小遣い稼ぎ?
「ジィルさぁぁぁぁぁーん!!!」
話しが違うじゃねえか!このやろううううううう!!!!
私はジルさんのあのスキンヘッドを思い浮かべながら唸っていた。
任命書を握り締めながら。
「ジルさん、小遣い稼ぎってやっぱり、掲示板とかに依頼内容が記してあってそれをクエストしたり、解決したり、届けたりするやつですか?」
ほら、よくあるじゃんゲームで。
数ある中から自分に出来そうな依頼をこなして賃金稼ぐやつが。
「ん?・・ん、んん、そうだなぁ。まぁ、お前だから、そういう依頼もくるんじゃねえか?」
「?」
「とりあえず、事務官に登録しに行くぞー。登録しねぇと何も始まらねえからな!」
「はい!」
「心配するな!来た依頼でどうしても嫌なら断ったっていいんだからな!」
「はい!」
とかいって、登録して一週間後。
事務官から任命されたのはセルフィス隊長の小間使いの役職だった。
おおおい!
聞いてねえよ!
ジルさん曰く。
誰も雇わない事で有名なセルフィス隊長の小間使いはお前にしか出来ない!という。
なんでだ!
何でだよう。
「セルフィス隊長の小間使いに任命されましたー。」
と事務官が伝えに来た瞬間「断る!」と叫んだにも関わらず、やることになっているのは破格の賃金だったからだ。
では何故誰もやりたがらないのか。
謎だけが残る。
隊長に任命されてからの空席の隊長小間使い役。
何それ、怖すぎる。
でも、給料はいいんだよー。
この賃金の高さ。
どんだけあの隊長金持ちなの。
見習いのアルバイトの仕組みは事務官にアルバイトしたいでーす。とプロフィールを提出。
で、それらを見た依頼主がこの人にこれを依頼してくださーいと、依頼内容を事務官に提出。
事務官が見習いに交渉し、OKを出せば交渉成立。
という仕組みなので、1日の依頼もあれば1週間の依頼もある。
ちなみに隊長の小間使いは1か月契約で、その後の働きっぷりで延長等があるらしい。
他の先輩方にも、もちろん小間使いの役を承っている見習いもいて師弟関係の様になるので、憧れている先輩方には見習いから直接小間使いにしてください!という直訴もあるらしい事を後で聞く。
なんで、隊長は私に小間使いの役を任命したんだ。
っていうか、意外に隊長人気はすこぶる良い。
のだから、もちろん小間使いに任命してください!の依頼だって絶えなかっただろうに。
何故に私なんだ。
と、思うが怖くて聞けない。
というか、聞く事がもう面倒くさい。
聞いた途端に説教されかねないよね、あの隊長。
まぁ、いいさ。
仕事をこなしてお金がもらえるんだ。
世の中、金。である。
で、私は今隊長の部隊の方々の制服をじゃぶじゃぶ桶で洗っている所である。
足で。
ふみふみ。
もちろん、ついでに自分のも。
これ、踏んで洗っていいのかなぁと思っていたら、他の方々も足で踏んで洗っていたのでこれが正規の洗い方らしい。
ふ。
隊長をも踏みつけている私。
ふふ。
洗濯も大分慣れてきた。
最初は他の小間使いの方に教えてもらいながら見よう見まねで大変だった。
隊長の小間使いに任命されたニュースはその日のうちに魔道士の皆さんに知れ渡り、隊長の部隊の人らしい方々からは「金剛、お前!女神!」という手厚い歓迎を会うごとにされた。
とある隊員は泣いて喜んでいたという。
なにそれ、怖い。
どんな事するの、小間使い。
と、思っていたら本当、何のことはないお手伝いさんみたいな事をするだけだった。
ただ、隊長の部隊の方々は隊長に小間使いがいないものだから、己に小間使いなど雇えぬ!という理由で今まで雇えなかったそうで。
必然的に隊長の直下の部隊の方々は(錚々たるメンバーにも関わらず)小間使いにさせてもいい洗濯やら掃除やらお使いやらを自分でしなければならず泣いていたのだという。
ということで、私が小間使いに任命されてから彼らも小間使いを雇う事が出来、日々の暮らしが楽になったらしい。
それでも雇ってない隊員の分は今のところ私が洗ったりしている。
…まぁ、だから賃金が高かったのかとも思う。
何人分かの仕事をこなすから給料も高かった。という事だ。
その所為で、ここの所とても忙しい。
1か月後の応用講義の試験も多々あるというのに。
洗濯しながら書籍を空中に浮かせ読んだりしている所だ。
踏みながら、ふと思う。
…これ、洗濯機で洗いたい。
制服は手洗いだとしてもだ。
彼らの下着は洗濯機で洗いたい。
だって訓練が訓練だけに滅茶苦茶汚れているんだもん。
水で洗うのが冷たすぎたので、魔導石という魔導力をその中に込められる石に火の魔力を注ぎ桶に入れると丁度よい塩梅のお湯が出来上がる事に味をしめた私は、随分前からお湯で洗濯をしている。
お湯の方が汚れも落ちるしね。
魔導石はありがたい事にそこここに落ちている。
クリスタルの様な透明度を誇るのに、全ての石がほぼその透明度を誇っているが故に、何の価値のない物として道端に存在していた。
今日も今日とて洗濯日和!
