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退屈な男は、あなたを許さない  作者: ゲント・カイ


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第五章 信用という財産

金は減っていった。


 最初に売ったのは真珠の耳飾りだった。


「これだけ?」


 宝石商が示した金額を見て、セシリアは声を上げた。


「伯爵家の品なのよ」


「以前は、でしょう」


「私は未来の公爵夫人だったのよ」


 宝石商は顔色一つ変えなかった。


「それも以前のお話です」


 次に腕輪。


 髪飾り。


 指輪。


 かつて夜会で羨望を集めた青い首飾りは手元になかった。


 あれは公爵家の所有物だった。


 豪華なドレスの多くも同じだった。


 公爵家が代金を支払った物は、婚約解消と同時に返却した。


 セシリアが自分のものだと思っていた生活の大半は、自分のものではなかった。


 三か月後、二人は家賃の安い住居へ移った。


 寝室と居間が一つしかない。


 壁は薄く、隣人の声まで聞こえる。


 ユリウスは日雇いの荷運びを始めたが、三日で辞めた。


「年下の職人が俺に指図した」


「仕事なのだから仕方ないでしょう」


「近衛だった俺が、あんな連中に頭を下げられるか」


「今は近衛ではないわ」


 その一言で喧嘩になった。


 セシリアも仕事を続けられなかった。


 料理。


 洗濯。


 帳簿。


 裁縫。


 何一つまともにできない。


 それでも、最初の頃なら接客係として使ってくれる店はあった。


 だが、長くは続かない。


「あの女を雇っているのか」


 誰かが一言そう言えば、店主は不安になる。


 グランフェルト公爵家から圧力がかかったことは一度もない。


 だからこそ誰も安心できなかった。


 何をすれば公爵家の機嫌を損ねるのか分からない。


 それなら最初から関わらない方がいい。


 人間は命令されなくても、自分が損をしない方向へ動く。


 セシリアはそれを理解できず、すべてをアルフォンスの仕業だと思った。


「どこまでやれば気が済むの」


 夜、薄い毛布の中で呟いた。


 冬が近づき、部屋は冷えていた。


「薪が高すぎるわ」


「買わなければいい」


「寒いじゃない」


「我慢しろ」


 かつて公爵邸では、暖炉から火が消えることはなかった。


 セシリアは薪の値段を知らなかった。


 誰かが買っていたからだ。


 冬になる前に必要量を見積もり、業者と契約し、運ばせ、保管する。


 それをしていたのは、公爵家の使用人たちであり、その仕組みを管理していたのはアルフォンスだった。


『冬場は北街道が閉じる可能性がある。薪の搬入を二週間早めよう』


 昔、夜会へ向かう馬車の中で、彼が家令とそんな話をしていたのを思い出した。


 当時のセシリアは窓の外を眺めながら思った。


 また退屈な話をしている。


 今、その退屈な話の意味が分かる。


 けれど認めたくなかった。


「アルフォンスなら」


 思わず口にして、やめた。


「何だ」


「何でもない」


 十五歳の冬。


 庭を歩いていた時、彼は黙って上着をかけてくれた。


『寒いと言ってないわ』


『指が赤い』


『あなたが風邪をひくでしょう』


『私は丈夫だ』


 あの時、自分は笑った。


 寒さなど、本当は一度も我慢したことがなかった。


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