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第19話

「遅い!もう一週間だぞ!いつになったら、あいつらは戻ってくるのだ!」


メイの部屋とは違う王宮にある別の部屋では四人の男が集まっていた。

その中の一人、金髪の男が秀麗な顔を歪ませて、苛ただし気に叫んだ。


「…もしかしたら、何かあったのかもしれません。何せ、彼らが行った場所は黒の森です。黒の森に入った人間は二度と生きて帰ってこないと言いますし…、森に住む化け物に食い殺されたか…、もしくは呪い殺された可能性も…。」


眼鏡をかけ、クールで理知的な雰囲気を持つ男が顎に手を添えて呟いた。


「ええ?あんなの、ただの迷信でしょ?呪いとか化け物とかあんなの、嘘に決まってんじゃん。」


パッと見は女に見えそうな位に愛らしい容姿の美少年は幼い口調で小首を傾げて言った。


「じゃあ、結局、肝心な事は何も分からないって事か。」


精悍な容姿に長身で大柄な体つきの男がチッと舌打ちをした。


「あの女を護送した兵士も行方不明のままだぞ…。一体、どうなっているんだ。こうなったら、もう一度別の騎士を使って…、」


「けど、この分だとまた同じことが起きるんじゃないのか?」


「私もそう思います。それに、陛下にこの事が露見すればどうなることか…、」


そう。彼らは国王から黒の森に深入りするなと言われているのにも関わらず、その命令に背いているのだ。バレたら、幾ら王太子だろうと叱責されるのは目に見えている。

だからこそ、彼らはバレないように慎重に事を運ばなければならないのだ。護送した兵士が行方不明なら、騎士を派遣してあの偽聖女の末路を確認すればいいと考えていた。それだったら、国王にバレることもなく、すぐに判明するだろうと。だが、その騎士達が何の音沙汰もなく、未だに帰ってこないのだ。

これ以上やれば、国王にバレる可能性がある。


「別に確かめる必要はないじゃん。あの女は箱入りのお嬢様だよ?森に捨てられて三日も生きられるわけないよ。大方、野垂れ死にしているか、狼にでも食い殺されているって。あいつにふさわしい最後だよね。」


アハハ!と笑う美少年に確かにと男達は頷く。


「そうですね。あの森の噂が本当なら、あの偽聖女が生きている可能性は限りなく低いでしょうし。」


「そうだな。これ以上、下手に動くと父上に気付かれる。」


王太子の言葉により、これ以上の詮索はしないでおこうという結論に至った。

偽聖女、セラフィーナは死んだのだと彼らは信じ込んでいた。いつの間にかその会話を窓辺にいた鴉が聞いていた事にもその鴉が飛び去ったことにも気付かなかった。





羽根をばたつかせながら一匹の鴉がヴァルスの元に戻った。

バサバサ!と羽音をさせてヴァルスの差し出した腕にとまった。


「…ご苦労だったな。」


ヴァルスはその鴉に一言声を掛け、鴉の頭に手を触れた。


先程、見てきた光景と会話を鴉の目を通して確認する。


「やはり、この女が黒幕か…。」


既に終わったことで誰にも聞かれていないからとはいえ、自らの悪事を暴露するメイに呆れた。

独り言の多い女だ。しかも、かなり妄想癖の激しい女で自らを特別な存在だと思い込んでいるらしい。

ゲームやら悪役令嬢やらヒロインやら知らない単語も出てくるので意味不明な発言も多いが要するにこのメイという女は聖女の座が欲しくて、セラフィーナを陥れて聖女の座とついでに王太子の婚約者の座も奪い取ったということは理解した。

