3話 戦闘大会に向けて
「【鑑定】の魔法によりますと、その伝説の武具は『宝剣アルマス』という名前で、氷の刀身を持った美しい剣だそうですわ!」
クラリスは遠くを見ながら両手を胸の前で組み、熱っぽく言った。
「更に更に!」クラリスのトークが止まらない。「氷の魔法が付与されていて、魔法使いじゃなくても氷系統の魔法が使えるようになる、って話ですわ! すごい武器ですわ! アタクシも将来は、こういう武具を発見したいですわね!!」
「クラリス、ちょっと落ち着い……」
「そのアルマスが!! ですわよ!!」
第一王妃がクラリスを制止しようとしたが、クラリスは止まらない。
「戦闘大会の賞品として、出ますのよ!? これは欲しいですわ!! とっても欲しいですわ!!」
「ああ、うん、はい。そうですわね」
私は曖昧に返事をした。
クラリスはぶっちゃけ、私の返事なんか求めていない。
自動小銃みたいに喋りまくる。
「そもそもギルド主催の戦闘大会というのは、現役冒険者以外にも、腕自慢なら誰でも参加可能な大会ですの!!」
クラリスの目は爛々としている。
私はとりあえず、お茶を飲んだ。
他のお茶会メンバーも諦めてお茶を飲み始めた。
「死んでも自己責任という、割とハードな大会ですけれど、むしろだからこそ、人気の大会でもありますの! あ、もちろん、凄腕の冒険者たちが危険を感じたら戦闘を止めてくれますわ! ただ、間に合わなくて死ぬこともある、という意味で、死んでも自己責任という意味ですわ! 殺しを推奨しているわけでは、ありませんのよ!?」
クラリスが喋り終わり、私はクッキーを食べた。
「というわけで、みんなで見学に参りましょう!」
「ん? 見学? 参加じゃなくて」と私。
「もちろん参加したいですわ! でも、大反対されていますの……」
クラリスがチラッと第一王妃を見る。
「当たり前です」第一王妃が苦笑い。「そもそも、冒険に出ていいのは15歳から。個人的には、冒険もして欲しくはありませんけれど、王の采配なら仕方ありませんから」
「じゃあ私が……こほん、わたくしが参加しますわ」
面白そうだし。
「お姉様が出るならあたくしも」
ローレッタが楽しそうに言った。
「あらあら?」ジュリアが苦笑い。「別に構わないけれど、お願いだから、あまり人を殺さないでね?」
「なるべく足を撃ちますわ!」と私。
「弱い魔法を使います!」とローレッタ。
私たち母娘の会話に、第一王妃と第二王妃が引きつった表情を浮かべていた。
あれ?
なんか変な会話したかなぁ?
「だったらアルマスは買い上げますわ!! 冒険に出る時の、アタクシの武器にしますの!!」
「いいですわよ。金貨100枚ですわ」
「払いますわ!!」
商談成立。
金貨100枚を元手に魔力機関を開発しよう。
「あの、オレも、その、見学に行きたい……ぞ?」
アランが少しビクビクしながら言った。
私がアランの方を見ると、パッとアランは目を逸らしてしまう。
くっ……悲しい!
