EX07 最強領地10年計画・改訂版
王家との初のお茶会は10月16日に決定した。
ちなみに、今日はまだ8月22日。
ローズ領の山中で大規模レンジャー訓練を終えてから20日。
私とローレッタはリビングで領地を富国強兵するための案を練っていた。
「当初の計画ですと、最強には遠かったですね」
言ってから、ローレッタがお茶を一口飲む。
ああ可愛い。
お茶飲んでるだけで可愛いとか本当反則。
「そうなんだよねぇ。思ったより世界は広かったね」
私のゲーム知識だけでは追い付かない。
多くの本を読み、色々な人の話を聞き、私は世界を知った。
正直、ハウザクト王国はさほど進んだ国ではなかった。
平均的と言えば、まぁ平均的だけどね。
「やはりハウザクト王国を簒奪しますか? ローズ領だけでは、ちょっと厳しそうです」
「うーん。それもいいけど、ローズ公国としてまずは独立したいかなぁ。ジェイドが王様の間は、友好国として活用できるだろうし」
「なるほど! 好意を利用すると! さすがお姉様!」
やばい、私、めっちゃ嫌な奴じゃない?
ジェイドはローレッタが好きだから、その気持ちを利用するってことだよね?
そんな意図はなかったけど、そんな風に聞こえるよね!
うん、でも、ローレッタはなぜか嬉しそうだし、訂正の必要はなさそう。
「まぁとりあえず、とにかく軍拡しないと話にならないんだよね」
ローズ領は経済や治安には問題ない。
貧民街のような場所もないし、領民生活は概ね良好。
「それと、教育にもう少し力を入れた方がいいかもしれません」とローレッタ。
「貴族の? 平民の?」と私。
貴族には貴族の、平民には平民の学校がある。
どちらの学校も一般教養にそれほど大きな差はないはず。
「平民ですお姉様。識字率は高いですし、知能指数も王国内では平均的ですが、平民学校に入る前の段階で知識に差がありすぎます」
ローレッタの言葉に、私は深く頷いた。
「貴族と違って自宅学習の質が低いってことだね?」
「はいお姉様。多くの平民は家庭教師を雇えません。ですので、親の知識量に依存します」
ハウザクト王国の子供は、12歳で学校に入るまでは自宅学習だ。
よって、入学時に学力の差が割とあるのだ。
貴族と平民でも差があるし、平民同士でも差がある。
特に、子供の頃から親の手伝いをすることの多い農村部の子供の知識量が低い。
その知識の差が、いくつかの弊害をもたらしている。
分かっている子たちにバカにされ、学校をドロップアウトしてしまったりとか。
理解できないまま授業が進んでしまったりとか。
「平民用の初等学校の設立を提案しよう。一般的な貴族の子たちと同じ水準を目標に、2年から3年ぐらい、理解力に応じて通う感じがいいかな」私が言う。「同時に、学習局を教育庁に格上げして、学校入学時の学力差をなるべく小さくする方向でお父様に話してみよう」
「はい。そうしましょう。次は、技術革新についてです」
「銃がすでに存在してたのは想定外だったね」
ちなみに、ローズ領ではすでに火縄銃の量産が始まっている。
来年の初めには、鉄砲隊が組織される予定だ。
「その通りです。そこで、キドセンを配備するのはどうですか? もしくは10式戦車でもいいですけど」
「そうしたいけど、あれを作る技術はないね。仮に作れたとしても、燃料がないし」
「お姉様が創造すればいいと思います」
「お姉ちゃん干からびちゃう!」
魔力の使いすぎで。
それに燃料の問題が解決してない。
私の仮創造なら私の魔力で動かせるけど……ん?
あれ?
燃料、魔力にすれば良くね?
蒸気機関の代わりに魔力機関みたいなの作れば、魔法使いが動かせる。
将来的には、ローズ領で魔法使いを囲う予定なのだ。
いける?
魔法使いの人数的に厳しいかな?
「お姉様?」とローレッタが首を傾げる。
はい可愛い!
首を傾げると本当、可愛すぎて今すぐ抱き締めたくなる!
