5話 ポケットマネーは重くない
酒場の中は割と普通だった。
もっと薄汚れているイメージだけど、割と小綺麗。
うん、知ってた。
ゲームの通りだね。
客層はまぁ、チンピラっぽいのから紳士っぽいのまで、色々。
男も女も老いも若いもって感じ。
みんな私たちをジッと見詰めている。
そりゃそうか。
明らかに高そうな服を着た子供たちに、護衛騎士たち。
どう見ても貴族の子供だし、この場所に似つかわしくない。
私はカウンターまでサッと移動。
「空は青いが、たまには緑もいいだろう?」
私はゲームで使った暗号を言った。
バーテンダーが酷く驚いた風な顔をした。
「お待ちを」
バーテンダーは2階へと駆け上がる。
たぶんそこにギルドマスターがいるのだ。
ギルドマスターというのは、現代風に言うと支部長だ。
情報ギルド、ハウザクト王国支部の長。
情報ギルドに限らず、ギルドマスターというのは全部支部長のこと。
全部の長、つまり社長に当たる者はグランドマスターと呼ばれるのが普通だね。
ちなみに、ここのギルドマスターは男ということしか知らない。
ゲームではフードを被っていて、かなり神秘的に描写されていた。
「ミア、今のはなんだ? 暗号か?」とジェイド。
私が頷く。
「なんで分かったんだ? 全能か?」
私が再び頷く。
全能って便利だよねぇ。
今回は使ってないけど、『全能で知った』って言えばみんな納得するんだもん。
「よぉ、どこの坊ちゃん嬢ちゃんだ?」
ビールを飲んでいる男が言った。
護衛騎士たちが一斉に男の方を見て、剣の柄に手をかける。
「おいおい、俺はただの飲んだくれだぜ?」
男は両手を挙げてヒラヒラと動かした。
悪意も敵意もない、という意味だね。
男の年齢は20代の半ばから後半ぐらいかな。
藤色の長い髪をポニーテイルに結んでいる。
顔面偏差値は割と高いかな?
でもちょっと軽薄そうな感じ。
まぁ、そういうのも嫌いじゃないよ、私は。
「構わんぞ」
ジェイドが言うと、護衛騎士たちが手を下ろす。
「さすが第一王子、懐が広いやねぇ」
男がヘラヘラと言った。
なんだこいつ、ジェイドが誰か知ってるじゃないか。
私が男をジッと見ていると、男と目が合った。
「更にローズ公国の大公閣下ねぇ。こんな場末の酒場に何の用だ?」
一般の客は、この2階が情報ギルドだと知らない場合もある。
でも、こいつは違う。
一般の客が私やジェイドの顔を知っててたまるかって話。
「小公爵様に、将来有望な魔法士様。有名人が訪れるほど、ここの酒は美味くねぇぞ?」
男は相変わらずヘラヘラしている。
ローレッタとノエルのことも知っているわけね。
なるほど、こいつは情報ギルド員で間違いない。
「お前、よく俺様たちのことが分かったな!」ジェイドが楽しそうに言った。「だが酒を飲みに来たわけじゃない!」
「はん。だろうな。さっき暗号言ってたろ? なら、用があるのはギルドの方だ。安心しな、客は全員ギルド員だぜ?」
わぁお。
全員そうなの!?
さすがの私もビックリだね!
と、バーテンダーが2階から戻って来た。
「代行に任せるとのことです」とバーテンダー。
「あのジジイ、一国の主と王子だぞ?」
男が呆れた風に言った。
「まぁいいか。初めまして」男が立ち上がる。「情報ギルドマスター代行のヨーナ・マーララだ。用件を聞こうか」
あ、たぶんこいつが将来のギルドマスターだ!
ゲームでは名前は教えてくれないけど、『ギルドマスターだ。用件を聞こうか?』って台詞があった。
「座るか?」とヨーナ。
私はヨーナのテーブルに近寄ったけれど、座らずお皿を眺めた。
正確には、ヨーナのつまみである串焼き肉。
美味しそう。
「……食いたいのか?」
ヨーナが少し呆れた風に言って、私はコクコクと頷いた。
「お姉様……」ローレッタも呆れた風に言う。「お昼は食べましたよね? 太りますよ? おデブ大公になってしまいますよ?」
「ちょっとぐらい、ふくよかでも俺様は……」
「はい?」
ジェイドの台詞を、ローレッタが鋭い声と眼光で遮った。
ジェイドは無言でススッとノエルの背後に移動。
ノエルを盾にしたっ!!