と、いうことで。
今日はこちらの石に風の魔力を入れて水に投入しようと思っているのだ。
その名も、石を投入してじゃぶじゃぶ計画―!!!
てれれってれー!
まぁ、ドラム缶の様な物に洗濯物を投入して回せば話しは早いので、今日は桶ではなく調理場からいらなくなった寸胴を貰ってきている。
デカい。
蓋だってある。
蓋を閉めればもう、水だって飛び散らない。
か・ん・ぺ・き。
本来は横にしてハンドルか何かで人力で回すのが原理なのだろうが、ここは魔法の国!魔導石よ!役にたってもらおうー!!
もちろん、熱を込めた魔導石投入も忘れない。
まずは一つから試すことにしたのだった。
一定の動きをプログラムするかの如く石に念じる。
行ったり来たり。である。
ぽちゃんと石を投入すると、石がリズムよくくるっと周り、そして反対周りを繰り返す。
「よしよし、洗濯機っぽい。」
泡のつくる粉末を投入し洗濯物を入れ、蓋を閉めた。
―そして数分後、隊長の怒号で目覚めるのである。
「こーんーごーううううううう。」
夢から目覚めるとイケメン隊長が怒っていた…。
げ…。なんで隊長が目の前に仁王立ちしているの。
げ…。なんで世界がもううす暗いの!!!
周りを見渡すと西の空に既に太陽が沈もうとしている所だった。
さっきは頭上に太陽があったのにー!!!!
そう、うとうとして数分眠っていたつもりが、既に夜だったのである。
なるほど。
ちょっと肌寒かったわけだ。
…いや、なるほど。ではなくて。
もう何度目か解らない隊長の小言をスルーしながら、とうに魔力が切れた寸胴に入った洗濯物をすすぎの桶に出す。
おお!!!
実験は成功だ!!
綺麗に落ちているではないかー!!!
と、感動している場合ではない。
誰か声かけてよーう。
確かに隅っこで変な事をしている怪しいやつっぽかったけど。
洗っている人、他にもいたじゃーん。
そんな事を思いながら項垂れていると、後ろから隊長の声がかかる。
「…そんなに洗濯が大変だったのか?」
先ほどまで阿呆!とか言っていた隊長が心配そうに洗濯物を覗き込む。
・・・いえ、洗濯は大変ではなかったんです。
洗濯は…。だって私が洗っていたわけじゃないし。
とは思ったが言えない。
「…すみません。」
「…いや、無事ならいいんだ。」
えらく普通の隊長に驚きを隠せないが、洗濯を終わらせなければ。
濯ぐために再び水を入れる。
今度は寸胴ではなく、濯ぐための桶の中へ投入する。
魔導石に火力を注ぎ込む事も忘れない。
「…金剛、何をしているんだ?」
「…水が冷たいので魔導石に火力を注ぎこんでいるんです…。洗い場、お湯でないんで。」
…それにしても。と私はあたりを見回した。
「?…隊長、おひとりで探してくださったんですか?」
隊長が一人で私を探しにわざわざ来たのかな。
ぽちゃんと魔導石を放り込む。
濯ぎなので通常よりは少々熱くしての投入だ。
返事がないので隊長を振り返ると、うっすらと顔が赤くなっている。
…イケメンのその顔は犯罪ですよ隊長。
ってか、何で隊長顔赤らめるの?!
