翠銅鉱のような魔宝石を
転移魔術で、ラチイさんの工房へと戻って来る。
スマホの時間を確認。深夜二十二時。ラチイさんに作業は明日にするか聞かれたけれど、私は首を振った。
試作の時間がないからね。ぶっつけ本番で調整していかないと!
私はいつもの作業椅子に座ろうとして、サイズが子供のままだったことに気がつく。
「ラチイさん、ちょっと着替えてくる」
「どうぞ。でもその身体のサイズですと」
ごめんね! ラチイさんが言いかけた言葉がなんとなく分かるけど、スルーで!
ラチイさんが私のお泊りように作ってくれた部屋へと駆け込む。ぺぺっと子供サイズの下着やらなんやらを脱ぎ捨てて、腕輪を外す。
ぽんっと軽い音がきて、元の女子高生サイズに戻った。もちろん獣人らしい角とかはなくなって、ちゃんとしたホモ・サピエンス!
私はちゃちゃっと着替えると、第三魔研のケープを羽織る。これが作業服ですからー。
工房へと戻ると、ちょっと顔が渋い感じになったラチイさんに、私が使っていた獣人化の魔宝石を渡した。
「……魔法の起動と停止までコントロールできるようになったんですか。智華さんは」
「できるかなって思ったらできただけだよ」
ものすごく深いため息をつかれてしまった。ごめんなさい。反省はしてます。
ラチイさんは獣人化の魔宝石を箱に入れて、棚へと保留した。今は魔宝石作りを最優先したいもんね。
「イメージは決まっていますか?」
「探すとか、探知するなら、ぴったりなアクセサリーがあるよ。そのための型があるかなんだけど……あ、コレが使える!」
私が見つけたのは四角錐のシリコン型。さすがラチイさん、地球製の新作モールドが色々と輸入されている。
メインの型はこれでいい。
次は着色。
私は考える。
私の思う魔宝石。
頭の中の宝石図鑑を巡っていく。
うーん、分かんない。
スマホの電源をいれてネットを見てみる。驚くことにラチイさんの家はWi-Fiが飛んでる。いつも思うけどびっくりだよね。
イメージに近い宝石がないかを探していく。一緒に石言葉も調べて、イメージを固めていく。
探しもの、落とし物、見つける、探知、知る……石言葉がいまいちしっくりこない。
いくつか石言葉の逆引きサイトに潜って、ようやくラウニーさんのための魔法の言葉を見つけることができた。
「作る宝石は決めた。材料は……」
ラチイさんにお願いして、太陽の樹液を三色用意してもらう。色は濃紺と、濃緑色と、その青と緑の中間色。
私はまず適当な型を使って、濃紺と濃緑色を混ざりきらないようにマーブルカラーの魔宝石を作る。青は水属性、緑は風属性。硬化ができた濃い色の魔宝石をラチイさんに差し出した。
「ラチイさん、砕ける?」
「これでどうでしょうか」
ラチイさんが魔宝石に手をかざすと、今作ったばかりの濃い色の魔宝石が砕かれた。うん、オッケー!
私は三色目の中間色の色を手に取ると、四角錐の型に流し込む。硬化の前に、砕いた濃い青緑の魔宝石を心の赴くままに配置した。
四角錐の型をUVランプへイン。硬化を待つ。
手順は簡単だけど、硬化時間は長い。作業をはじめてあっという間に一時間が過ぎた。
私は硬化の時間を見計らってUVランプから四角錐の魔宝石を取り出し、型から外して綺麗に磨く。深みのあるエメラルドのような輝きになった。
「……」
「智華さん、完成ですか?」
「ううん。足りない。これじゃ、足りない」
本能的に、これじゃないと何かが告げる。
スマホで見た宝石には近いと思うけど……このままでは道標にはならない予感がある。
そう、道標。
この魔宝石は、ラウニーさんの番いと再会するための道標になるから。
私はスマホで花の画像を探す。花言葉も確認。
シリコンシートを出すと、粘性の低い太陽の樹液を使う。ラチイさんにお願いして、限りなく黒に近い紫にしてもらった。紫は空間魔力の色だからあんまり良い顔をされなかったけど……その樹液で、スマホの画像にある花を描いていく。粘性が低いから、急がないとでろでろになって何を描いたかわからなくなっちゃう。
描くのは鈴蘭。花言葉は幸福の再来。
薄く描かれた紫闇色の鈴蘭を硬化する。
硬化すればぐにぐにと柔らかい鈴蘭のレースみたいなのができた。これに銀色の鱗粉をちょんちょんと擦るように塗って……うん、硬化すれば銀細工っぽく見えるかな。
鈴蘭のレースに少し切り込みを入れて、四角錐の底に台座として取り付ける。台座の頂点に留め具をつけて、鎖をつけた。
それでもまだ。まだ足りない。
できたのは翠色のペンデュラム。
でもこれじゃ足りない。
考える。
何かが違うと本能が囁いている。
「……智華さん、完成ですか?」
「うぅん……鑑定してもらってもいいかな?」
「はい」
ラチイさんが完成した翠色のペンデュラムを握り、力を籠める。少しすると、顎に手をやってじっとペンデュラムを見つめた。
「どう?」
「滞留している魔力少し曖昧ですね。俺は使えそうですが……魔力を持たない人には使えません」
「あ、そっか、スイッチをつけ忘れたんだ」
何かが足りたいと思ったのはそれだ!