ローレッタがノエルに視線をやる。
ノエルはゴクリと唾を呑み「ミア、食べ過ぎは、その、よくないかと……」と小声で言った。
ローレッタは満足そうに頷いてから、私を見た。
仕方ない。
「いや、大丈夫だよヨーナ。私はどうやら、お昼を食べていたようだからね!」
「お、おう。そうか。それで用件は?」
「なに、簡単な依頼さ」
「王族貴族の簡単な依頼って、絶対に難しいよな?」
「いや、本当に簡単だよ? まずはこの国の神殿の内部調査をお願いしたい。特に、司祭と助祭の……名前知らないけど、なんか狂信的なお兄さんの素行調査を重点的に」
「お、本当に簡単そうだな」
ヨーナは安堵した風に言った。
「それから、神殿本部、つまり大神殿の腐敗について調査して欲しい」
「お、おう? そっちは割と難しいぞ? 他国のギルドに依頼しなきゃいけねぇし、時間も必要だな」
「なるべく急いで欲しいかな。あとついでに、教皇様の素行調査もよろしく。何が好きで、何が嫌いで、どんな悪いことをしているのか、とか」
「それ、ついでに調べるようなことか!? むしろメインだろうが! 教皇様って、お前、それはちょっと難易度高すぎねぇか!?」
「え? できないの?」
「いやできるけども! できるけども! これも他国のギルドに依頼しなきゃだし、時間と費用が必要だぞ?」
私は軍服ワンピースのポケットに手を突っ込んで、金貨を一握り創造。
そして創造した金貨をテーブルにジャララっと落とした。
仮創造ではなく創造なので、永遠に残る金貨。
「ポケットマネーかよ!」ヨーナが言う。「つか金貨の扱いが雑っ! さすが大公!」
「前金だけど足りないよね?」
「おう。この国の神殿の調査費用の前金ってとこだな」
思ったより高いんだね。
私は両手をポッケに突っ込んで、更なる金貨を創造。
そして再びジャラランっとヨーナのテーブルに落とした。
「ポケットマネー多いなおい! 重くねぇか!?」
「全然? 戦闘装備に比べたら軽い軽い」
「戦う大公って話は事実か! 割と半信半疑な部分あったんだよな!」
まぁ情報ギルドなら、私が戦闘好きってことも知ってて当然か。
「ミアから戦闘を取ったら」ジェイドが言う。「お転婆しか残らんぞ」
「失礼な」ローレッタが言う。「全能が残ります」
「優しいとか可愛いも残りますよ!」
ノエルまじ天使。
今すぐ抱き締めたいっ!
でも私は学んだのだ!
殿方に、いきなり、抱き付いてはいけないと!
それを学ぶのに、ずいぶんと長い時間が必要だったけれども。
コホン、と私は咳払いして落ち着く。
「とりあえず、今ある情報だけちょうだい。詳細な情報は、今度うちの城に持って来ておくれ。その時に、費用を全額払うから」
有名人の基礎情報はすでにあると思ったので。
「今ある情報はキチンとまとめて、なるべく早く大公の城に届けよう。残りの費用についても、その時に見積書を提出する」
ヨーナが片手を広げて言った。
「お金はいくらでも払うから、調査自体は今日から始めておくれ」
「お、おう。やっぱ大公は違うな」
「それじゃあヨロシク」
用が済んだので、私はクルリと踵を返す。
そのままスタスタと歩いて、酒場を出る。
みんなも私に続いた。
「次は何をするんだ」とジェイド。
「特に決めてないよ」
「夕飯はどうするんだ?」
「それも特に決めてないよ」
私はとりあえず、王城の方へと歩いた。
「なら、うちで食っていかないか!?」
「ほう。ハウザクト王国の王族の夕食……興味あるね!」
というわけで、ジェイドの家で夕飯を貰うことに決まった。
まぁ、夕飯にはまだ早いけどね!




