第40話 そっちかよ!!!!!
「健やかなる時もー、病める時もー」
ロウとの決戦から数ヶ月。
今日はユーリくんとクラウディアの結婚式だ。
壇上には幸せそうな二人。
参列者席の最前列に王家と公爵家のご家族。
次の列には皇帝、テオドール、ウォーレンさん、ブランくん。
リリアとランスくんもいる。
私はその並びにいない。
なぜかというと――
「えー、互いに助け合いー、慈しみー……ちょっと、笑わないでよ! 頼んだのあんたたちでしょ!」
なぜか壇上で神父さん役!!!
そっちかよ!!!!!
「ユウリ、御使の聖女様なんて神聖な者がいるのに、お願いしないはずがないだろう」
「蘭さんだっているじゃない」
「蘭さんは、畏れ多いというか……」
「ちょうどいいやつみたいに言うなー!」
壇上でモゾモゾ話している私たちを見て、参列者たちがクスクス笑う。
「……まあ、いいわ。ここに、両名の結婚の成立を宣言します! それでは、誓いの口付けを」
クラウディアのベールをユーリくんが上げる。
クラウディア、嬉しそう。
二人の唇が重なる。
クラウディアの目から涙が溢れる。
「よっ、ご両人! お幸せに!」
テオドールが口笛を吹いて茶化す。一国の貴賓がいいのかそれで。
リリアは気まずそうな苦笑い。
そうね、この幸せな光景、あなたがぶち壊そうとしてたんですものね。
思えば、あの時から私のヘンテコな運命が始まったんだなあ。
それほど昔のことではないのに、随分懐かしく思える。
「さ、腕組んで。退場よ」
私を先頭に、二人が続く。
参列者から盛大な花吹雪。
と思ったら、上から光が降ってくる。
「おお……」
「天使様……」
そんな声が参列者から漏れる。
「……蘭さん、あなた結構こういうの好きなんでしょ、実は」
同じく参列者席にいなかった蘭さんが、白い翼をはためかせ、神殿の上から光の粒を降らしている。
「あらあら、そんなことありませんよ。神の御使として、神の代理の務めですわ」
私の横に着地する蘭さん。
横で手を振りながら一緒に退場していく。
主役を食うなっつーの。ある意味この人が一番浮かれてそう。
「ぷはー、緊張したー」
「どこがですか。緊張してる人は壇上で言い争いを始めません」
クラウディアに突っ込まれる。
「違いない、だってユウリだもんな」
あはは、とみんなで笑う。
とても幸せな日常だ。
私が求めていたものは、これかもしれない。
――あれから、私たちはそれぞれの国に戻った。
両国間は結局、今の国境線で和平を結んだ。私と蘭さん立ち会いによる、強固な約束だ。破ったら私たちが承知しないぞ、というものである。
そして、皇帝は神殿の腐敗の根絶を約束してくれた。ただ……蘭さんも来ちゃったし、私も帝国で活躍しちゃったしで、結局神殿には蘭さんの像の横に私の像が増えるというあまり想定していなかった事態になってしまった。
テオドールがやけに張り切って進めているので、百年だけだぞ、って言い続けている。
活躍した者にはもちろん褒美が出て、私はなんかごちゃごちゃくれるって言ってたんだけど、「自由」をもらった。少なくとも王国と帝国は自由気ままに行き来できるし、他国でも両国に身分を保証してもらえることになった。
馬車で頑張ってくれたランスくんが男爵に叙爵され、リリアはなんといきなり伯爵になった。リリア伯爵。ただし一代限りらしい。
ちなみにユーリくんとかクラウディアとか、元から偉かった人には叙爵はない。別荘とか領地とか、色々新生活向けのものをもらったそうだ。
テオドールも皇太子なので変わりはない。そう考えると王子様って大変ね。手柄を立ててもそれ以上のことないものね。そりゃ教祖にでもなりたくなるわ。
ウォーレンさんも大将・侯爵のまま。ただ、ブランくんはその若さで子爵に叙爵されたらしい。どうか、強く生きてほしい。
二人の結婚式は披露宴に移り、みんなで雑談中。
「お二人はこれから国を治めていくのですね」
蘭さんがユーリくんとクラウディアに歩み寄り、少し寂しそうに言う。
「そうですね、方々へ行ったりするのはさすがに控えることになるかと思います」
「仕方ありませんね。じゃあ、悠里さん。ちょっと私、知ってる場所へ行きたいので、お付き合いくださいますか?」
「えっ? というか、蘭さん帰らないんですか?」
冷静に考えてみると、天使が披露宴で普通にお酒飲んでるってすごいことだぞ。
「うふふ。まだやることもありますので」
そうなんだ?