私は魔宝石の魔法を使うためのトリガーを考える。
獣人化する魔宝石を作った時みたいに、ワードシートみたいなのがあればいいんだけど。あ、台座を作り直す?
私はもう一度、濃い紫色の太陽の樹液で鈴蘭の模様を描く。レースの模様の中に文字を隠して。隠す言葉はそうだなぁ……。
異世界の言葉にしようか迷って、結局、地球の言葉を選ぶ。日本語だと鈴蘭の文字とのバランスが悪いから、英語で。私の英語能力がこんなところで試されるなんて……!
綴りを間違えないように鈴蘭と文字の台座を作る。硬化して、銀色の鱗粉を擦り付ける。同じように切り込みを入れて、留め具をつけて、四角錐につけたパーツと付け替えた。
うん、良い感じ!
これならどうかな!?
「ラチイさん、できたよ!」
「はい」
深夜二十四時をとっくに過ぎてる。
ラチイさんに魔宝石を預けて、鑑定をしてもらう。
ちゃんとできているかな。
ドキドキしながらラチイさんが魔宝石を鑑定するのを待っていると。
「……探し人の方角を示す魔宝石のようですが、使い切りのものになりそうですね。使用する魔力は内部にあるものだけで、外側からの魔力干渉を阻害する組み立てになっています」
「つまり?」
「内部魔力がなくなるまでに目的の人物を探さないといけません」
うぅぅん、なんか、ちょっと、不完全燃焼……?
やっぱりもっと考えて作らないといけないかな。
作業机に散らばっている材料をぼんやりと眺めていると、ラチイさんは魔宝石を私の前に置いた。
「智華さん、そろそろおしまいにしましょう」
「え、でも」
「この魔宝石でも十分、奇跡の力になります。無理はしないで休みましょう」
ラチイさんに連れられて工房を出る。居間のほうへと連れて行かれると、ソファーに座らされた。
回数制限付きの魔宝石を手に乗せて考える。まだもう少しできたことがあるんじゃないかな。回数制限……スイッチをつけたから? それともイメージしたものが悪かった? 掌に乗せた魔宝石を眺める。
ダイオプテーズのペンデュラム。
ダイオプテーズは翠銅鉱とも言われる、綺麗な翠色の石。昔はエメラルドにも間違われていたとか。
ちょっともやもやしながら魔宝石を見つめていると、ラチイさんが湯気の立つマグカップとお皿を持ってきてくれた。
「お腹が空いていませんか」
「あ」
言われた途端、お腹がきゅうっと返事した。
恥ずかしくてぽぽっと顔が赤くなっちゃう!
「そ、そういえば、まだ夕飯食べてなかったや」
「やっぱり。あれだけどたばたしていたら、食べそこねているかもと思いました。お湯を沸かしておきますから、食べたらお風呂に入って寝てください」
マグカップを手渡される。中身を覗いたらコーンクリームスープ。飲んでみたらお馴染みの味。日本製のインスタントですね。知ってた。
ローテーブルに置かれたのはサンドイッチ。シャキシャキレタスと、瑞々しいトマトと、塩っけの強いハムとチーズが挟まれてる。味付けはマヨネーズ。さてこのマヨネーズは手作りか日本製の既製品か、判断が悩ましい。
私は大人しくそれらをいただいた。空っぽだった胃にしみる。アドレナリンがドバドバだったのか、お腹が空いてたことをすっかり忘れてたよね。
食べている間にラチイさんがお風呂の支度をしてくれた。何から何まで、お手数おかけします。今日はこのままお泊まりだ。
お風呂を出た私は、自分の寝床に入る。ラチイさんが送ってくれた。
「智華さん」
「なぁに?」
部屋に入る直前。
夜の帳が下りた暗い廊下の中で、ラチイさんが私を呼ぶ。
振り返ると、ラチイさんが一歩近づいた。
ラチイさんの唇が、私の耳元へ寄せられる。
「おやすみなさい。いい夢を」
囁かれた声にびっくりして、耳に手を当てる。おでこにふんわりと柔らかなものがあたった気がした。
「お、おやすみラチイさんっ」
ラチイさんはこくりと頷いて自分の部屋へと戻っていく。私も部屋の扉を閉めて、そのままずるずると扉を背に座り込んだ。
い、今の声何……!?
めっちゃイケボ過ぎて、腰抜けるかと思った……!
おやすみなさいの挨拶くらい、普通に言ってくれればいいのに。
ぽっぽっと赤くなる頬をゆるゆると両手で挟んで、火照った体温を逃がす。落ち着いた頃、ようやく私はベッドにダイブ。
今日はすっごく色んなことがあったな、なんて。
私は作った魔宝石に思いを馳せる。
「ダイオプテーズの石言葉は『再会』。これを使う人にとって、本当に必要な物を見つけ出せますように」
願いをこめて、私の意識は微睡みに落ちていった。




