01
はじめまして。初投稿になります。
この作品を見つけてくださり、ありがとうございます。
少しずつ暮らしを豊かにしていく、のんびりとした物語です。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
しんしんと雪が降る夜。毛布から冷たい風が入ってくる。
「…寒い」
隙間を作らないように、頭まで潜り込む。
ズキズキと頭が痛みだした。
ふと、忘れていた記憶が浮かんだ。
湯船に浸かること、温かい布団で眠ること。
ーーーーそっか。
私、人生二回目なんだ。
この世界には魔法がある。
…なのに、私の知る”快適”はどこにもなかった。
雨音で目が覚めた。窓をみると外は暗い。
…嫌な予感がする。
「またかあ…」
見上げれば天井の木目に沿って、雨染みがじわじわ広がっている。今にも雫が落ちてきそうだ。
「……はぁ」
雨で目が覚める生活なんて、考えた事もなかった。
目に浮かぶ快適な暮らしはあるけど、どうやって作るのかは何一つ知らない。
本当なら、このまま二度寝したい……。
でも、このままじゃ床まで濡れてしまう。古い床板は水を吸うとなかなか乾かない。
「洗濯に使って、桶外に置いたままだ…」
制服だけは濡らせない。頭ではやらないといけないことが浮かぶのにまだ体は動かない。
「はぁ〜…」
もう一度深いため息をついて、リベルは重い腰を上げて固いベッドから降りた。
「学校で家の修理に使える事、教えてくれたらいいのに」
◇
雨上がりで外はまだ湿っぽい。
…髪の毛が広がる。いやだな。
どこか遠くで獣の遠吠えが響いた。草むらの奥では何かが動く音も聞こえた。
この自然は好きだけど、地面がぬかるんで歩きにくいのは嫌いだ。
土が跳ねないようにゆっくりと歩く。時々水溜りを避けながら森を抜ける。
そこには、今日も自然に似合わない、黒塗りの重厚な馬車が待っていた。
扉には見慣れた剣の紋章が刻まれている。
馬車へ乗り込み、自分の家とは違う柔らかい椅子へ腰を下ろす。
目の前には今日も整った顔立ちのお兄様。
…相変わらず無表情だけど。この人、笑うことあるのかな。
「遅い」
「申し訳ございません」
今日も誰も話さない。お兄様と目が合うこともない。
馬車は揺れの少ない石畳の道を静かに進んでいく。
やがて、厳重な門がゆっくりと開いた。
その向こうには、どこまでも続く石畳と、遠くにそびえる校舎が見えた。
「学園に到着いたしました。」
「ご苦労」
お兄様は、艶のある黒髪を揺らし、一度も振り返ることなく姿勢を正して歩いていく。
…校舎まで遠いんだよね…。
リベルも慣れた様子でその後ろを歩き出した。
◇
訓練場では、実技を楽しみにしているクラスメイトが盛り上がっている。
…実技より雨漏りのことが気になって仕方ない。
「本日は防御魔法の実技演習です。座学で学びましたね。理解しているか実践しましょう」
教師の手元には、片手に収まるサイズの木箱が乗っている。
…魔道具だ。よく見ると魔石が埋め込まれている。
「この魔道具から初級属性魔法を放ちます。」
防御魔法かあ。……どうせなら屋根も防御してくれたらいいのに。
苦手な授業のときはいつも違うことを考えてしまう。リベルは積極的な生徒たちとは反対に、自然と足が一歩下がった。
…みんなすごいな。簡単にこなしてる。
いよいよ、リベルの番だ。
杖を握り、魔力を流し込む。先生に何度も言われてきた。
「イメージが大事…」
魔法の世界の本ならたくさん読んだ。
想像することだけなら、誰にも負けない。
…盾だ。身を守る半透明な円状の盾。
教師がボタンを押した。
目の前には火球が飛び出してくる。杖を振りかざすと、リベルの前には魔法陣が浮かび上がった。
「……あっつい…!」
熱い風が侵入してくる。身は守れたものの、熱は防ぎきれない。
後ろの生徒が口々に暑いと文句を言っている。
「…その程度の防御ではアイゼンヴァルド家が聞いて呆れますね。持続させなきゃいけません。」
……持続かあ。持続する事は難しい。魔力を流し続けないといけない。
これを家に使えたらいいのに。
この盾を持続させれば、屋根は守れるだろうか。…いや、屋根に盾って張れるものなのかな?……無理だよねえ。魔法を使ってる時だけだから。魔法を固定できれば、話が別なんだけど。
今日、図書室に寄ってみよう。何か見つかるかもしれない。
教師の言葉を聞いて周りの生徒はくすくす嘲笑っている。リベルの耳には入らない。気づけば口元が緩んでいた。
「ふふふ……。」
「……邪魔だ。」
「え?」
あ。
一人の世界に入ってた。
◇
図書室への道のりは歩き慣れている。リベルの日課だ。
重い扉を開けば、本の匂いがふわりと鼻をくすぐる。この匂い好きだなあ。見渡せば、壁一面に本棚が並んでいる。
さすが貴族が通う学校だ。これだけあれば、一生かかっても読みきれなさそう。これを無料で読めるなんて…学校最高!
