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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ドッグ・ドリームブレイク

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ドッグ・ドリームブレイク

 昨日の活動が日をまたいでしまったせいか、ちょっと朝はゆっくりめ。


 ジローから催促の連絡がラチイさん宛に届いたそうなので、私は慌てて身支度をした。ちなみに朝ご飯はお味噌汁とお米と卵焼きだった。異世界でなんでこんなにしっかりした和食を食べてるんだろう。美味しかったです。


 髪はいつものハーフアップ。麻理子の手作りシュシュで可愛く装備。それから水色のブラウスに、黒のプリーツスカートを着る。靴は前に買った編み上げブーツで。それから刺繍が施された黒色のケープを羽織って、銅色の留め具でパチっと留める。


 ラチイさんとお揃いの、第三魔法研究室の制服姿。

 今日はこれで獅子族の里に行くよ!


 準備万端。魔宝石も持って、ラチイさんに近づく。ラチイさんは私の肩を抱くと、金獅子族の里にあるラウニーさんの家へと転移した。ちなみにムーンはお留守番です。昨日頑張ってくれたからね。おねむだ。


 空間魔力の色である紫色。

 淡く発光していた魔法陣の光が消える。


 ラチイさんが事前連絡しておいたおかげか、ジロー、麻理子、レオニダスが待っていた。麻理子は腕輪を外していないみたいで、まだ子供サイズの垂れ耳兎姿。けっこうあの魔宝石、持続性が高いみたい?


 私は三人に手を振った。


「お待たせ!」

「誰だ!?」


 え、レオニダスから威嚇された! 嘘でしょ!?


「智華です!」

「はっ……!?」


 よくよく考えれば、昨日は子供だったもんね。元の姿に戻っているから困惑しちゃったのかも。

 私はオニダスに歩み寄る。


「ごめんなさい、騙すつもりじゃなかったんだけど……昨日の姿は魔宝石の力なんだ」

「魔宝石だと……? そんなことができるのか……?」

「できたから、昨日と今日で違う姿なんだよ。こっちが本当の姿」


 昨日より視線が近くなったけど、それでもレオニダスのほうが身長が高い。魔宝石を渡さないと、と思って彼の前まで立ち止まったら、レオニダスの丸耳がピッと立った。


 私はレオニダスに箱を差し出す。


「レオニダスさん、これが私の魔宝石だよ」


 レオニダスの大きな手のひらに、小さな箱をちょこんと置く。

 箱を開けたレオニダスは、目を瞠った。


「綺麗な石だな。見たことのない形をしている。首飾り……とも違うな。鎖の留め具がない?」


 魔宝石を手に取ったレオニダスが不思議そうに検分している。こっちの世界にはこういう道具はなかったのかな。


 私はレオニダスから魔宝石を借りると、鎖を摘んで、その先についている魔宝石を垂らした。


「これはね、ペンデュラムっていって、探しものを見つけるアイテムなの。ここが魔宝石になってるから、使えば本当に欲しいものを見つけてくれるはずだよ」


 レオニダスのガーネットの瞳がじっと翠色のペンデュラムを見つめた。深みのある翠色は光の角度で青にも緑にも、黒にも透明にも見える。


 私はレオニダスの手へと、ペンデュラムを返す。

 レオニダスは翠色の魔宝石をおそるおそる摘み上げると、じっと見つめた。


「俺が使えば、姉貴の番いを見つけられるのか?」

「わかんない。お姉さんの番いを探すなら、お姉さんが使うのが一番だと思う」

「そうか……だが……」


 レオニダスは何かを口籠る。

 なんだろう、何か言いたいことがあるのかな。

 じっとレオニダスの言葉を待っていると、彼はおもむろに口を開いて。


「俺たち獣人は魔力の扱いが下手だ。魔宝石の魔法は繊細だと聞く。俺たちに扱えるものなのか……?」


 なるほど、そういうこと!

