4話 快適な空の旅
私はチヌークの操縦席でローレッタとアランを待った。
ここは王都、王城の上空。
チヌークというのは、『CH-47 チヌーク』という名称の大型輸送ヘリコプターだ。
全長約30メートル、タンデムローター式。
貨物室が広く、高機動車の空輸も可能。
人員ならば最大で55人が空輸可能である。
さてこのチヌーク、陸上自衛隊に配備されている『JA型』がモデル。
本来なら日の丸が描かれている部分は、ローズ領の薔薇の紋章に差し替えた。
もちろん、私の仮創造。
私の魔力はキドセンを仮創造した時から、すでに2倍の魔力量となっている。
とはいえ、このサイズの仮創造を長く維持するのは不可能。
だから、貨物室には山盛りのブルーマナポーション、通称青ポを積んでいる。
この青ポ、私が毎日コツコツと創造したものだ。
そう、こんな日のために。
「ただいま戻りました」
アランを抱いたローレッタが、後部のカーゴドアからチヌークに乗り込む。
ローレッタは風の魔法で空が飛べるので、私は上空で待っていても問題ないというわけ。
ローレッタが操作パネルをいじってカーゴドアを閉める。
「これは何だ!?」
アランは酷くビックリした風に言った。
「チヌークR型です」とローレッタ。
R型のRはローズ領のR。
ちなみに、貨物室にはローレッタとアラン以外に、セシリアとフィリスもいる。
ついでに私たちの護衛であるローズ騎士も2人。
ぶっちゃけ護衛なんかいらないけど、父のカイルがどうしてもと言うので仕方なく連れてきた。
騎士は男女1人ずつだ。
男の方を選んだのは私。
実力はどうでも良かったので、顔だけで選んだ。
女の方はローレッタが選んだ。
「さてそれじゃあ、ここからレイナルドまで約10時間のフライトだけど、まぁ楽しもう」
私はオートパイロットを設定して貨物室へ移動。
私は【全能】なので、このチヌークR型には色々な機能を付加している。
キッチンとトイレも完備。
私はとりあえず、青ポを1本飲んだ。
魔力消費が激しいので、10時間で相当な量を飲まなきゃいけない。
「レイナルドまで10時間でいけるのか!?」
アランがビックリした風に私を見た。
今日のアランも可愛い。
服装は前にジェイドが着ていたのと同じデザイン。
制服っぽい白い服とズボンに、青色のマント。
私とローレッタは軍服ワンピースの冬仕様。
今はもう12月だ。
もちろん、戦闘服も持って来ている。
「だいたいそのぐらいだよ」
言いながら、私はアランに寄っていく。
アランはサッとローレッタの背後に隠れた。
ぐぬっ……そんなに怖がらなくても。
襲ったりしないのに。
「とりあえず、お茶にしましょう」
セシリアが淡々と言って、お茶の用意を開始。
フィリスもそれを手伝う。
「……さすが姫様方の側仕えですね。肝が太い……」
男の護衛騎士、グレン・ファーリーが言った。
グレンは24歳の男で、騎士の試験に合格したのは20歳の秋。
髪の色は桃色。
ローレッタの桜色よりもピンクが濃い。
顔は優男風だが、爽やかでいい感じ。
背丈は平均的だが、筋肉質でいい身体。
でも、高いところが少し怖いみたい。
「まさか!! 私が! 空を! 飛ぶなんて!」
もう1人の護衛騎士、ニーナ・ゴアが大げさに言った。
ニーナはバブルウィンドウから外を見ている。
ニーナは23歳の女で、結婚する気はないそうだ。
髪の色は若草色で、私の瞳と同じ色。
髪型はショートカット。
何よりも騎士が好きというタイプなので、レックスと気が合うと思う。
「オレも! オレも外が見たい!」
アランはシートに飛び乗ってバブルウィンドウから外を見る。
「すごい! 王都がもうあんな遠くに! すごいすごい!」
はしゃぐアランが可愛い。
押し倒しちゃうぞぉ!
「お姉様、表情」
ローレッタがギュッと私のお尻を抓る。
痛いっ!
でもなんか、もうこれ様式美みたいになってるね!
抓られないと安心できない身体になりそう!
