表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たてたてヨコヨコ。.  作者: ひろすけほー
26/71

第二十六話「手紙(ブリーフ)とお守り(アムレット)?」

挿絵(By みてみん)


イラスト作成:まんぼう719さん

第26話「手紙(ブリーフ)お守り(アムレット)?」


 「あなた、鉾木(ほこのき)くんでしょ?なに帰ろうとしてるのよ!」


 背後から見知らぬ女の声が響いて……


 「…………は?」


 俺は恐る恐る振り向いた。


 そこには――


 スラリとしたモデル体型で枸橘(からたち)女学院の上品なシルエットの、そのプリーツスカートから覗く美しい脚線美の眩しすぎる美少女。


 「ええと……」


 薄い茶色のカールされた髪をトップで纏めたサイドポニーテールの快活そうな美少女は、こちらに惜しみない笑顔を向けたままでビシリと指差し、偉そうに仁王立ちする。


 ――いや、やっぱり知らない?


 俺の名を呼んだような気がしたが……もしかして俺のこと?


 ――!?


 いかん!いかん!最近ちょっと自意識過剰だなぁ……


 ――やっぱ気のせいだろ


 「……」


 俺は再び前に向き直り、スタスタと帰路へ歩みを始める。


 「ちょっと!この私を無視するってどういう了見よ!あなた鉾木(ほこのき) 盾也(じゅんや)じゃないの?」


 尊大な物言いで再び呼び止められる俺。


 「……うぅ」


 俺は立ち止まり、一応は振り返るが……


 やっぱり憶えが全くない。


 「ええと……」


 少し垂れ目気味の瞳と艶やかな唇が特徴でハッキリとした目鼻立ちのサイドポニーテールがよく似合う(まれ)に見る美人。


 ――これほどの美少女なら街ですれ違っただけでも憶えていそうなものだし?


 怪訝な顔で俺が対応に困っていると……


 「あっ!」


 ポニーテール美少女は急になにか思いついたように声を上げる。


 「ふふ」


 そして意味深に、こちらに向けてニッコリと微笑んだ。


 「……?」


 ――なんだ?


 今更、人違いしたことに気づいたのか?


 いや、その割にはしっかりと俺の名を呼んでいたような……


 ――


 おもむろに、スッとあがる彼女の右手。


 ほどなく彼女の白い手のひらは、そのまま左右に大きく揺れだした。


 「おぉーーい!盾也(じゅんや)くぅぅーーーーん!」


 ――――なっ!?


 なにを思ったのか!ポニーテールの美少女は俺に向かって僅かにつま先立ちになり、


 頭の上で大きく腕を左右に振っていた。


 ――てか、なに!?この既視感(デジャヴ)


 白い腕がリズミカルに左右に動く度に、サイドに垂らしたポニーテールもゆらゆら揺れる極上に可愛い仕草!


 ザワッ!


 ――と、どよめく野次馬達。


 何故にこの距離でそのアクション?


 そして俺へのその呼び方!?


 ザワザワッ!!


 ――う、不味い!俺は暫くは目立たないと決めたんだ、その矢先に……


 「な、なんのつもりだっ!!ってか、なんの嫌がらせだっ!!」


 怒鳴る俺にポニーテール美少女は再度ニッコリと微笑む。


 「羽咲(うさぎ)がね、こうやって貴方を呼べばねぇ……」


 ――う、羽咲(うさぎ)!?


 俺は初対面だろうサイドポニーテールの美少女から出た名前に驚く。


 「……う、羽咲(うさぎ)が……なんだ?」


 俺は動揺を抑えつつ聞く。


 「だからぁ、そう呼べばね……」


 言いかけて急に時が止まるポニーテール美少女。


 「よ、呼べば……な、なんだよ?」


 俺は先を促した。


 「えっと……あはっ!”嫌がる”って言ってたかなぁ?」


 ――っっっ!?


 最後はなんだか”しまった”というような表情で、そのまま誤魔化すような”てへぺろ”的な笑顔に移行するポニーテール美少女。


 ――くぅぅぅぅ!騙されるかぁぁ!


 ”そういう”のは羽咲(あいつ)で馴れてんだ。


 「やっぱり嫌がらせかいぃっ!!」


 俺は人目も(はばか)らず怒鳴っていた。


 ザワ!ザワッ!


 そのやり取りに、何事かとざわめく野次馬達。


 「あんな美少女と”きゃっきゃっ”と!またアイツかよ!」


 「なんなんだよアイツ!」


 「あんなのがなんでモテる!!」


 口々に文句が飛び交う。


 ――くっ、不味(まず)いな!


 此所(ここ)では状況が悪化しかねない。


 「……っ!」


 直ぐさま俺は、ポニーテール美少女に場所を変えるよう目配せする。


 「嫌よ、私だって忙しいのよ!彼氏に会いに来たんだし」


 だが元凶であるはずのポニーテール美少女は、そう言うと俺を睨んだ。


 ――おぉ!?、通じてる……


 感動だ!羽咲(うさぎ)なんか、あれだけ一緒にいても全然だもんなぁぁ!!


 ――いや、違う違う!!そこじゃない!


