5話 情報屋のナヨリちゃん
レイナルド王国、円形闘技場の上空。
私は丁寧にチヌークを着陸させた。
円形闘技場の中心に。
まぁ、今日は闘技場には誰もいないので、特に問題はない。
それに、ハウザクト王国の王家を通して、ここに着陸することはレイナルド王国に伝えてある。
私たちはチヌークの外に出て、荷物も全部外に出した。
主に側仕えたちと護衛騎士たちが荷物を運んでくれた。
ホッ、と息を吐いてから、私はチヌークを消す。
そして周囲を確認。
客席は三階まである。
円形闘技場とは言うけれど、実際には楕円形で、かなり広い。
「おおー、ここで戦うのか」
アランがキョロキョロと周囲を見回す。
「これは、かなりの人数が収容できそうですね」
ローレッタが感心した風に言った。
「最大6万人だそうだよ」
事前に調べていた私が言った。
ちなみに、この円形闘技場は国営闘技場である。
戦闘以外にも、色々な出し物がこの闘技場で行われる。
私はレイナルド王国について、割と丁寧に調べ直した。
それで分かったのだけど、今回の大会には政治的な事情もあるみたい。
王政府と冒険者ギルドの仲がいいことをアピールする狙いがある。
なんでかって言うと、現在この国ではある地方の分離独立派が不穏な動きをしているから。
冒険者は一般的に、高い戦闘能力を持っている。
故に、冒険者が王政府の味方だと印象付けたいってわけ。
独立戦争なんか始めたら、冒険者も王政府の味方に付くかもしれないぞ、と。
「さて、それでは宿に向かいましょう」
セシリアが淡々と言った。
ちなみに、宿の予約はセシリアに任せていたので、どんな宿なのか私は知らない。
ローレッタが魔法で荷物を全部浮かせる。
「おぉ! ローレッタの魔法はすごいな!」
アランが嬉しそうに言った。
本当、仲がよろしいことで。
「では行きましょう」
セシリアが歩き始め、みんなそれに続く。
浮いている荷物も、ふわふわと勝手にローレッタを追う。
「悠久の風に宿りし神が、麗しの乙女たちの糧を優しく運ぶ、か」
なんだって?
アランがいきなり何か言った。
よく分からなかったけど、風魔法で私らの荷物を運んでるって言いたいの?
さすが王族、使う言葉が難しい。
まぁ、ジェイドとクラリスは普通だったけれど。
あと、やっぱりちょっとカッコいい系の言葉を使ってるね。
「ただの風です。神は宿ってません」
ローレッタが淡々と言った。
ああんっ!
そこはほら、言葉のアヤってやつだよローレッタ!
「神じゃなくて、女神、かもしれないよ?」
私がアランの方を見て言った。
バッチーンとウインクかましながら!
さすがにちょっと、あざとかったかな?
アランはちょっと驚いた風に目を丸くしたけれど、すぐに少し微笑む。
「いい匂いのする……女神……」
アランがボソッと言った。
よく聞こえなかったけれど、ローレッタがアランを睨んだ。
アランは慌てて視線を下に向けた。
警備員らしき人物が2人、駆け寄ってきた。
身分を明かすと、警備員2人は笑顔になって私たちを案内してくれた。
話は通しているのだから、当然だね。
私たちは案内に従って、円形闘技場の外に出た。
そこから通りを歩き、宿に向かう。
どうやら、セシリアはちゃんと事前に地図を暗記しているようだ。
迷うこともなく進んでいくから間違いない。
そして。
レイナルド王国の人々が、珍しそうに私たちに視線を向けた。
かなりジロジロと見られている。
おかしいな、私らと彼らに大差はないはずだけれど。
レイナルド王国の人たちは日焼けしてる人が多いけど、私らはみんな日焼けしてないから?