セラフィーナを排除することで誰が一番得をするのかと考えれば見当はつく。


異世界の少女、メイの存在は初めから知っていた。

莫大な魔力量と光の魔力保持者であることから彼女こそが真の聖女だと言われていることも。

ヴァルスは以前、フェルを助けたという人間の女、セラフィーナがどんな女なのか様子を見に行ったことがあった。

直接会う事はなく、遠目に見ただけだ。だが、それだけでもセラフィーナの魔力の美しさを強く感じた。

思わず人間であることを忘れて、その美しさに目を奪われた。

今までたくさんの人間を見てきたがここまで美しい魔力を持つ人間は初めてだ。

人間の魔力は魂の色と関係している。魂が美しい者…、つまりは心が清らかな者は魔力も澄んでいて美しい輝きを放つといわれている。


だが、人間は本来、貪欲で身勝手な生き物だ。どれだけ外面を取り繕ったところで心の醜さまでは隠し切れない。

魔力の色を見れば、すぐにその本性が見て取れる。奴らの魔力はどれも濁っているし、淀んでいる。

今までたくさんの人間を見てきたが誰一人として、澄んだ魔力を持つ人間はいなかった。清らかな人間など存在しない。そう思っていた。それなのに、セラフィーナの魔力は他の人間の魔力とは明らかに違った。魔力が高いだけではなく、その色は…、白い光と金色の粒子に包まれ、美しく澄んだ輝きに溢れていた。

聖女とはいえ、所詮は人間。他の人間共と変わらないと思っていた。

だが、あの魔力の持ち主なら、聖女に選ばれるのも当然だと思った。


だからこそ…、異世界の女という存在に少し興味を抱いた。あのセラフィーナではなく、その異世界の女が聖女としてふさわしいといわれているのなら、その女はセラフィーナよりも美しい魔力の持ち主なのかと。

もしかしたら、異世界の女はこの国の人間よりも質のいい魔力を持っているのかもしれない。

その異世界の女が今後、この森にどんな影響を与えるのか分からないし、一度探りを入れてみるべきかと考え、鴉を飛ばして、メイの動向を探らせた。


が、鴉を通して、メイを目にした時、ヴァルスは落胆した。

人間達は異世界の女を褒め称えているが女はただ、少しばかり魔力が高いだけで別に普通の魔力だった。

魔力は高くても、肝心の魔力の色は濁り切っている。全体的に白くとも、所々に黒くてドロドロしたものが渦巻いていた。他の人間の魔力と変わらない。いや。むしろ…、他の人間よりも魔力の色は濁っている。

異世界の女の魔力は一見、派手で華やかで絶大な効果があるように見えるが欠点がある。愚かな人間達は目先の事に目を奪われ、その欠点に気付いていない。

あれは、見せかけだけの力だ。神聖魔法や浄化魔法といった聖女が扱う魔法は特に魔力の美しさが左右する。

あの女は聖女としての能力が欠けている。

人間には魔力の色は見えず、魔力量を測定する事しかできない。だから、奴らは気付かない。

魔力が見えなくとも、あの異世界の女の嘘くさい演技にああも簡単に騙されるとは人間とは愚かな生き物だ。

そう呆れたものだった。


あの異世界の女の登場でセラフィーナの立場が危うくなっていることは知っていた。

が、ヴァルスはあえて無視をした。人間に手を貸すような真似はもう二度としないと誓ったのだ。

それに、セラフィーナの魔力とメイの魔力は比べものにならない。

ヴァルスの目から見ても、セラフィーナは聖女としてふさわしい器だ。

今は異世界の女という物珍しさからメイが注目されているが次第にその価値に気付くことだろう。

セラフィーナの価値の高さは本物だ。幾ら愚かな人間共でも貴重な光魔法の使い手を失うような真似はしないだろう。そう思っていた。


セラフィーナは詳しい事情は話さなかった。

自分はもう聖女ではないという言葉でまさかと思い、鴉を飛ばして探らせたらすぐにその事実は判明した。

どうやら人間はヴァルスが想像していた以上に愚かだったらしい。


人は権力と財産、地位に強い執着を持つ生き物だ。

権力と地位に固執する人間は自らが高みに上る為なら、平気で他者を蹴落とし、踏み潰す。

そして、そのことに何の罪悪感も抱かない。

あの異世界の女はそういった執着と野心が人一倍強い。

聖女の地位というのはそんな汚い手を使ってでも手に入れたいほどに魅力的なものらしい。

セラフィーナはあの異世界の女の策略に嵌められ、聖女の地位を追われた。それだけの話だ。

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