閑話*異世界式焼き芋
異世界のラゼテジュには日本みたいな四季はないようで、雨季と乾季、みたいな季節感なのだとか。だから年中穏やかな気候だそうで、ラゼテジュでは四季の変化というものがないそう。
「とはいえ、植物は一年中育つということもありません。乾季と雨季で、育つ植物が変わるんですよ」
「そっかぁ。で、ラチイさん、私を呼んだのは?」
「申し訳ありませんが、ダニールがやらかしたこの枯れ葉の処分を手伝ってほしいのです」
「ごめんって! ごめんって! まじごめんって!」
うわぁい、極寒ブリザードなラチイさんの冷ややかな視線に、ダニールさんが土下座してるぅ!
ラチイさんに異世界転移させられて連れてこられたのは、ラチイさんのお家のお庭! なんでもラチイさんの休日に押しかけてきたダニールさんが、持ってきた魔宝石をうっかり発動させちゃったようで、お庭が見るも無惨なことに。
花壇も植え込みも芝生も、土下座してるダニールさんの半径五メートルくらいの範囲にあるもの、全部が枯れていて。
なんでも発動しちゃったのは持続型の魔石のようで、魔力が抜けるまでは効果を発揮するのだとか。つまり、ダニールさんが歩けば、その範囲がさらに広がると。
うん、あれだね、某有名映画でデイダラボッチになる鹿の神様の歩いたあとの惨状みたいな!
「申し訳ありません、智華さん。俺の私有地なので、第三魔研の人員を動かすにも忍びなく……それと、智華さんに持たせた魔宝石があれば、手っ取り早いかと思いまして」
この惨状を前になんで呼ばれたんだろうかと思っていれば、どうやら私の持ってる魔宝石がお目当て?
「私の持ってる魔宝石っていうと、これ?」
「そうです、それです」
イカリソウで作った魔宝石のバングル!
夏の終わり頃、ちょっと諸事情で作った護身用の魔宝石!
護身用なので、魔法が発動すると、植物の蔦でできた壁ができるという仕様。この魔宝石をどうするんだろう?
ラチイさんに渡すと、ラチイさんはそれをダニールさんに向けた。魔力をこめる。
ダニールさんの悲鳴が響き渡った。
「ぎゃあああああ!?」
「ラチイさん!?」
「わぁあああああ!?」
「ダニールさん!?」
ラチイさんが魔法を発動した瞬間、植物の壁がダニールさんを襲う!
からのダニールさんの魔宝石の力で植物が枯れる!
からのダニールさんが枯れ草に埋もれる!
トリプルコンボー!
「ほっといても自然に魔力が抜けていくものではありませんから、こうしてダニールの魔宝石の魔力を抜こうかと」
「なる……ほど?」
「ぷはっ!? コンドラチイひどくないか!? 横暴! 枯れ草まみれなんだが!?」
「人の庭を枯らしておいて言える台詞ですか?」
「すみません」
枯れ草の上で土下座するダニールさん。
ラチイさん、相当お怒りのようなので、触らぬ神に祟りなし!
そのあと、ラチイさんはダニールさんに植物の壁をぶつけまくり。私はダニールさんを枯れ草の山から救出するのを手伝うという、地味なお仕事をすること小一時間。
ようやくダニールさんの発動した魔宝石の魔法も効果が切れたみたい。
「ひでぇ目に遭った……」
「俺の台詞ですが?」
「ごめんなさい」
すっかり土下座が板についちゃったダニールさん。
なんというか、お騒がせな人だけど、ラチイさんも怒ってるわりに見捨てようとはしないあたり、仲良しさんなんだなぁって思ったり。
「で、今回の騒動の原因の魔宝石は?」
「おー、これ!」
ダニールさんが見せてくれたのは、茶色く濁った……石? 中に枯れ草みたいなのもある。魔力を使い切ったからか、あんまりドキドキはしない。
「効果は除草! 魔力を込めれば込めるほど、除草範囲が広くなる予定だった!」
「予定だった」
「実際は除草持続時間が伸びるという仕様! 俺が歩く除草剤になっちまった!」
「歩く除草剤」
すごいね! 歩く除草剤、なんというパワーワード!
毎度のことながら、ダニールさんの持ってくる魔宝石、おかしなものばっかりな気がするのは私だけかな!?
「ダニールはその魔宝石について、きちんと報告書をあげるように。忘れずに、明日朝イチで」
「ウィッス」
激怒のラチイさんに詰められているダニールさん。
そんな二人を横目に、私は箒でさっさっと枯れ草を集めて、ダニールさんが除草したところにこんもりと積み上げた。うーん、すごい量!