緩んでる頬に気がついて一人恥ずかしくなった。
また今日も探すのに時間がかかりそうだ。
魔法学の棚へと足を進める。
『防御魔法 基礎』『結界魔法 入門』『防壁魔法 基礎理論』どれも探している本ではない。
…防御魔法だけで一体何冊あるんだろう。
背表紙を追っているうちに目が疲れてきた。それでも諦めずに背表紙を追っていく。
『錬金術 基礎』
…あれ?
いつのまにか専門書の棚まで来ていたらしい。
……錬金術か、将来的には必要になるよね。いつかは暖房や冷房の道具も作りたい。
目当ての本も見つかってないのに自然と手が伸び、本を開いていた。
“錬金術とは、物をつくる技術である。似た魔法で付与魔法があるが、これは物に魔法を与えることである。”
すごく引っかかる。私の探していた魔法はこれかもしれない。指で背表紙を一つずつなぞっていく。
『付与魔法』
すごくシンプルな題名だ。ドキドキしながら本を開く。
「また貴方ですか…。こんな時間まで読むなら借りてください」
嫌そうな顔を隠そうともしない司書が、眼鏡を押し上げた。
今にもため息が聞こえそうだ。いつの間にか読み耽っていたらしい。
この顔も、もう見飽きた。
「これ、貸し出しお願いします」
◇
馬車で本は読み切った。駆け足で家に入る。制服は皺にならないように仕舞ってから、くたびれた作業着に袖を通す。早く試したい。
梯子を屋根にかける。
「高い…。落ちたら笑えないな」
赤い夕日がオレンジ色の空を映し、影が伸びていく。本を開いて1ページ目を見る。
“付与とは物に魔法を一定期間持続させることである。”
“初心者は専用ペンを推奨する。”
…ここなんだよね。引っかかるけど、杖でも出来るって載ってるし、大丈夫だよね。…魔法陣を描くって、なんだかすごくワクワクする。
早速杖を握って魔力を流す。杖の先を滑らせるたび光の線が少しずつ形になっていく。
「…本当に描きづらい!!!」
専用ペンって全然違うのかな。
心は浮き立つけど、手に力が入らない。魔法陣は歪になる。しかも足は震えるし、額に汗が滲む。
…私の魔力では1つ描き終えることが限界かもしれない。
気がつくとあたりは暗くなっていた。最後の一画を書き終えると、淡い光が線をなぞるように走った。半透明な膜が出来たその瞬間、それは消えてしまった。
「…失敗か」
本を開いて確認する。
…合ってるね?…見本と全然違って歪だけど。すぐ消えるなんて笑える。
これ以上は力が出なくて寝転んだ。
翌日も、その翌日も屋根に登った。割れた日もあった。魔力切れで屋根の上で眠ってしまった日も、杖を投げ捨ててしまいたい日もあった。それでも、一画ずつ、一文字ずつ。諦めずに杖を滑らせた。
膝を抱え、顔を埋める。遠くで獣の声が聞こえる。
「うるさい」
空を見上げて、ふーっと息を吐く。
凹んでる暇はない。また明日だ。
見上げた夜空には細い三日月だけが残っていた。
魔力を限界まで使う事にも慣れたその日
「…完成、した?かも?」
星に照らされ、半透明な膜が光っている。消える気配も割れる気配もない。
描き上げた魔法陣の横に倒れ込んだ。失敗した日と同じ夜空には、一筋の流れ星が音もなく空を横切った。
◇
雨が降っている。
期待を胸に天井を見上げれば、雨漏りはできていない。
次に読む本は、もう決まっている。
リベルは笑った。
「まだまだだね。」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
初めての投稿で、今も少しドキドキしています。
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どうぞよろしくお願いいたします。




