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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
サンライズ・サンキャッチャー

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閑話*コンドラチイ・フォミナの贅沢

 コンドラチイ・フォミナは、ラゼテジュ王国魔法省所属、第三魔法研究室の室長だ。


 銀の髪を一つに束ね、琥珀色の瞳を持つ彼は、若干二十一歳にして、希少な空間魔術を得意とする魔術師でもある。


 その珍しい魔力属性により、ラゼテジュ王国でも三人しか使えないという転移魔法を駆使する彼の生活は、普通のラゼテジュ王国民と比べ、少々変わっているのだとか。


 そのとある一日をご覧にいれよう。






◯朝の鐘四つ


 起床。身支度を整える。黒のケープに水色のシャツ、黒のスラックスが第三魔法研究室の制服だ。長い髪は一つに束ねておく。洗顔のついでにミント味の爽やかな歯磨き粉を使用し、柔らかな毛先の歯ブラシで口内ケア。一度体験してしまうと、もう二度とかつての口内に戻れない。なお、ラゼテジュ王国では殺菌作用のあるハーブ水でのうがいがメジャーである。




◯朝の鐘五つ


 庭に立つ白日(はくじつ)の樹の状態チェック。その後、庭の簡単な手入れ。朝の鐘七つになるまで、共生ノ森の見回りをする。妖精とのコミュニケーションはコンドラチイの仕事の一つであり、魔宝石の素材採取にも欠かせない。なお時間外労働になるのでお給料はでない、すなわちサービス残業かもしれないとこの頃思っているとかいないとか。




◯朝の鐘七つ


 朝食。買ってきたパンに、日本産のマーガリンと、インスタントコーヒー、それから目玉焼きにケチャップを添えるのがコンドラチイ流。日本の保存食の発展はすばらしく、また美味しいので、ついついリピートしがち。電気の魔石を一つ増やして、ドリップコーヒーのマシーンを買えないか、最近思案中。なお、ラゼテジュ王国の平民はパンに紅茶が主流。富裕層はジャムを使用し、目玉焼きには塩胡椒がメジャーである。




◯朝の鐘八つ


 家事。洗濯掃除。基本は魔法でささっと終わらせてしまうけれど、仕事で魔力を多めに使用する日は、魔石を使用した魔道具を使用することもある。コンドラチイの家は王都から少々離れているため、家庭用魔術回路が引かれていない。それでも魔力を蓄積した魔石を使用して魔道具を使用しながら一人で生活できているのは、ひとえにコンドラチイが優秀な魔術師だからといえよう。昨今の魔術師は家事能力が欠かせない、モテる魔術師の秘訣である、とラゼテジュの王都で発行されているゴシップ誌に書かれているとかいないとか。




◯昼の鐘十


 出勤。基本は徒歩出勤。魔力に余裕のある日は転移を使用。城門前で入門チェックがあるので、身分証を提示して登城する。第三魔法研究室の職員の点呼ののち、朝礼をして就業開始。午前中は決裁書類の処理と他部署からの依頼振り分け、職員から上がってきた報告書の確認をする事が多い。




◯昼の鐘十二


 昼食。ダニールに食堂へ連行されることが多い。仕事が詰まっている時は食堂で片手間につまめるものをテイクアウトし、自室で食べることも。食堂の人気メニューは鶏の香草焼きや、牛のシチューなど。しかし、日本の豊かな味を知ってしまったコンドラチイには、少々物足りないメニューの日もあるので、もう少し濃い味があっても良いと思っている。なお、ラゼテジュ王国の主流の味つけは、ハーブ系で独特の風味がある。




◯昼の鐘一つ


 昼休憩の紅茶をたしなみながら、仕事の再開。午前中に裁ききれなかったものを裁く。時間に余裕があれば自分の魔宝石の研究を進めたり、所有する魔宝石の素材の在庫をチェックし不足を申請したりする。たまにダニールが研究関連で泣きついてくることがあるので、うまくいなすのも室長の仕事である。




◯夕の鐘四つ


 終業。日によって、この後、お抱え魔宝石職人である智華へ魔宝石作成の依頼をすることも。日本へ転移し、カフェでコーヒーを楽しみながら智華を待つ。時間に余裕があるときは、日本で買い出しをすることも。スーパーにドラッグストア、コンビニ。あらゆる場所でコーヒーを買い込み、飲み比べるのが最近のコンドラチイの趣味だ。なお、日本へ行かない場合は、王都で夕食の買い出しをする。もちろん、日によっては外食で済ませることもある。




◯夕の鐘六つ


 帰宅。夕食の支度をする。最近、日本で炊飯器の購入をした。これで日本米が炊けるようになったので、美味しく頂いている。電気を供給する魔石の使用率が高いのが目下の悩みだけれど、これで試してみたかった日本食のレシピの幅が広がったのが嬉しい。電気供給する魔石は工房にしかないので、炊飯器は工房にしまわれている。日本の米にインスタント味噌汁、メインデッシュは鶏の唐揚げ(日本の唐揚げ粉を使用)。コンドラチイの日本食ブームはなかなか去らない。次はカレーライスに挑戦したいのか、貯蔵庫に日本のお手軽カレールーがしまわれている。




◯夕の鐘八つ


 寝支度。シャワーを浴び、就寝の支度を整える。ドライヤーはないけれど、魔力を使ってさくっと水気を吹き飛ばすのは魔術師の特権だ。やはり一家に一人コンドラチイ。魔術師がいるととっても生活が便利になる。とはいえ、一般的なラゼテジュ王国のご家庭ではそんなのはないから、普通にタオルドライでひたすら髪を乾かすのがメジャー。




◯夕の鐘九つ


 持ち帰りの仕事があれば、夕の鐘十の頃まで起きていることも。けれど基本はこの時間には就寝。翌日も日の出とともに起きるため、コンドラチイの一日はこれで終わる。ラゼテジュ王国の一般的な就寝時間だ。






 以上がコンドラチイ・フォミナの一日の生活記録である。


「知ってたけど、ラチイさんめっちゃ日本カルチャーどっぷりになっちゃったね!?」

「地球のテクノロジーは素晴らしいですよね。あと、日本人の食文化の豊かさ、とても勉強になります。そのうち、カップラーメンなるものを食べ比べしたいと思っているんですが、種類が多くてどれから手を出して良いのか……」

「カップラーメン食べてるラチイさんか〜、すごい、なんか、絵面がひどい……」

「絵面ですか?」

「私の前ではカップラーメン食べないでね、ラチイさん。乙女の夢が儚く散りそうだから」

「はい……?」

「ラチイさんにはパスタが似合うと思うの。うん、パスタ食べたい! おなかすいた! ちょっとラチイさん、追加メニュー頼んで良い!? このワッフル食べたい!」

「どうぞ。俺もこのカツサンドが気になってまして」

「カツサンドラチイさん……ラチイさんがカツサンド……おぉん……」


 日本食にもコンドラチイにも罪はない。

 バランス良く、美味しく食べられることこそが幸せなのだと、コンドラチイは知っている。

 そして、その楽しい食事をさらに彩るのは。


「ん〜、このワッフルおいしい!」

「このカツサンドというのもいいですね。しっかり食べごたえがあって……このソース売ってますかね?」

「とんかつソースだね、うん、売ってるよ、うん」


 一人きりじゃない、にぎやかな食事の風景。

 それを共有できる人がいることこそ贅沢だと、コンドラチイは思っている。


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