「いいですわよ。アタクシと行きましょう。ジェイドも行きますわよね?」
「うむ。俺様も行く。ミアも一緒に行くか? うちの馬車や船で」
「大会はどこで開催しますの?」と私。
「南の大陸の国、レイナルドですわ」
人名みたいな国名だね。
ええっと、確かバナナが名産だったかなぁ。
季節が夏と秋しかなくて、一年の多くは暑い。
湿度も高く、ちょっと慣れが必要な気候。
近隣諸国のことは覚えている。
ハウザクト王国の南には大陸がある。
レイナルドは確か、真っ直ぐ南下して2つ目の国を東に行けば、そこがレイナルド。
「ふむ。私とローレッタは別で行くよ」
「そうですの……残念ですけれど、仕方ありませんわね」
「まぁ別にいいが、またどうせ空から行くとかだろう?」
ジェイドが苦笑い。
「ま、そんなところさ」と私。
「こら、喋り方」
ジュリアが小さいけれど鋭い声で言った。
その後のお茶会は、特に問題もなく進んだ。
アランとあまり話せなかったのが残念だけれど。
最初にやらかしたせいで、私の方をあんまり見てくれないんだよねぇ。
◇
クラリスからの手紙で、アランを拉致してくれと頼まれた。
「お姉様、どうして難しい顔をしているのです?」
お茶を飲んでいるローレッタが言った。
ここはローズ領、ローズ家の屋敷、リビングルーム。
「うーん。どうやら、アランが見学に行けないらしいんだよね」
「まぁ! それは良かったです!」
ローレッタがパッと笑顔に。
ふむ。
やはりローレッタも危惧していたのか。
私は全然、気付かなかったのだけど、国の後継者2人が同時に同じ場所に行くのは推奨されないのだ。
何かしら事故が起こった場合、両方失うから。
国内ならまだしも、国外ともなれば、王子2人が一緒に行くのはまず不可能。
という趣旨のことを、クラリスの手紙で知った。
「……これ以上、お姉様に近づけるわけには……」
ローレッタがボソボソと何か言った。
「まぁでも、アランは戦闘大会をすごく楽しみにしてたみたいなんだよね」
アランは何気に強い。
将来は革命軍を率いるぐらいだから、カリスマ性もある。
たぶんレックスよりは弱いけど、それでも剣の腕はかなりのものだったはず。
もちろんゲーム知識。
まぁだから、戦闘大会とかは好きだろうなぁ、と思ったわけ。
「でね?」私が言う。「クラリスに頼まれたのだけど、私たちがアランを拉致して、一緒に連れて行ってくれないかって」
リビングに沈黙が降り積もる。
フィリスの口元がヒクヒクと痙攣し、
「何を! とんでもないことを! 頼んでんですかあのお姫様はっ!!」
そしてフィリスが叫んだ。
「いくらなんでも、自国の王子を拉致するのは……」セシリアが言う。「もちろん、他国の王子もダメですが……」
「お姉様、アランの同伴がダメなのには理由があります」ローレッタが言う。「そっとしておきましょう。ええ。それがいいです」
「ああ! 今日のローレッタ様はまともだわ!!」
フィリスが嬉しそうに言った。
「当然です!」ローレッタが胸を張る。「セシリアも同意見でしょう?」
「もちろんですローレッタ様。いくらクラリス姫の頼みでも、これは断ってくださいミア様。何かあった時、責任を取れません」
「そっか。まぁみんながそう言うなら、断りの手紙を書いておくよ」
私はクラリスに返事を書いた。
『おっけー! 任せて! アランは私がもらったぁ!! はっはー! ちなみに本人が嫌がっても連れて行くね?』
ふふっ、私はそんなに素直な良い子じゃないんだよ!
欲望に忠実!
「お姉様」ローレッタが優しい笑顔で言う。「その緩んだお顔は、お断りの手紙を書いた顔ではありませんね?」
ローレッタがゆっくりと手を伸ばし、書きかけの手紙を取り上げる。
ああんっ、バレた!
仕方ない、こうなったらちょっと本気で拉致しようかねぇ。
私は表情を引き締めた。
ローレッタが溜息を吐く。
「お姉様、本気で拉致しようと思ったでしょう?」
ああんっ!
またバレた!
「分かりました、お姉様に陰で動かれると色々面倒になりそうなので、アラン王子は連れて行きましょう」
「いいの!?」
「いいですよ。ただ、二度と抱き付いたりしないように」
「はぁい!」
私が笑顔で言うと、ローレッタがまた溜息を吐いた。
大丈夫だって!
そんな何回もやらかさないって!
「あぐぅ……今度こそ」フィリスが半泣きで言う。「処断されるんだわ……」
「大丈夫ですフィリス」セシリアが言う。「その前に中央と開戦するでしょう……」
とりあえず、私はクラリスと何度か手紙をやり取りして、アラン拉致計画を進めた。
実に単純な計画だ。
アランが王城の所定の位置で待つ。
もちろん決められた時間に。
ローレッタがアランを連れて私と合流。
そして私たちはレイナルド王国へ。
実に単純明快。