それから、私たちはお茶を飲みながら軽く雑談。
そして私は持参していたチェス盤をセシリアに出してもらう。
「アラン、一戦どうだい? 王族なら、嗜んでるよね?」
私が挑発的に笑うと、アランは頬を染めた。
さすがにこのタイミングで照れたとは思えない。
挑発されてムッとしたのだろう。
「やる……」
アランが私の対面に座る。
ちなみに、椅子などはない。
私たちは貨物室の床にそのまま座っている。
「お先にどうぞ」と私。
アランが駒を動かす。
初戦は私の勝利。
ふふっ、前世で団長に鍛えられたからね!
私、頭使うの実は苦手なんだけど、団長がスパルタだったんだよね!
あと、今世では頭良い設定なので、そうそう負けない。
2戦目、3戦目も私が勝った。
接待などしない。
相手が可愛くてもこれは盤上の戦争。
手を抜くことはない。
「ぐぬっ……強い……」
アランが悔しそうに言った。
「では、次はあたしが」
「どうぞ」
私はローレッタに席を譲る。
「……お姉様と勝負したかったのに……」
ボソッとローレッタが何か言ったけれど、すぐにアランの前に座る。
そして。
「オレ……実は頭悪かったんだ……。城では負けナシなのに……。きっと、みんなオレが王子だから手加減してたんだ……ぐすん」
ローレッタに完膚なきまでに叩きのめされたアランが涙ぐんだ。
泣き顔も可愛い!
「そんなことないと思うよ?」私はアランを慰める。「少なくとも、ジェイドとクラリスには勝てると思う。レックスにもね。ノエルは頭いいから、ノエルには負けるかもだけど」
「誰……?」
アランが首を傾げた。
ああ、レックスとノエルを知らないのか。
「私の部下」
「そういえば、ジェイド兄様と、クラリス姉様も、ミアの部下って聞いた」
アランがまだ少し潤んだ瞳で私を見た。
「あたしたちは誉れあるミア・ローズ隊です!」
ふんすっ、とローレッタ。
「その名称、早めに変えよう」
自分のフルネームが隊の名前なの恥ずかしい。
貴族なら誇らしいのかな?
自分の像とか立てるやつもいるしね。
私は絶対に無理だけど。
「じゃあ薔薇十字団とかどう!?」
アランが嬉しそうに言った。
「十字はどこから出てきたんですか?」とローレッタ。
「なんとなく! カッコいいから!」
「ええ、まぁ、カッコいいとは思いますが」ローレッタが苦笑い。「十字はうちと関係ないですし、もちろんお姉様とも関係ないですし……」
あと、それ前世の秘密結社の名前な。
カッコいいとは思うけど、使いたくない。
「じゃあ黒薔薇隊は!?」
「なぜ黒です? カッコいいからですか?」
「漆黒の闇に呑まれた暗黒の薔薇!!」
「……いえ、あたしたちは闇に呑まれてないです」
まったくだ。
むしろ私らって太陽みたいにいつも笑ってると思うけど。
「じゃあ灼熱の赤薔薇隊!」
「あたしたちは灼けてないです、熱くないです」
「ローレッタは我が儘だなぁ!」アランが楽しそうに言う。「じゃあこれは? 深淵の薔薇!」
「あたしたちはそんなに奥深くないです」
そういえば、と私は思い出す。
アランはゲーム中でも、割とカッコいい系の言葉選びをしていたような?
ここまで露骨ではなかったけれど。
「あとは、天使降臨、創世の白薔薇隊!」
「天使いないです。世界作ってないです」
いやローレッタは天使。
まぁ世界は作ってないけど。
「禁断の紫の薔薇連隊!」
「規模は小隊です。紫が禁忌だとは思っていません」
「もぉ! じゃあローレッタもカッコいいの考えろよ!」
アランは怒った風に言ったが、本当に怒ったわけではなさそう。
ローレッタと仲がよろしいことで。
くっ……アランもローレッタに惚れたの?
まぁローレッタは超絶可愛いから仕方ないけどさ!
「……お姉様が隊長なので、お姉様が決めたらいいと思います」
ローレッタは少し困った風に笑って、そして私に丸投げした。




