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魔法使いと勇者

 なんて言えば良いんでしょうか…キヨキ聖皇はゲームで言えばラスボス、辛く苦しい戦いになるはずでした。

 真勇者パーティーとの戦いを終え進む事一時間。遠くに駐留している軍隊をあっさりと見つけてしまいました。


「織やん、あれ本隊ですよね…」

 キヨキ聖皇軍がいたのは遮蔽物が何もない草原です。肉食動物でも避ける位に見通しは良好。とりあえずど真ん中に英ちゃんが、いるから間違いないでしょう。


「ええ、キヨキ聖皇の周りを固めているのは彼のお気に入りの人ばかりですから間違いないでしょう。まさか戦闘を一度もせずに会うなんて思いませんでしたよ」

 キヨキ聖皇軍は斥候はおろか見張りすら出していませんでした。それどころか警戒する様子が微塵もみられず、ハイキング気分って感じです。


「ロンギングがあれば敵が近づいても、虜に出来ますから…しかし、あれが軍隊なんですか?」

 キヨキ聖皇が自ら率いてきたのは千人規模の軍隊。なんですが…なんですが派手です。思わず宝塚歌○団かと思ってしまいました。魔法使いや神官は、金糸や銀糸をたっぷり使った服を来て、背中には派手な羽飾りを着けています。戦士に至っては赤い鎧に青い鎧エメラルドグリーンの鎧に極めつけはレインボーカラーの鎧を着てる人までいました。


「昔、軍隊もキヨキ聖皇の美しさに彩りを添えなければならないと言ってましたからね…」

 

「さてと、気付かれる前にロンギングを無効にさせてもらいますか」

 久郎に作ってらった釘にはロンギング対策用の魔石が組み込まれています。そして私は釘をキヨキ聖皇国の大地に刺しました。そう、ロンギング対策の釘がキヨキ聖皇国をぐるりと囲んでいるんです。起動用の魔石に魔力を込めればキヨキ聖皇国からロンギングの脅威は消えます。

 続いてラトノコリハの隠し機能を強制起動。見栄っ張りの英ちゃんの性格ですから国民に対して勝利宣言をする為に、ラトノコリハは絶対に持ってくる筈。


「キヨキ聖皇の本音や過去の行いを国民に伝えるマジックアイテムか。相変わらずアカイの考える事はえげつないな。そんな風に平気で嘘をついてると、いつかモミジに捨てられるぞ」

 シェルムが呆れ顔で溜め息をつきました。まあ、日本に帰れても紅葉には振られますけどね。


「私は嘘を着いてませんよ…心の声は伝わらないなんて言ってませんし。キヨキ聖皇が良い政治をして清い生活をしていれば、なんの問題もないんですから」

 久郎には確信犯だって突っ込まれましたけどね。彼奴には、でん八を奢りで許しを乞う予定です…無事に帰れたらの話ですけど。


「皆さんそろそろ行きませんか?フィルは私が対応します。シェルムは例の女との戦いに専念して下さいね」

 ブリーぜが言った例の女とはそう君の剣を盗んだメイド、今は英ちゃん専属の(メイド)。名前はリディア・グリード。


「それじゃ織やん行くよ…大気に潜みし水滴よ、互いに擦り合い、氷晶に変われ。 氷晶よ擦り合い、霰となれ。 霰よ、擦り合い雷を生め。 負の雷よ、我が敵を包み込め。 正の雷よ、ここに集いて敵を撃て… (サンダー)(ブランチ)

雷により産まれし熱よ、炎へと変われ、炎よ、敵を包む帯となれ…火炎(ファイヤー)(ベルト) 炎よ、大気と混じり合い爆発を起こせ…爆発(エクスプロージョン) 爆発により砕けし岩よ、豪雨となりて敵に降り注げ…(ロック)豪雨(スコール)

 織やんがいるから強力な魔法を連発しても魔力切れをおこしません。私達は四人、敵は千人近いんで、わざわざ宣戦布告なんてする訳がない。まずは敵の数を減らすのが先決です。