「あたしたちの服が綺麗だからでは?」
ローレッタが私の表情を読んでそう言った。
「なるほど! 確かにそうだね。私らの軍服ワンピース、セシリアたちのお仕着せ、騎士たちの制服に、アランの見るからに高価な服! 確かに珍しいかも!」
「いや違うって!」アランが驚いた風に言う。「どう見ても女神の風が運ぶ荷物を見てるぞ!?」
アランの言葉で、私とローレッタは驚いた。
セシリアとフィリスも驚いていた。
騎士2人はうんうんと頷いている。
「ああ、わたし、いつの間にかミア様とローレッタ様の魔法が普通になってた……」
「わたくしもですフィリス。ローレッタ様の『服が綺麗』発言に納得していました」
フィリスとセシリアが複雑な表情で言った。
「そっか、考えてみれば、この大陸での魔法使いの立ち位置ってうちとほぼ同じなんだよね」
「ですね。かなり珍しいかと。完全に失念していましたお姉様」
「大丈夫、私もだよ」
私は小さく両手を広げた。
「ねぇねぇ! 君たちはどこから来たの?」
突然、銀髪の少女が私たちの道を塞ぐように立ちはだかった。
セシリアが歩みを止めたので、私たちも合わせて立ち止まる。
酷く、そう、酷く美しい少女だった。
年齢は13歳前後。
吸い込まれそうなほど澄んだ、緑の瞳をしている。
少女は人懐っこい笑顔を浮かべている。
高価な服ではないが、安物でもない、中流階級っぽい出で立ち。
商人の子供とか、そういう感じかな?
セシリアが少し移動して私に視線を寄越す。
現在、この一団のボスは私である。
身分的にはアランだが、今は拉致されただけの少年である。
あ、拉致って言っても、書き置きを残しているので、前にジェイドとクラリスが消えた時ほどの騒ぎにはなってないはず。
「私たちはハウザクト王国から来たんだよ」と私。
「言葉使い」とセシリア。
「わー、もしかして、戦闘大会の見学!?」
少女はにこにこしている。
何か売りつける気かな?
「わたくしは参加しますわ」と私。
「そうなの? 私もなんだよ!」と少女。
「え? 君みたいな若い女の子が?」
「え? 君にだけは言われたくないけど?」
少女が苦笑いした。
そうだった。
私の方が若いんだよね。
「それにね?」少女が言う。「私、見た目よりずっと年上だよ? 罰ゲームで子供にされただけで」
「そうですの? わたくしは見たままですわ」
罰ゲームで子供にされるってなんだよ。
よく分からないので、スルーしよう。
「あいつら、みんなしてロリコンなんだよね! 子供の私は可愛いんだってさ! 失礼しちゃうよね? 大人の私だって絶世の美女なのに!」
おおぅ、自分で言うか!
いや、まぁ、確かに大人になったら絶世の美女だろうけど。
国の1つや2つは傾くレベルの美女になるだろうけど。
「私ナヨリ。情報屋のナヨリちゃんって言えば、知ってたりする?」
私は首を横に振った。
他の仲間たちもみんな首を振った。
うーん、ごめんねナヨリちゃん。
「そっか。割と有名なはずなんだけどなぁ」ナヨリちゃんが肩を竦める。「まぁいいや、戦闘大会で会おうね、ミアちゃん! ローレッタちゃんも! 会えて良かった!」
ナヨリちゃんは笑顔で手を振って、駆け足で私らから離れた。
「お姉様」
「ん?」
「あたしたち名乗ってませんよね?」
「……そうだね、名乗ってないのに、ナヨリちゃんは私らを知ってたね」
「情報屋すっげぇ!」
アランがワクワクした様子で言った。
「最初からあたしたちのこと知ってて、接触したみたいですね」
「だね。敵情視察的な感じかな?」
「分からないです。ただの挨拶っぽい気もしますし」
「有り得るね。どっちにしても、戦闘能力は高いと思うよ」
「なんで分かるんだ?」
アランが不思議そうに言った。
「立ち姿が綺麗だったのと、走るフォームも綺麗だったから。なんというか、洗練された令嬢みたいな動きというか、熟練の格闘家みたいな動きだったから」
「すごいなミア! それで相手の実力が見抜けるのか!? オレも弟子にしてくれ!」
「ジェイドたちは弟子じゃなくて、部下だよ?」
「そうだった! じゃあ部下になりたい! オレも見ただけで相手の実力見抜きたい! カッコいい!」
私はカッコいいと言われて良い気分になった。
「よろしい。では今日から君も私の部下にしてあげよう!」
私が言うと、アランはピョンピョンと跳ねて喜んだ。
可愛い!
はい可愛い!
ローレッタはなぜか苦虫を口いっぱいに詰め込んだみたいな顔してた。
そんな顔しても可愛いよローレッタ!




