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楔と帰還

 時間にしたら5分もなかったと思います。その間に紅葉達は日本に帰って行きました。心から大切に想っていた恋人(もみじ)、何でも話せる親友(くろう)、赤ん坊の頃から知っていた妹の様に思っていた(かこ)(ちゃん)。何の相談もなしに日本に帰還させられて彼等は怒り裏切られたと思うでしょう。

 でも、彼等の手を血で汚したくありませんでした。みんな心から大切な人だったから。


「ジャ、ジャスティスファング!!貴方はキヨキ聖皇を裏切るんですか!?」

 英ちゃんに心酔しているイビルファング君にしてみれば、私の行為は信じられないものでしょう。


「残念ながら私達を先に裏切ったのは英ちゃんです。そう君を殺して私からフィルを奪い織やんを石にしたんですよ…それだけでなく、好き勝手に国や民をを弄んだ。今や清木英雄は救国の勇者ではなくただの害悪でしかありません」


「くっ、くー!!事もあろうにキヨキ聖皇を害悪だとー許せん!!絶対に許しませーん」

 イビルファングの言葉は絶叫となり、辺りに響き渡りました。いや、イビルファング君だけではくキヨキ聖皇国の兵は皆怒っています。


「ジャック、落ち着いて下さい。あれはただの負け犬の遠吠えですわ。向こうはたったの四人、でもこちらには300人を越える兵士に30人の魔法使いがいます。なによりアンチマジックのアーツを持つ私がいるんですから」

 マーガレット・リュボンはそう言うと、イビルファング君の肩に手を置いて優しく微笑ました。状況だけ見れば私達の方が、圧倒的に不利です…それより気になるのは…


(マーガレット・リュボンはなんでイビルファングじゃなく本名のジャックの方で呼んだんでしょうか?そしてあの微笑みは親しい者に向けるもの。まさか…やっぱり)

 アーツを使って納得しました。イビルファングことジャック・グラッセーズとマーガレット・リュボンは幼馴染み。そしてお互いを想い合う仲でした。それを引き裂いたのはキヨキ聖皇。正に不幸の元凶です。


「試してみないと分かりませんよ…パラライズミスト」

 全員を囲むう様にしてパラライズミストを放ちます。


(マーガレット・リュボンとの距離が3m位になると、魔法が消えるんですね…それなら勝てます)


「無駄だと言ったのがお分かりになりませんか?」


「無駄?今のは確信を得る為ですよ…石名波さんっ!!」

 ストーンゴーレムの石名波さんを空中に浮かせて敵陣に向かわせます。目指すのは敵陣の上空4m付近。


「私のアーツは全ての魔法を打ち消すんです。無駄ですよっ」

 それは知っています、知っているからストーンゴーレムで移動して来たんです。


「ストーンゴーレムから魔力が消えたら、どうなると思いますか?」

 石名波さんをアンチマジックの効果範囲に下ろしていきます。アンチマジックに触れた途端、石名波さんは石材に戻り大きな音を響かせながら落下していきました。キヨキ聖皇の兵は隙間なく降り注いだ石材により全滅、惨たらしく人の死に慣れていない紅葉達が見たら精神を壊していたかも知れません。

 (何回聞いても末期の叫びは耳に残りますね…また私を唸らせる悪夢が増えました)


「マーガレット、大丈夫ですか!?マーガレットッ!!」

 どうやらイビルファング君は石に攻撃魔法を放ち、圧死を逃れた様です。一人なら無傷で逃れられたのに、マーガレット・リュボンを救いに行った所為で酷い怪我を負っていました。


「大丈夫、気を失ってるだけですよ」


「そんな事を言って僕達をなぶり殺しにするつもりですね…でも、マーガレットだけは守ってみせます」

 イビルファング…いえ、ジャック・グラッセーズとマーガレット・リュボンもまたキヨキ聖皇の被害者。あの馬鹿聖皇がいなければ幼馴染みの二人は幸せな恋愛をしていたでしょう。