私は考えていたことをローレッタに伝えた。
抱き締めたいってことじゃなくて、魔力機関の方。
「ふむ」ローレッタが思案する。「いいと思いますね……。サルメが言っていた、誰でも本当は魔法が使える、というのが事実なら、ですけど」
「確かに。ちょっとサルメに詳しく教えるよう、手紙を書いてみるよ。詳細が分かったら、レックス、ジェイド、クラリスで実験しよう」
事実なら非常に画期的。
「こちらは魔法局を新設して、そっちと協力して行うのがいいと思います」
「だね! さすがローレッタ!」
私って賢い設定なんだけど、ローレッタの方が賢い気がする。
どうせ魔法局は必要になるのだから、今のうちに作っておいても損はない。
まぁ、現状だとほとんどの局員が普通の人になっちゃうけど。
「では次に、海軍の設立についてですね」
「うん。すでに提案してるから、現状の確認だね」
現在、ローズ領には海軍がない。
領兵団の中に、海上警備中隊があるだけだ。
ローズ領はハウザクト王国の左下に、ちょこんと出っ張っている。
要するに、半島になっているのだ。
故に、東以外の三方が海である。
なのに海軍がない。
他の海に面した領地も同じだ。
現状、領地での海軍の保有は不可となっている。
この国は内戦を恐れすぎているように感じるけど、まぁ仕方ない。
現在の王家が統一するまで、血で血を洗う戦国の世だったみたいだし。
ちなみに、領地は海軍を持てないけど、ハウザクト王国には海軍が存在している。
中央が決めた軍港が数カ所あって、そこにハウザクト海軍の基地がある。
規模は3000人ぐらいかな、だいたい。
「はい。中央を納得させるための根回しが、もう少しかかりそうです」とローレッタ。
「そうだろうね。海に面している領地を多く味方にしてから、中央に提言しないとね」
現在の領兵制限は不公平なのだ。
海に面していない領地は、全部陸軍でいいけど、私ら海に面した領地はどうしても海上警備隊が必要になる。
「最低でも、海軍は別枠で1000人は欲しいですね」
「だね。個人的には領兵団と同じ数でもいいぐらいさ」
でも、兵団と同じ数はたぶん通らない。
私たち海に面した領地が武力を持ちすぎるから。
500人から、多くて1000人が妥当な線だと思う。
ちなみに、領内での根回しは済んでいる。
大砲の設計図も売ったし、戦列艦用に転用するための設計図も合わせて売った。
現在、軍用の造船所の建設や、軍港の建設も計画済み。
中央の許可が降り次第、即時進めることができる状態だ。
「お嬢様たちは、本気で最強を目指しているのでしょうか?」
ずっと近くにいたセシリアが言った。
「もちろんだとも」
「目指しています。あたしとしては、ローズ世界大帝国を打ち立て、全大陸を支配したいと思っています!」
ふんすっ、とローレッタが胸を張る。
「わぁ、修羅の道だぁ……」フィリスが呟く。「……途中で負けて……処刑されて……ああ嫌だわ……ローズ姉妹を育成した側仕えとして、わたしも一緒にギロチンに……」
「ビックリするほど悲観的だね君は!」
私は驚いて言った。
「楽観的な世界征服って、むしろどうなんですかっ!?」
フィリスが半泣きで言った。
ふむ。
一理あるか。
「フィリス、落ち着いてください」セシリアが言う。「今だけの夢だと思います。成長するにつれ、子供の頃の夢は夢のままになるものです。経験あるでしょう?」
「ありますけどぉ、ありますけどね? お嬢様たちは、なんだか本当にそっちに進みそうな気がしますもん……」
まぁ、私は世界征服までは考えてない。
ただ、ローレッタが目指すなら応援したいね。
「お嬢様方」セシリアが言う。「お二人は天才だと思います。それも、世界を見回してもトップクラスに頭がいいと存じます」
いきなり褒められたので、私はちょっと照れた。
ローレッタも同じだったようで、嬉しそうに頬を染めている。
「ですから、その知能を平和のために使ってみませんか? 侵略や征服のためでなく」
「そうですよ!」フィリスが援護射撃。「お二人なら、きっと世界を平和に導くこともできると思います! 聖女ローズ姉妹! 絶対そっちの方がいいですって!」
「聖女……か」
私はちょっとグッときた。
聖女。
ヒロインっぽくていい!
響きがいいよね!
って、私あれじゃん!?
悪役令嬢じゃん!
しかも乙女ゲーム『愛と革命のゆりかご』シリーズ最強にして最悪のラスボス王妃!
存在自体が聖女の真逆!
しかも、中身は傭兵!
「聖女ですか……ふむ」
ローレッタは何か考えている様子。
ああ、ローレッタなら聖女の称号が似合いそう!
だって現時点で、天使みたいに可愛いし!
「お姉様なら聖女よりむしろ、聖なる皇帝で《聖帝》の方がカッコいい気がします……。《聖帝》ミア・ローズ。あ、カッコいい……これは惚れます……」
ローレッタが何か言ったけれど、小声だから聞こえなかった。
ローレッタって、たまに考えてることが独り言になっちゃう癖があるんだよね。
それはそれで可愛いからいいけどさ!
「王家との仲も良好のようですし、そっち方面に舵を切るのもいいですよ」とセシリア。
「まずは王家とのお茶会でやらかさないことが大事ですけどね……」
フィリスが苦笑い気味に言った。
大丈夫だよ、私もローレッタもそう何回もやらかしたりしないし。