「ラチイさーん、この草どうする?」
「処分します。魔力で一気に燃やそうかと。そこの歩く除草剤のおかげで、地肌が露出してますし、風も穏やかですから、他に飛び火することもないでしょう」
そうだよね、燃やしちゃうのが早いよね。
っと、いうところで、私の頭にぴこーんと良いことが思い浮かぶ。
せっかくならさ!
「ねねね、ラチイさん!」
「はい?」
「これあるかな!」
こしょこしょと、耳を貸してくれたラチイさんにご相談!
ラチイさんは真剣な表情で私の言葉に耳を傾けてくれて、すぐにオーケーを出してくれた。その顔には仕方ないなぁというような、呆れたような、それでいて楽しそうな笑顔が浮かんでいて。
うんうん、もう怒ってないね!
それじゃあせっかくなので!
焼き芋パーティーしよう!
こっちの世界で流通している芋のうち、ラチイさんにできるだけさつまいもやじゃがいもに似た芋を用意してもらった。とはいっても、ラチイさんのメモをもとに実際に買い出しして、お金を出してくれたのはダニールさんだけどね!
で、その芋を水に濡れた紙にくるみます! ラゼテジュの紙は地球みたいに質が良くないから、濡らすと良い感じになるので、新聞紙代わりにちょうどいい。
濡れた紙に包んだ芋は、さらにアルミホイルに包みます! うん、やっぱりラチイさんのお家にはありますよね、アルミホイル! さすがラチイさん! 日本文化に毒されつつある!
で、そうしてこしらえた芋を、枯れ草を燃やしている焚き火の中にイン!
「芋、燃えないか?」
「大丈夫! アルミホイルって耐火性高いから!」
ダニールさんが不安そうに炎に放り込まれた芋を見てるけど、ノー問題! 日本の技術の結晶ですから!
あとはもう、じりじりと焼けるのを待つだけ。
まだかな、まだかなー。
「智華さん、暑くはないですか?」
「ちょっとだけ〜。日本は寒くなってきたから長袖着てたんだけど、こっちはあったかいよねぇ。焚き火する季節じゃない気はする」
「ラゼテジュは日本のように四季はありませんからね」
ダニールさんがせっせと焚き火の面倒を見てくれるので、ちょっと離れてラチイさんと涼む。日本は秋だから衣替えしたんだけど、ちょっと汗かいてきちゃったや。
ラチイさんとなんてことない会話をして、そろそろ焚き火も落ちついてきた頃、煤まるけになった芋を一つ発掘してもらう。
「焼けてる?」
「コンドラチイ、革の手袋あるか?」
「どうぞ」
ラチイさんがダニールさんに、作業用の厚い手袋を渡す。ダニールさんはその手袋を借りて、芋に巻かれたアルミホイルを取っていき。
「おお……!」
「ほっくほくの焼き芋だ〜!」
良い感じに焼けてる焼き芋ゲットー!
三人でさっそく味見!
「ん、おっ、良い感じに甘くなってんじゃん」
「ゆでるのとはまた違った感じで美味しいですね」
「素朴な味〜。でもおいしい〜」
ダニールさんもラチイさんも気に入ってくれたみたい!
日本の品種改良された甘いさつまいもに慣れてる私からしたら、ちょっと甘みが足りないけど。でもこれはこれでおいしいから良し!
「智華さん、こちらの芋は?」
「それは塩胡椒とかバターとかマヨネーズかけると、おいしいよ!」
じゃがバターとかも美味しいよね!
私の言葉でラチイさんが心得たように家の中に消えていく。戻ってきたときには、調味料を色々持ってきてくれた!
「私バター!」
「俺、この白いやつ」
「では塩胡椒で」
各々好きな調味料をかけて、二種類目の芋を頬ばる!
「おいしー!」
「あっつ!」
「これも美味しいですね」
はふはふしながらお芋さんを頬ばる私たち。なんて贅沢!
そのあとも、余ったお芋さんをおやつに食べたり、さつまいもっぽいやつでスイートポテト作ってみたり。
美味しいものを食べたら、すっかりラチイさんもいつものように柔らかい雰囲気に。
「良かった、ラチイさん、もう怒ってないね?」
「え?」
「ラチイさんが怒るのも仕方ないけどね、ちょっとピリピリしてて怖かったから。いつものラチイさんに戻ってくれて良かった」
「それは……すみません」
苦笑気味のラチイさん。
いやぁ、私を呼びに来たラチイさん、怒りのオーラ隠しきれてなかったからね! 怖かったんだよね、地味に!
でもまぁ、美味しいもの食べて、機嫌が治ってくれるなら良かった!
ダニールさんも反省しているみたいで、ラチイさんのお庭の修繕する約束を二人でしてたし、これで一件落着かな?
美味しい焼き芋、ごちそうさまでした!
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