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#01:手のひらに刺さった棘(3)

「……」

「道ノ上くん、どうしてこんなことをしたの? 人として間違ってるって、わかるよね? 誰だって、殴られたり蹴られたりしたら痛いよね?」


 職員室。

 俺はいま、担任である和田先生による詰問を受けている。

 あの直後だった。ごく普通に、現場を押さえられてしまった。


「別に」

「別に、では済まないのよ? あなたは暴力をふるったの」

「あいつらだって」

「道ノ上くん。今はあの子たちは関係ないの」

「和田先生。あいつら、篤から金を取ろうとしてた。いじめ、いや違う、いじめなんて言葉でごまかしていいものじゃない。犯罪じゃないかよ。俺は、それを止めようとした……だけなんだ……それに」

「……いいのよ? 道ノ上くん。なにかあるなら言ってみて?」

「あいつら、普段は先生たちのこと馬鹿にしてるくせに、いざとなったら被害者面して、助けを求めて……恥ずかしくないのかよ」

「……道ノ上くん。どんな理由があっても、悪いことは悪いことなの。必ず見つかるのよ。空の上からお天道さまが見ているから。そういうものなの。だから、どれだけ隠そうとしても見つかるし、罰があたる」

「……」


 歯軋りを隠せない。

 ギリ、ギリリッ、という音が漏れている。


「伝え方が悪かったわ。あなたのことを咎めてるんじゃない。あの子たちが神部くんからお金を取ってること、先生、気が付いてたよ。だから、さっきだって、君たちがあそこから居なくなる前に、先生たち辿り着いたよね。間に合ったよね。『なにをしてるの』って、怒鳴っちゃったよね」

「……すいません、でした」

「もうしない?」

「それは……」


 ガタガタ……ガタンッ!


 衝撃音。

 職員室の扉があまりに勢いよく開かれたことによる。

 凄まじい剣幕とともに由香里が入ってきた。近づいてくる。


「馬鹿ッ!!」


 俺の頬面を、張り飛ばした手のひら。

 ……頬に血の感覚が滲む。

 

「ねえ……どうして……?」


 力なく、俺の両肩を掴んで吐息を漏らす。


「どうして、いつもそんなんなの? だから、わたしたち、いつまで経っても溶け込めないんじゃない! もう……3年目なんだよ? ここにきてから」

「悪い」

「悪い、じゃないわよ……あやうく、本気で殴るところだった」

『お前の本気で殴られたら、あの山の向こうまで飛んでいってる』


 言いかけて、思い留まる。

 職員室は、静かなような、騒がしいような――教育委員会、という言葉が聞こえた。


「……」


 その拳が、肩口を、トンと叩く。

 由香里と視線が交わった。


「いい? 合わせて。何も言わなくていいから」

「……」


 由香里が、この光景を眺めている教職員の方を向く。


「この度は、ご迷惑をかけました。謝罪します」


 90度の立礼。静まる、職員室。


「ごまかしません。こちらの道ノ上渉は、特殊概念能力、いわゆる概念力(ノーション)を使いました。神部篤くんも使おうとしました。不安と不信を与えてしまったことを反省し、二度とこのようなことをしないと誓います」


 職員室は、静かだ。


「だから、だから、もう一度だけ、もう……一度……だけ」


 泣き出してしまう。和田先生が止めに入る。


「もういいのよ! 汐町さん。あなたは……もう、十分だから」


 抱きすくめるとともに、和田先生は、職員室全体をぐるっと見渡して、


「……聞いてください。ご承知のとおり、この子たちは保護者の懸命な判断により……」


 それからも話は続いたが、てんで聞き取れなかった。

 目覚めたまま、意識は、ただひたすらに落ちていく。ひたすらに、闇へと。

 ああ、いやだ。こんな感情、もういやだ。こんな気持ちにならないためだったら、なんだって、どんなことだってやってやる。やってやるよ――この気持ちは、確信だ。

 (第1話、終)

2年振りに新作を上げることができました……!

作品は完成しています。

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