 それなら平気ですとも。そのために昨日、調整して作ったんだからね。


 私は笑う。レオニダスの心配を払拭するように。


「これは魔力がなくても使えるよ。ただし、回数制限があるから気を付けて。合言葉は“My destiny”だよ」

「まいでぃすて」

「待ってストップ! 発動しちゃうから!」


 私は慌ててレオニダスにストップをかける。手を伸ばして、レオニダスの口元に人差し指をあてて「しぃ」ってする。レオニダスの身体がびくって震えた。


 そろりとガーネットの瞳が私を見て、魔宝石を見て、それからまた私のほうへと向いた。


「どういう意味だ」

「この魔宝石を持った人が合言葉を言えば、運命の人がいる方角を向くはずだよ」

「……そうじゃなくて、言葉の意味だ」


 え? あ、そっち。


「これはね、私の世界の言葉で運命の人という意味。合言葉にぴったりでしょ?」


 にっこりと笑いかければ、レオニダスはガーネットの瞳をちょっと大きく見開いて、ふっと笑ってくれた。


「ありがとう。そうか、運命の人か。それなら俺が引っ連れてくるよりも、姉貴が自分で探しに行ったほうがいいな」


 そうだね、きっとそのほうがずっといいと思うよ!


 今は身重だから、子供が生まれた後にでもぜひ探しに行って欲しい。番いに会いに行くために、強く生きてほしい。私はそう思ってる。そうあってほしいと願ってる。


 レオニダスが頭を下げた。


「ありがとう、チカ。感謝する」


 真っ向からお礼を言われるとちょっと恥ずかしいけれど……でもこれで大団円、かな!


 ひと仕事終わって、さぁて麻理子を回収して地球に帰ろうかな〜、とレオニダスの横を通り過ぎようとしたら、つんっと腕を引かれた。レオニダスが私の腕を引いたみたい。


 私はきょとんとレオニダスを見上げた。彼はちょっと思い詰めたように私を見下ろしてる。


 え、まだ何か問題が……?


「ところでチカ」

「うん?」

「チカはいくつなんだ?」


 何か問題があったのかと思って身構えていたら、ちょっと拍子抜けな質問が飛んできた。


 いくつ? 年齢の話?

 あ、昨日の子供サイズのことがあるから、実年齢が気になったのかな。


「私? 十七だよ」

「十七……それなら、チカ」

「なぁに?」


 レオニダスの表情が真剣なものになる。

 私はただ事じゃない雰囲気を感じたから、ちょっと姿勢をただした。


 レオニダスが深呼吸する。

 そうして、意を決したように口を開いて。


「俺のところへ嫁ゴファ!?」

「レオニダスさん!?」


 えっ、なになになに!?

 盥が降ってきたよ!?


 レオニダスが脳天直下してきた盥に呻いている。レオニダスに落ちた金盥はごわんごわんと鈍い音を立てて床に転がった。


 何かのコントのように降ってきた盥にびっくりしていると、ラチイさんが私をそっと私の腕を引いてレオニダスから引き離す。


「晴れ時々盥ですか。獣人族は不思議な天気がありますね」

「えっ、これ天気なんだ……へぇ〜」

「騙されてるぞ笠江」

「智華ちゃん、素直だから」


 え? なになに? 麻理子、私が何!?

 ラチイさん天気予報に異世界ってファンタジーだな〜って思っていると、ジローと麻理子からも言葉が飛んでくる。名前を呼ばれたから二人のほうを振り向いたけど、二人がなんて言ったのかまではちゃんと聞こえなかった。


 そうこうしているうちに、レオニダスが落下してきた盥の痛みから復活したみたいでガバッと顔をあげる。

 私とばっちり目があって。


「チカ、俺の嫁ガッハ!?」


 ごぅおうんって、すっごい良い音がしたよ!?


「また盥が!」

「盥が降らないうちに帰りましょうか」

「そうだね。智華ちゃん帰ろう?」

「えっ? あ、うん」


 ジローがなんだか「やってらんねーぜ」とかぼやいている。なに? なにがやってらんないの?


 私一人だけ状況が飲み込めてないみたいで疑問符を浮かべていると、二度目の金盥から復活したレオニダスが私に手を伸ばしてくる。でもその手をぺいっと麻理子が退けるようにして、ジローと二人で私たちのほうに歩いてきた。


「ま、待ってくれチカ!」

「さぁ、麻理子さんとジローくんもどうぞ」

「お願いします」

「すんません」

「チカ!」


 レオニダスが私の名前を呼んでいる。

 もう少しゆっくりしてもいいんじゃないかな、って思ったんだけど、見上げたラチイさんがちょっと怒ってるような雰囲気にも感じたので、私は口をつぐみました。昨日から我がまま続きなので、これ以上はね。


