悪役令嬢
--悪役令嬢--
あらすじ:婚約者様は悪役令嬢だった。
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ホアード様のお屋敷に有る桟橋で釣りをする。
こんな所で釣りをする人が居ないのか、魚影はたくさんある。一応、お貴族様のお屋敷だし、普通は釣りなんかしないか。
すでに私の隣にあるバケツにも何匹か泳いでいる。
ここは要塞のようなお屋敷で、使用人の数も多くない。
お屋敷には砂浜と桟橋が有るだけで、隠れ家的と言えばかっこいいけれど、見て回るようなものは何もない。
そして、その砂浜では兵士の人たちが訓練をしている。使用人より兵士の人の方が多い。
ヒマだったので何度か訓練に混ぜてもらったけど、砂に足を取られて動きにくい。だからこの場所で訓練をするのかもしれない。
兵士の人との模擬戦は…、負けましたよ。
やっぱり本業の人は違うね。
ククン
釣り竿が引っ張られる。魚がヒットしたみたいだ。
リールなんて無いので、釣り竿を持ち上げて魚を釣り上げる。
少し大きめの鈍色の魚が釣れた。目元が黄色くなっていて愛嬌がある。
うん、こいつをメインにしよう。
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「今日は、私が料理を作ってみました。どうぞ、ご賞味ください。」
「うう、昨日の仕返しのつもり?」
今日のお客様はもちろんマリアナちゃん。
テーブルにはナメロウを乗せたバケットと、アラ汁スープ。それにさっき釣ったばかりの鈍色の魚のカルパッチョを用意した。お昼だし軽めにね。
ちゃんと食べられる物を用意したんだよ。
「いえ、昨日のお料理が、あまりにも私達の文化と違いすぎましたので、もう少し私達の食べ物を理解してもらおうと思って用意しました。アレンジしてあるので食べやすいと思いますけど。」
「生魚が有るじゃない。昨日貴女が食べていたモノでしょう?」
カルパッチョを指して文句を言われる。
「いえ、白身の魚のカルパッチョです。魚の身をお酢と植物油で和えた品になります。昨日のように刺身で食べるより魚臭さが消えて、さっぱりと食べられますよ。それに彩の野菜と一緒に食べると、より美味しいと思いますわ。」
淡々と答える。
鈍色の魚は意外な事に淡白な白身だった。青魚だったらもっと魚臭さを取るためにマリネにしてたんだけど。
「パンに乗ってる茶色いのは何よ。魚の内臓とかね?」
「それはナメロウと言う料理です。大聖女オヨネ様が伝えた調味料の味噌が茶色く見えるんですよね。生魚のみじん切りと香辛料と味噌を和えて、包丁で叩くと程よい粘り気が出てくるのです。本来はライスに合わせて食べるのですが、焼いたパンに乗せられるようにアレンジしました。」
ナメロウに入れるなら大葉が良かったんだけど、無かったので調理場に有った適当な香辛料を入れてパンに会うようにしてみた。なかなか美味しくできたと思う。
「こっちのスープは骨しか入っていないじゃない!」
「アラ汁と申します。魚の骨を炙って香ばしくして長ネギと一緒にダシを取っています。本来は味噌だけで味付けをするのですが、パンに合わせて少し香辛料を入れてあります。あと、骨は残してくださいね。小骨は入っていないと思いますけど、喉に詰まるといけませんから注意してくださいね。」
しまった、骨は抜いておけば良かった。スプーンで食べるには骨はちょっと邪魔だ。
「こ、こんな野蛮な物、私が食べると思うの?」
「昨日の私の食事よりは手が込んでいると思いますけど?」
「やっぱり、根に持っているんじゃない!」
私の挑発に、最初は自棄になっていたマリアナちゃんだったけど、美味しいと判るときちんと食べてくれた。
完食してくれました。
そう言えば、お貴族様の料理を味わって食べたかったんだっけ。忘れてた。
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「それでね、次のお店にはかわいい人形が有るの。小さい頃にずっと欲しくって、でも、お忍びで遊びに出ているでしょ。お金なんて持ってなかったのよ。」
そう言うマリアナちゃんのブロンドの髪には小さな花のカンザシが差してある。
私が贈った。
クリスタルの魔法で、ちょちょいっとね。武器屋をやめてアクセサリー屋になった方が儲かるんじゃないかな。猫耳猫尻尾も売れてるし。
「でね、そんな私のためにヴィルがお金を作ってきてくれたのよ。」
マリアナちゃんの惚気は続くらしい。
でも、やっと王都の街を歩くことが出来る。
アラ汁も丁寧に食べてくれたマリアナちゃんに、花のカンザシを贈った。
「貴女の髪に似合うと思って作ってみたの。私達の故郷の髪飾りよ。」
濃い目の緑のクリスタルで葉っぱを模して、オーロラ水晶の花をあしらってみた。
デレた。
「貴女の事を誤解していましたわ。ぜひともお礼をさせてくださいまし。」
「それじゃ、王都の街を案内してもらえないでしょうか?初めて見る街ですし、ミル君へのお土産も買いたいですわ。」
「そうね、せっかくだから、久しぶりにお忍びゴッコをやりましょう。貴族の商店より、庶民的なお店の方が良いでしょ。その方が普段使いに使いやすいわ。うふ、男の子に贈り物ね。良いわね!」
私に男の気配を感じたら余計にデレた。
数日の間。2人で港を見たり、景色のいい所へ連れて行ってもらったり、お土産物を見たり、貴族相手の店も見せて貰った。
ゴッコなので、ちゃんと護衛の人も隠れて付いて来ていたよ。
そして、領主様の娘さんのヘランちゃんも加わって遊んだ。
楽しかった。
お土産は…。
移動に時間がかかる世界なので観光なんてほとんどないんだよ。馬車しか無いし。王都まで来ても必要な物だけを買って帰る。
食べ物なんて帰り着くまでの保存が大変だし、かといって重い物は持ち運びに不便じゃない。
ご当地グッズなんて無かったわよ。
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次回:長々と待たされて、やっと『謁見』