「まあ、良いですけど」
「そこは風光明媚で、しかも美味しいデザートがあるのですよ」
「えっ、行く行く! リリアも連れて行きましょう、暇でしょうから」
「なんですか? ユウリお姉様?」
「蘭さんがお出かけしたいんだって、あなたも来なさい、どうせ暇でしょ」
「これでも伯爵として色々やることあるんですけどね……まあいいですよ、お二人だけだと何壊すかわかりませんし」
人を破壊兵器みたいに言うな。
「ありがとう、リリアさん。では、我が子孫、テオドールも連れて行きましょう」
「は? 俺!?」
蘭さんから急に振られて声を上げるテオドール。
「道すがら先祖としてあなたを教育してあげねばなりませんから」
「はぁ!? 嫌だよ、なんだよそれ!」
「テオドール。蘭さんが最初、私に何頼んでたか教えたげようか」
「お、おう……?」
「帝国と、蘭さんへの信仰の破壊よ。知らなかったでしょ?」
「なんだと!? そ、そんなことが」
聞こえたのか、皇帝が慌てて飛んでくる。
「事実ですわ。あなたたちの腐敗が目に余りましたもので。ここに来られると思っていなかったので、ユウリさんに託したのです。ですがせっかく来られたのですから、滅亡より再教育の方が良いでしょう?」
ニッコリ笑う蘭さん。
こっわ。
「もちろんでございます! 愚息をどうか、ビシバシ鍛え直してやってくださいませ!!」
皇帝が、テオドールの頭を掴んで一緒に地に伏せる。
「いててて! マジか! いやでもお願いします、ご先祖様!」
「はい、いい子ですね。ずっといい子でいられるようになりましょうね〜」
強い。蘭さん、強い。
「じゃあ、出発しましょうか」
「え、もう? いまです?」
「はい。早いに越したことはありませんので。では行きますよ皆さん。オルレーンまで、悪魔を倒しに」
『ええええええええ!!!!!!』
お出かけ、やることって……。
そっちかよ!!!!!!
「私と悠里さんがいれば大丈夫ですよ、負けません」
「いやそういうことじゃなくて……」
「わ、私はやっぱり伯爵としての仕事が」
「逃げんな」
後ろを向いたリリアの襟をがしっ、と掴む。
「いくらユウリお姉様だからって人を連れて行っていい場所と悪い場所があるんじゃい! この前だって何回死にかけたと思っとんじゃあ!!」
「まあ良いじゃない。テオドールと仲良くなれば次期皇妃になれるかもよ?」
「いや、すみません全然タイプじゃないんで」
急に真顔に戻って断るリリア。
リリア、金と権力の欲望に忠実なだけなのかと思ってたけど、そこはそうなんだ?
ユーリくんモテモテじゃん。
「まあ他にやることもないし、しゃーないかぁ。危なかったら私容赦なく逃げるんで、よろしくお願いしますよ。ま、出発は明日にしましょ。せっかくのパーティだし今日でなくても良いでしょ」
「はい、ではそのように」
*
その夜。
私は眠りにつくと、久々にあの真っ白い空間に出た。
『おお、来た来た。蘭と仲良くやっとるようじゃな』
神様は相変わらず。
待ってましたみたいな? 何それ。
「おかげさまで。蘭さんいなかったらやばかったわ。神の御使ってすごいのね」
『その件で言い忘れておったことがあってな。また来てくれてよかったわい』
やっぱり私がここに来るかどうかって神様も制御できないのね?
「なに? 明日からまた遠出だからよく寝たいんだけど」
『いや、神の御使となる資格なんじゃが、「ワシに二度会う」なんじゃよ。普通は死なないと二度目がないからそういうルールなんじゃが、お前さんルール無用すぎてのう』
「はぁ?」
『ということで、ほれ』
神様が私の頭に触れる。
「ん?」
背中に違和感。
「げげっ!!!」
振り返ると、真っ白い翼が生えている!!
「ちょっと、神様! 何してくれてんの!!!」
『ああ、自由に隠せるから安心するがよい。これでお前も無事に神の御使、天使の仲間入りじゃ』
「強制かーい!!!!!」
『それじゃ、良い旅を。アディオス、アミーゴ!』
婚約破棄した王太子に転生したかと思ったら、天使になるなんて!!!
そっちかよ!!!!!
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
「そっちかよ!」、ご覧の通り続きの構想はありますが、ここで一旦完結です。
初めて、ハイファンタジーの長編、しかも10万字を超える長編を完結まで書くことができました。
何度か心が折れかけましたが、続けられたのはひとえに読んでいただいた皆様のおかげです。
特に毎回スタンプくれた方は本当に励みになりました。
ありがとうございました!




