を受けても戸惑いが広がるだけだったそうです。それでも、滅多に口を挟まむことのない先生方の意見を交えながら、あの場に残った生徒全員に意見を促し、それらを考慮した。その結果が、先生方の意見と生徒の意見で務まるだろうと思われる生徒を生徒会とし、これまで以上に各委員会、各部活・同好会、そして生徒全員が協力することで残り半年-次期への引渡しなどを考えれば実質それ以下の期間-を乗り越えていこう、というものだったのだそうです。


それで構わないだろうか、とあの場に居なかった私や璃玖に鳳凰院様はお聞き下さいました。


構いません。

むしろ、自分の良い様にことを運ぶ為に、あの場を使った私に意見を言う権利などないのだという言葉を、心中に収めて、私は頷きました。


「ありがとう。なら、私達が中心となって、この後の後始末や取り決め、運営をしていきたいと思う。…出来ることなら、夏休み明けには今回の件については全て終わらせるつもりだ」


「…僕に出来ることがあったら、協力します」

療養が必要な姉とは違って時間がありますから。

璃玖のその申し出に、観堂様は苦笑を落とされ、鳳凰院様は首を横に振られました。

「いや。次期生徒会の為にも、君の協力は仰がない方がいいと思う」

「えっ?」


「"毎回毎回、生徒会を何の基準でこの学園の生徒は選んでいるのかしら、ね?それでよく、問題が起きなかったものだわ。いえ、ただ記録として残っていないだけかしら"。これもまた、前橋先輩の言葉でした」


ですから、璃玖様にはあまり出てきて貰いたくありませんの。

ごめんなさい。


どういう事なの、でしょうか?

生徒会を選ぶ基準?

それはしっかりと、生徒会選挙で。…でも、そうですね。なんとなく、観堂様が教えて下さった彰子姉様の言葉の意味が理解出来たような気がします。立候補される方は宮成様以外にもいらっしゃいましたが、論外としか言えない、まったく相手にもしていなかった。それは、他の方々も同じだったと記憶しています。


「勿論、璃玖様の親衛隊の方々は、他の方々の親衛隊とは一線を画しているのは存じておりますのよ?」

「そうじゃなきゃ、とっくの昔に解散させてるよ」


「親衛隊?まぁ、璃玖にも?」


学園での事に全く目を向けていなかった私ですが、親衛隊、ファンクラブと呼ばれる集まりがあることは存じています。宮成様にも、そういった方々がいらっしゃって、少しではありますが御意見を頂いたりなどしましたから。

でも、璃玖にも居たのだということは、本当に知りませんでした。

…少しだけ、家族として嬉しく思いますわね。


凄いのね、と言おうと璃玖に目を向けましたが、顔を背けられてしまいました。


「璃玖様の親衛隊は、とても統率が取れていると有名ですわ。璃玖様が生徒会入りを望まないとしるや、璃玖様を生徒会にと推薦しようとする方々を、力強くきょ…説得して回ったほどですから」


中等部、高等部で一括りにされることが多く、その為に中等部三年の冬の時点で高等部の生徒会入りを推薦、確定することも少なくありません。宮成様達も、そうでした。璃玖はそれを始めから拒否していたのだと、観堂様の説明が教えて下さいました。

『芋ほり』に関しては次回ということになりました。




前回の焼き芋に御意見くださった方がいましたので、ちょっと。

私の地元はゴミを燃やそうが怒られない田舎なので、やろうと思えば勝手にやればいいのです。

が、何だか御節介に何でもかんでも通報したがる人がいまして。

例としましては、田んぼのど真ん中に引越してきておいて、稲刈りの音と巻き起こる埃が迷惑、というものなど。

凄い人がいるもんだ、と思う次第です(笑)


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