 ラチイさんがスクロールを取り出した。紫色の魔法陣が足元に展開される。胸がドキドキしてきた。素敵なこのときめきをレオニダスにも分けてあげたいと思いながら、私は彼に笑いかけた。


「レオニダスさん、お元気でー!」


 紫色の光が視界いっぱいに広がる。

 次の瞬間には、ラチイさんの工房にいた。


「はい、お疲れ様でした」

「お疲れ様でしたー!」

「大丈夫か、麻理子」

「うん、ありがとう」


 四人で帰ってきたラチイさんの工房。

 一旦、麻理子にも元の姿に戻ってもらうため、工房を出る。麻理子が昨日着てきたものは洗濯して、私が借りてる部屋においてある。着替えのために案内して、麻理子が元の姿に戻ってから居間へと戻った。


 見慣れた居間と見慣れたメンバーではあるんだけど……ラチイさんとジローがソファーに座って話してる光景は、ちょっと違和感。

 というか、ジローまでここにいるけど、里帰り中だったのでは?


「ジローはここにいていいの?」

「首長決めは終わったからな。昨日、コンドラチイさんと金獅子の里に行くときに引き継ぎはした。日本に戻れるもんで、ついでだから送ってもらおうって思ってな」


 麻理子と私もソファーに座る。ジローの話を聞いて納得した。なるほど、そういう魂胆。

 でも待って?


「ラチイさん、できるの?」

「ジローくんの持つ魔宝石があればできますよ」

「魔宝石?」

「うちに伝わる秘術ってやつ」


 ジローがにんまりと笑って、襟元から手繰り寄せるようにそれを見せてくれた。


 ペンダントにされているそれは、鮮やかな緑色のアゲート模様を持つ、マラカイトのような石だった。マラカイトと違うのは、縞模様の一定の層が紫色だってこと。銀色の層も混じってる。初めて見る色合いの魔宝石だ。


「これを使えば地球に行ける。だけど燃費がすげぇ悪いんだよ。往復分の魔力を籠めようとすると、獣人だとかなり時間がかかる。だけどコンドラチイさんなら簡単にできるって言われたんだ」

「そうなの?」

「制約は色々ありますけどね。先に麻理子さんを転移させないと使えません」


 ジローの異世界転移の秘密をようやく知ることができた気持ち。だけど麻理子を先に転移しないと使えないってどういうこと?

 首をひねっていれば、ジローが麻理子のほうを見た。


「麻理子、お守りは持ってるな?」

「うん」


 麻理子はポケットの中から、何かを取り出した。

 見せて貰うと、緋色のリボンに、ジローの持っているペンダントと同じ緑の魔宝石がつけられたチョーカーが。


 ラチイさんが、ジローのペンダントと麻理子のチョーカーを指し示す。


「こちらとこちらは対になっていて、こちらを座標の基軸にして転移する仕様になっています」


 なるほど……磁石みたいにゴール地点があるってことなのかな。赤狼族の里には本体の石があって、三つで一つの魔宝石なのだとか。そういう仕組みだったんだ。


 逆に言うと、地球にチョーカーは置いておかないと異世界の行き来ができなくなるそう。本当なら麻理子が異世界に渡る前に、その魔宝石を日本に置いておかないといけなかったのだとか。それは報連相ができてなかったジローくんが悪いと思う。


 でもそこはラチイさんがいたので。


「お二人はこのまま帰宅でよろしいですね?」


 麻理子もジローも頷いている。昨日一日で色々あったから疲れてるもんね。今日は日曜日。もうお昼は過ぎちゃったけど、ゆっくりするといいよ。


 転移は工房のほうがいいそうなので、工房から麻理子を日本へと帰す。


「智華ちゃん、またね」

「笠江、また明日」


 ラチイさんが麻理子を転移させると、魔力充填をしたらしいジローも颯爽と転移して消えていった。


 工房に残るのは二人だけ。

 私とラチイさんだけだ。


 私も帰りたいな〜……って思っていたんだけど、そうは問屋が卸さない。


「さて、智華さん」


 ラチイさんがにっこりと振り返った。

 私はちょっと舌を噛んで死体のふりをしたくなる。


「色々と片付きましたので、お話をしましょうか」


 そうですね、色々と我がままを押し通させてもらったもんね。

 私は粛々とラチイさんの『お話』を聞く体勢を整える。


 これはもしかしなくとも、怒られる。


 麻理子と一緒に帰りたかったなぁって遠い目になった。


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