「貴方達を殺しても一文の特にもなりませんよ…シェルム、暴れたら困るので二人を縛って下さい」

 これは私の身勝手な贖罪、彼等は死んだ方が楽かも知れません。


「な、何をするんです。お願いです、私は何をされても構いません…マーガレットだけは助けて下さい」

 なんかめっちゃ悪者です。もし、ここで二人を殺したら英ちゃんを怒れまんせね。

 先ずは久郎に作ってもらった何百という釘に魔法を掛けて空中に浮かせます。


「そ、その釘で私達を刺し殺すんですか?」

 なんで、そんな無駄な事をしなきゃいけないんですか?


「さてと、久郎使わせてもらうぞ」

 流石は工務店で働いてるだけあり注文通りの物を作ってくれました。釘は空中に浮くと、イビルファング君達目掛けてスピード上げて移動していきます。


「ひっ…あれ無事だ?」

 それはそうです、イビルファング君達の近くに刺さった釘は一本だけ…残りは遥か彼方に飛んで行ったんですから。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 気がつくと僕達は地面に寝ていた。まだ頭が靄が掛かったかの様にボーッとしている。


「ここは…おい、かこ大丈夫か!?」

 兄貴の声で少しずつ頭が覚めていく。


「兄貴、ここは?」

 周りを見回すと異世界に行っていたメンバーが皆いた…ううん、ショウちゃんを除いたメンバーの姿が見えている。

 

「どうやら、潮騒高校みたいだな…でも、あれから何日経ってるんだ。俺達が行方不明になってたんなら大騒ぎになってる筈なんたが」

(日本に潮騒町に帰って来たんだ…)

 校庭はシンと静まりかえっていて、僕達以外には誰もいない。


「多分、あの時から何分も経っていませんよ。全員の私物を渡します」

 答えてくれたのは冨楽先生、何故か先生はショウちゃんの黒いリュックを持っていた。先生は時空リュックから皆の私物を取り出すと、一人一人に手渡していく。

 向こうに行ってる間に切っていたスマホの電源を入れてみると、学校に来てから5分も経っていなかった。まるで、全てが夢の中での出来事に思える。

 でも、僕達は物々しい武器を持っているし、三米の髪型も変わっていた。

 なにより…せい君がいない。


「せい君酷いよ。せっかく恋人に戻れたのに、またサヨナラなんて勝手過ぎるよ」

 そして紅葉はずっと泣いていた。そんな紅葉をカミカちゃんが申し訳なさそうに見つめている。

 誰も何も言えない…きっと、みんな平和な日本に戻って来れた事を喜んでいる

筈。でも、泣きじゃくる紅葉を見ると手放しで喜ぶ事は出来ない。


「満中、辛いだろうが聞いてくれ。赤井さんから皆に伝言を預かっている¨私は勇者パーティーの一人として、きちんと責任を果たそうと思います。ですので皆さんは日常に帰って下さい。今の皆さんなら、平和がどれだけ大切な物か分かる筈です。どうか実りある人生を送って下さい¨赤井さんは随分前から一人でエレメンに残る事を決められていた。まだ頭の整理が着かないと思うが、先ずは家に帰って休みなさい」


「さてと、俺は帰らせてもらうよ。ここで止まっていたら師匠や兄貴に申し訳がたたないからな…先生、俺やりたい事を見つけたんで今度相談に乗って下さい…流夏、季子それじゃな」

 三米は武器を仕舞うと、スッキリした顔で季子ちゃん達に別れを告げる。そしてしっかりとした足取りで歩き始めた。

 三米につられる様にして皆が歩き出す。異世界と言う非日常から平和な日常に向かって歩き出した。


「紅葉、行こう。絶対にショウちゃんは帰って来るよ。僕達が信じてあげないと…紅葉、今日は家に泊まろ。ねっ、兄貴良いでしょ?」

 紅葉(しんゆう)の手を取って僕も歩き出す。ショウちゃんの想いを無駄にしない為にも、明日に向かって歩き出すんだ。

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