今日の隊長は何だか変だな。
…えーと。
…えーと。
「…そんなに心配されるとは思いませんでした。すみません。」
何だか悪い気がするじゃないか。
寝ていただけなのに。
「…いや、無事ならいいんだ。」
濯ぎの桶に水がたまる様を二人で仲良く眺めている。
何だろう。
この状況。
「…俺の隊は何故か弟子をとる者がいなくてな…お前が俺の弟子になってくれてから弟子をとることにした隊員も多いが、まだまだ全員ではない。」
弟子?…あ、ああ。小間使いね。
「その分、お前の負担が大きい事は知っていたのだが…。何故かお前なら大丈夫かと思ってしまったんだ。」
そういうと、こちらに向かってぺこりと頭を下げた。
「すまん、俺のミスだ。」
「!!え!!いや!!顔、上げてください!!!」
おおおお、どうしたらいい。
あの隊長に頭を下げられている。
いや、いつか頭を下げさせてやる!とは思ったがこの様な事で下げさせるのは不本意だ!
「違うんです!つい、うたた寝をしたら思ったより熟睡してしまっただけで!それに、そんなに大変じゃないですから!」
「…本当か?」
「本当です!!あ、隊長、水が溢れてきたので洗濯の続きやっちゃっていいですか?」
「俺も手伝おう。」
「えええ!?」
その日は何故か隊長と部隊の皆様の下着を洗濯する事になったのだった。
隊長、脚なっが!!
一緒にうんしょうんしょと桶に入りながら流れてくる水と共に下着を踏む。
横に並ぶとわかるんだけど、この隊長、顔だけじゃなくてスタイルもいい。
脚が長いよー。
腰、どこですかー。
とか思っていたら、衣服に足を取られて転びそうになる。
ぬおおおお。
全身濡れる!!
と覚悟していたら、隊長の腕にがっしりと抱えられていた。
「金剛、もう薄暗いんだから俺に掴まれ。」
…いやいやいやー。
小脇に抱えられた体制のまま言われましてもですね。
ちょっと早く離してほしい。
「た、隊長、足、浮いててっ!」
逆に怖い。
「お、すまん、お前、軽いなぁ。」
「はあああああ?????」
ちょ、何を言うんですかね、この隊長!
やっと足を地につけてもらって体制を立て直した私は隊長を怪訝な顔で睨む。
「重いですよ!」
「そうか?」
「そうです!半分濡れてるし、通常より重いはずですよ!」
「そうか、普段運んでいる隊員の奴らより数倍も軽いぞ?」
「!!」
げ。
男と比べられていたのか。
っていうか隊員って運ぶものなのか。
しかも魔道士の男性って小柄な人あんまりいないんじゃぁ…。
「・・・隊長、とりあえず女性には体重の話は禁句ですよ。」
「そうなのか?」
「ええ。…そろそろいいですかね。」
「お。そうだな。」
もう一度よく水で濯いだ下着たちを二人でぎゅっと絞って籠に入れる。
「すみません、隊長に下着、洗わせちゃって。」
「いや、お前がいない時は自分のは自分で洗っていたからな。」
「…そういえば、何で雇ってくださったんですか?今まで小間使いは取らなかったって聞いてます。」
「!!…。」
?
あれ、やっぱり何かあるのかな。
「あ、言いにくかったら別にいいんです。そんなに重要な質問でもないですから。」
「…お前が…。」
「?え?」
「…いや、何でもない。自分の事は自分で出来ると思っていたし、特別な弟子をとったら何かと不便そうでな。」
「あ、なるほど。隊長ですもんね。弟子なんかとったらその方だけ特別待遇みたいですもんね!」
そうかー。
隊長の弟子っていうと何だか贔屓されているみたいだもんね。
「あ!だから私ならいいかなって事だったんですね!」
「ん?」
「ほら、だって、私、特異な魔道士ですから。今更贔屓っていったって。元が女性だから、今更感があるという!」
「…そうだな。」
隊長はそういうと、白いバロン隊長にも負けないくらいの爽やかな笑顔で笑ったのだった。
…やっぱりイケメンなんだよなぁ。この隊長…。
この後、この、魔導石に火力をためて使うのはいいな。
などとほのぼのとした会話をしながら結局二人で洗濯を終わらせたのだった。
もちろん、最後には、金剛、寝るならちゃんとベッドで寝ろよ。という別れ際の小言も頂きながら。
帰り道も同じなので、何故か仲良く部屋の前まで一緒に帰ったのである。
・・・今まで全く気にしてなかったけど、隣同志なんだなぁ。
隊長と私。
へー…。などと再確認しながら。
セルフィス隊長、そんなに嫌な奴じゃないかも。
なんて思い直しながら。
ほんのりと心があったかくなったのであった。
…いや、昼寝をして怒られて洗濯を二人でしたってだけなんだけど。
要約すると、爆睡して怒られた。
ってことなんだけどっ。
とりあえず、その日はほんわかした気分で眠りについたのだった。