 モウモウと湧き上がった土煙が晴れると、数人の人影が見えてきました。

 残ったのは英ちゃんと側近の人達、恐らく魔法無効化のマジックアイテムでも持っていたんでしょう。


「セイガ!!いきなり攻撃をするなんて恥ずかしくはないですか?見損ないましたわ」

 私に食って掛かったのは元カノのフィル・キヨキ…二股をした上に捨てる方が、酷いと思うんですが。ちなみにフィルは軽鎧に紫のミニスカートを履いていました。軽鎧がなければスナックのチーママにしか見えません。


「フィル、久しく合わないうちに頭まで色ボケが回ったんじゃありませんか?でも、意外でした。護衛騎士の役割に泥を塗った売女でも恥を知ってたんですね」

 流石は元祖毒舌神官(ブリーゼ)、平気な顔で嫌味を連発です。そしてブリーゼが着ているのは、厚手の神官服(各種魔法を付与済み)。手にはごついモーニングスターを持っています。


「ブリーゼ、なんでそんな酷い事を言うの?私達は幼馴染みの親友でしょ」


「親友だったのは過去の話。私の愛する(おりべ)を、石にしといて良く言えるわね」

 まあ、フィルにしてみれば織やんが自ら石になったって感覚なんでしょうけど。


「オリベはヒデオの為、崇高な気持ちで石になったの。それを見た目も性格も最悪な魔法使いが誘拐したのよ」

 …いや、確かに私がキヨキ聖皇国から織やんを連れ出しましたけ、そこまで言いますか?


「とうとう騎士道まで見えなくなったみたいですわね…きちんとぶっ潰してやるから覚悟しな」

 はい、チーママ対ヤンママになりました。


「お嬢様、お久し振りです。随分とおやつれになりましたね」

 リディア・グリードはシェルムの実家トロイ子爵家に仕えていたメイド。ちなみに今もメイド服です…戦場でメイド服を着れる度胸は凄いと思います。


「ごちゃごちゃうるさいわね。ソウシの敵、覚悟しな」

 シェルムの心配はいりません。この日の為に死に兼ねない修練をして来たんですから。


「セイガ、なんでこんな事をするの!?兵にも家族がいるんだよ」

 英ちゃんは何故か真っ白なスーツを着ていました。そして無腰、なんの武器も持たずに私に近づいてきます。


「なんで?自分の胸に聞いてみて下さい。まっ、思い当たる事がありすぎて半日は掛かるでしょうけど」


「フィルの事?君より僕の方が魅力的だっただけだよ」

 英ちゃんはある場所まで来ると歩みを止めました。私を誘ってるのがバレバレです。無腰と挑発のコンボで私を誘おうとしているのが確定ですね。


(魔法を無効化出来るから余裕があるのか…それなら敢えて乗ってみますか)


「英ちゃん、覚悟は出来てますよね」

 英ちゃんに近付いた瞬間、地面が隆起しました。高さは約3メートル、広さは四メートル位でしょうか。


「掛かったね。ここでは魔法は一切使えないよ。君に勝つ姿をキヨキ聖皇国の民に届けるのさ。魔法使いの君が魔法を使わすに僕に勝てると思うかい?」

 まあ、予想の範囲内ですね。魔法を無効化しているのは、英ちゃんの足元にある魔石でしょう。


「魔法使い?今の私は魔法使いじゃなくサラリーマンですよ」


「サラリーマン?社会の歯車になったのダサい。サラリーマンが王に勝てると思うの?」

 純粋に正義を信じていた少年(ゆうしゃ)は間違った成長をしたみたいです。


「遊び呆けていた王様と違って、私は雨の日も雪の日も何ケースもの牛乳を配達してたんですよ…リーマンなめんなっ!!」

 配達で鍛えた足腰で、一気に近付きキヨキ聖皇を殴りつけます。


「痛いっ!!僕は王様だぞっ」


「英ちゃん、いい加減大人になれよ」

 重ねた瓶牛乳のケースに比べればキヨキ聖皇の体重なんて軽いもんです。英ちゃんを一気に持ち上げて魔石へ叩きつけました。


「こんな事をしてただで済むと思うなよっ。今に見てろっ!!僕の民が向かってくるからな」


「多分、誰も来ないよ。キヨキ聖皇国の民に掛かっていたロンギングは無効化しました。それとラトノコリハを通じて英ちゃんの今までの行いや本音もキヨキ聖皇国の民に伝わりましたよ」

