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とりあえず逃げている。
役所内をあてもなく逃げている。
俺を追いかけているのは先ほどのお姉さん。
お姉さんの名前はビレンという。
怒り心頭で俺の声はもう届いていない。
この役所で様々な問題を対処するのがお仕事だそうだ。
例えば、俺みたいな突然現れる人間とかの対応らしい。
いわゆる取り調べというか、身分を保証するための手続きをしてくれていた。
これで街の中で仕事をすることができるようになるそうだ。
ところで何故俺が追われているか。
些細な一言が原因だった。
色々聞き取りされ、俺も質問を返していたくだり。
「えっ、この世界って15歳で成人ですか。だったら、29歳で独身って終わってないですか?」
「お前殺す」
そう言ってビレンさんは剣を片手に俺を追い回し始めたのだった。
言ってはいけない一言だったらしい。
そうこうしているうちに俺は追い詰められた。
両手をあげて降参をアピール。
「ごめんなさい、悪気はなかったんです」
「とりあえず刺す。後で治してやる」
有言実行されました。
剣が刺さるとあんなに痛いものだと思わなかった。
刺さった場所が痛いというより熱い。
のたうち回っていると。すぐにビレンさんが治癒魔法をかけて治してくれた。
痛みも傷もなくなり、ここが魔法のある世界だと改めて知ることになる。
それから話の続きということで、俺はこの世界のことについて聞く。
分かったことは、この世界に魔王がいること。
ただし、それは魔族としての王なだけであって、他種族に侵略行為をしてはいない。
魔族も人間と変わらぬ文化構成で平和に暮らしているそうだ。
この世界には多様な種族がいる。
人間に近い亜人族、エルフやドワーフもこれに当たる。
獣に近い獣人族、俺を追いかけてきた熊男なんかがこれに当たるようだ。
それから亜人族とも獣人族とも呼びづらいものを魔族と呼ぶらしい。
あまりにも種類が多いので、魔族と総称してカテゴライズされているらしい。
ちなみに言語による意思疎通が不可能なものは動物扱いだ。
牛や豚、羊、鶏、といった家畜類、犬や猫といった愛玩動物も普通にいる。
それとは違うカテゴリーにあるのが魔物だ。
性質が凶暴で腹がへってるわけでもないのに、他の生き物を殺そうとするらしい。
この世界の種族が共通の敵と名を挙げるのが魔物だそうだ。
魔物の強さは千差万別。
最強種と言われるドラゴンを始め、最弱種と言われるゴブリン。
それこそ国を挙げての軍隊でないと退治できない魔物から、少し剣を覚えれば一対一ならば負けることはないというレベルの魔物が存在するらしい。
俺が知っているモンスターの名前が出てきた。
どうやらゲームの世界で知る名前がこの世界でも使われているようだ。
俺は技術もなく、この世界の知識もない。
仕事をしようにもはっきり言って役に立たない。
期待していた秘められた力とか能力は授かっていない。
では、この世界でどうやって生きていけばいいのだろう。
「しばらくお前みたいなやつを集めた住居に住んでもらう」
ビレンさんがそう言った。
「私が管理しているところだ。現在三人が住んでいる。そこでこの世界で生きていけるように学ぶがいい」
「あの、元の世界に戻るにはどうすればいいかご存じないですか?」
「他の三人も似たようなことを言っていたが、私に分からんよ。お前たちがどんな手段でこの世界に降り立ったのかも、お前たちが言う元の世界の文化とかも私には分からん。なにせ住んでいた世界が違うのだからな」
思い返しても、俺は普通に部屋で寝ただけだ。
起きたら、正確には、気が付いたらこの街で立っていた。
誰にも会ってもいないし、何かの事故で死んだわけでもない。
「よし、それではステータスカードを渡すぞ。この水晶とカードにそれぞれ手を置きなさい」
ビレンさんは一枚のカードと片手に乗るような大きさの紫水晶を取り出した。
言われるがまま、右手をカードに、左手を紫水晶に乗せる。
紫水晶が発光し、それに伴ってカードも発光した。
光が収まり、ビレンさんがカードを見せてみろと言ってきた。
知らない文字なのに何故か読めた。
ステータス
名 前:斑目優日
職 業:?
年 齢:16
レベル:1
筋 力:1
知 力:1
敏捷力:2
体 力:1
幸 運:1
スキル:逃走[1]
「私が見た中で一番低いな」
悲しすぎるステータスだった。




