第一章 花冠の少女
アルフォンス・グランフェルトが十歳だった頃、六歳のセシリア・ローデンベルクは、花冠を作るのがひどく下手だった。
グランフェルト公爵家の庭園、その奥に立つ古い樫の木の下で、アルフォンスは本を膝に置き、少女が何度も花の茎を千切るのを眺めていた。
「もっと長い茎を使えばいい」
「これがいいの」
「それでは結べない」
「結べるわ」
三度失敗し、四度目でようやく不格好な輪ができた。
セシリアは満足そうにそれを持ち上げた。
「アルフォンス、頭を下げて」
「なぜ」
「いいから」
言われるままに頭を下げると、白と黄色の花で編まれた歪な冠が黒髪の上に載せられた。
アルフォンスが取ろうとすると、セシリアはその手を叩いた。
「駄目」
「似合わない」
「似合うわ。だから笑って」
「別に面白くない」
セシリアは頬を膨らませた。
「またそれ。みんな、アルフォンスは真面目すぎてつまらないって言うけれど、そんなことないのに」
アルフォンスは少女を見た。
「そうか」
「そうよ。だったら私が面白くしてあげる」
彼女は笑った。
アルフォンスは結局笑わなかったが、花冠を取ることもしなかった。
それから十五年。
王都の王宮で春の大夜会が開かれていた。
何百もの蝋燭が巨大なシャンデリアを輝かせ、楽団の奏でる旋律に合わせて、貴族の男女が磨き上げられた床を滑るように踊っている。
会場の中心にいるのは、深紅のドレスをまとったセシリアだった。
二十一歳になった彼女は、幼い頃の面影を残しながらも、社交界で名の知られた美しい女性に成長していた。
「まあ、セシリア様。その首飾りは?」
「リュミエール商会の新作ですの」
青い宝石を指先で撫でながら、セシリアは微笑んだ。
「アルフォンス様から?」
「ええ」
正確にはグランフェルト公爵家の会計から支払われたものだったが、それを説明する必要はない。
周囲の令嬢たちが羨ましそうな声を上げた。
「未来の公爵夫人は違いますわね」
「そんな大きな宝石、初めて見ました」
セシリアは満足していた。
自分が見られている。
羨ましがられている。
夜会に来るたび、彼女はその感覚を好むようになっていた。
「でも、グランフェルト様ご本人は……」
一人の令嬢が扇の向こうで笑った。
「少々真面目すぎません?」
「まあ」
「お話をしても、穀物だの街道だの税収だの。せっかくの夜会なのに」
笑い声が広がった。
昔ならセシリアは怒ったかもしれない。
だが今は一緒になって笑った。
「昔からですのよ。アルフォンスって、本当に面白みがありませんの」
少し離れた場所で、アルフォンスはその声を聞いた。
聞こえなかったふりをした。
「北部倉庫の小麦は?」
隣に控えていた家令に尋ねる。
「昨年比で一割ほど少なくございます。春の雨で街道が傷み、輸送に遅れが」
「補修費を増やそう。来月までに道を通せるようにする。王都の小麦価格が上がる前に運ばなければならない」
「承知いたしました」
家令が頭を下げる。
アルフォンスは夜会の最中でさえ、翌日には忘れられる冗談より、領民が食べるパンの値段を考えていた。
そんなところが、セシリアには退屈だった。
話を終えたアルフォンスは彼女のところへ歩いていった。
先ほどまで笑っていた令嬢たちが気まずそうに黙る。
彼は何も聞いていなかったように、自分の上着をセシリアの肩にかけた。
「冷えている」
「平気よ」
「先ほど庭へ出ていただろう。夜風が強い」
「アルフォンス」
セシリアは小さくため息をつき、上着を外した。
「そういうところよ」
「何がだ」
「何でもないわ」
彼には分からなかった。
彼女の欲しい言葉を言うことも、踊りの途中で耳元で甘い言葉を囁くこともできない。
その代わり、寒そうなら上着を渡す。
欲しいと言われた宝石は買う。
伯爵家の財政が危うければ支援する。
それが自分なりの愛情だった。
だが、愛情というものは、与えるだけでは伝わらないこともある。
その夜、アルフォンスは婚約者を送るため馬車を用意した。
しかし、セシリアはすでに会場から姿を消していた。
「どこへ行った」
「存じません」
御者は戸惑いながら答えた。
「ただ……ヴァレンシュタイン侯爵家の三男、ユリウス様もお姿が見えないと」
アルフォンスは数秒黙った。
「そうか」
それ以上は尋ねなかった。
まだ、この時は。
彼女を疑っていなかった。