 地に堕ちた英雄は、ただの人を通り越して犯罪者になるでしょう。


「セイガ、僕を殺すの?仲間じゃないか」


「殺す?何を言ってるんですか?これから貴方は自分の国が滅んでいく所と自分の家族が死刑になるところを見なきゃいけないんですよ。家族が自分の行いにより裁かれるのを見るしか出来ないんです」

 キヨキ聖皇を殺すのは簡単です。でも、今殺すと反発する民もいるでしょう。キヨキ聖皇とその一族が、民衆の怨嗟の念を受けながら処刑されれば国民の不満も少しは解消されます。


「そんな酷い…」

 英ちゃんは泣きじゃくっていますが、無視しておきます。泣きじゃくる英ちゃんを見て動揺したのか、フィルとリディアに隙が生まれました。


「フィル、貴方の敗因は男を見る目がなかったからです」


「ソウシの敵っ!!」

 歴戦の戦士である二人がそんな隙を見逃す筈がありません。フィルとリディアが倒れたのを確認して、ラトノコリハに干渉します。


「キヨキ聖皇国の民に告ぐ、私の名前はジャスティスファング。悪皇キヨキ・ヒデオは私が倒した。今、イッピョー・キヨキが連合国の兵士を連れて向かってきている。彼を王として迎えるのも、戦うのうも自由だ。しかし、我等は無駄に血を流す事は望まない…もう一度言う、私の名前はジャスティスファング。抗うと言うなら私も戦う」

 これで私を恨む人はいても、イッピョー君を恨む人は少なくなるでしょう。


______________


 結果、キヨキ聖皇の民は、イッピョー君に恭順の姿勢を見せてくれました。そして彼が最初に下したのが、キヨキ一族の処罰を決める事。

 ヒデオ・キヨキは広場で民から石を投げつけられた後にベルク様の手で処刑されました。その他の一族も処刑もしくは永久的に牢屋に閉じ込められたそうです。


「セイガさん、やはり行くんですね。また、英雄として地位を捨てるんですか?貴方が望めば王になる事も可能なんですよ」

 ナトゥーラ様の言う通り、エレメンに残れば英ちゃん程じゃなくても面白ろ可笑しく暮らせるでしょう。


「大人になって分かったんですよ。英雄として生きるより、普通に働く方が尊いって事に…英雄や王族として栄華を楽しむのも良いかも知れませんけど、私には自分選んだ仕事の方が大切なんですよ…働く様になって親や周りの人の凄さが分かったんです。大人になって見えた事ですね」

 社会は歯車(おとな)がしっかり仕事をしてるから、動くんですよね。民の税金で飲む高級ワインより汗水垂らして稼いだお金で飲むビールの方が美味しいんです。


「でも、転移魔法は不安定な筈では」  

 確かに日本との繋がりは殆んどなくなりましたから、うまく転移出来る可能性は低いと思います。


「私がエレメンいる限り、新たな争いが起きかねません。織やん達はイッピョー君を助けて新しい国を作っていますからね…それではナトゥーラ様、お元気で…貴女の弟子になれた事を誇りに思います」


「私が生きてる限り、ジャスティスファング…いいえ、不器用な愛弟子の事は語り継いでいきます…セイガさん、幸せにおなりなさい。きちんと話せばマナカさんもきっと分かってくれますよ」

 そして私は再び異世界エレメンから旅だちました。


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