 「だから!ここだと色々と……」


 「彼氏を余り待たせられないし、お互い時間が勿体ないでしょ?」


 状況を説明しようとする俺にポニーテール美少女はピシャリと言い放つ。


 ――なんだよ!そっちが勝手に来ておいて!


 だいたい、彼……し?


 この美少女、この学校に”彼氏”がいるのか?


 「……つ、つまり、俺の用事はついでかよ」


 俺は少しガッカリしながら聞く。


 ――いやいや、別にこの女を”どうこう”は無いが


 一応、こんな美少女に彼氏がいると聞いたら残念な気持ちになるだろ?普通……


 「ええ、ついでよ。でも親友のお願いだから先に寄ってあげたのよ、ほら!」


 俺の言葉に頷いたポニテ美少女は、手に持っていた小さい紙袋を俺に手渡す。


 「こ、これは?」


 「羽咲(うさぎ)はちょっと実家の野暮用で暫く貴方に会えない事になったのよ、それで、それを渡しておいてくれと頼まれたの。なんか”お守り”的なモノだとか?」


 「……」


 ――”お守り”……ねぇ


 思い当たる事柄は、あの時の”(キュウ)()の狐”……


 自分が傍に居れない間は、アレから身を守るために使えってことか?


 「えっと、ポニテさん?それで羽咲(うさぎ)の野暮用って?」


 受け取った紙袋を右手に持ちつつ、俺は”お守り”云々(うんぬん)では無く、そっちの事情を恐る恐る尋ねてみる。


 「峰月(ほうづき)よ、峰月(ほうづき) 彩夏(あやか)


 ポニテ美少女は自らを峰月(ほうづき)と名乗り、改めてジロリと俺を値踏みするように見ていた。


 ――


 「じ、じゃあ、峰月(ほうづき)さん。羽咲(うさぎ)の野暮用っていうのは?」


 なにやら思案中らしい相手に、俺はもう一度同じ質問をする。


 「そうね。今更だけど一応、確認しておくわ。貴方、羽咲(うさぎ)の事どう思ってるの?悪しきことに利用しようと近づいたんじゃ……」


 ――!?


 そして彼女からは予期せぬ言葉が返ってくる。


 「し、失礼な!」


 「…………」


 少し垂れ目気味の瞳を光らせて、向けられているのは相変わらず値踏みするような感じのあまり良くない視線だ。


 ――だが、なるほど。彼女が懸念しているのはそれか?


 ついつい忘れがちだが……


 ――なにしろ羽咲(うさぎ)はファンデンベルグ帝国の要人の娘だからなぁ……


 現実を再認識しながら、俺は目前のポニーテール美少女に良い機会だからと、ちゃんと経緯を告げる事にする。


 「そもそも俺から羽咲(アイツ)に近づいたワケじゃ……」


 「……」


 峰月(ほうづき)という美少女はジッと探るように俺を見ている。


 ――俺からは近づいてない……


 ――巻き込まれたのは俺の方……


 「ワケじゃ……」


 そう言いかけて、


 「……いや」


 俺は止めた。


 それは事実かも知れない。


 俺の邪心が無いことを証明できるのかもしれないが……


 俺は”そう言い切ってしまう”のが、なんだか酷く寂しく感じたからだ。


 「……いや、そんな気持ちはない。俺は……と、友達として羽咲(うさぎ)に協力したいと思ったから」


 急遽、俺の口から出た言葉はしどろもどろで情けない感じであったろうが、それでも本心でもあった。


 「…………ギリギリね」


 「え?」


 「ギリギリ合格」


 「??」


 意味が解らないという顔の俺に、


 ”まぁ良いわ!”


 と言わんばかりに微笑んだポニーテール美少女は――


 そのまま軽く頷いた。


 「以前(まえ)に貴方、鉾木(ほこのき)という輩の存在を羽咲(うさぎ)から聞いてね、ソイツが変なことをしたら私が蹴り殺してあげようか?って言ったことがあるんだけど」


 ――な、なんのことだ?


 蹴り殺す?蹴り殺すって!この娘……


 空手かキックボクシングでもやってるのか?


 「”ううん、盾也(じゅんや)くんはそんなことしないよ”って、あの()言ってたのよ」


 ポニーテール美少女はそう言いながら再び俺を遠慮無しにジロジロと見る。


 「う、うむ、中々に信頼があるな俺。まあ、これも二人で過ごした時間、その積み重ねの結晶だな」


 とにかく、羽咲(うさぎ)がそんなことを言っていたとは……


 俺は満足げに頷いていた。


 「”もしそんな事があったら、私が斬り殺すから必要無いよ!”って、良い笑顔で笑っていたわ」


 「信用無いなっ!俺っ!!」


 ――っていうか!


 ”すごく良い笑顔”でその台詞を言う羽咲(うさぎ)がとてつもなくリアルに想像できる自分が悲しい!!


 「…………そうね」


 峰月(ほうづき) 彩夏(あやか)というポニテ美少女はその後も少しだけ考えた後で続ける。


 「ふぅ、ま、いっか。やっぱりギリギリ合格にしておくわ」


 そして、そのまま俺の質問にも答えてくれるみたいだ。


 「なんだか詳しいことは知らないけど、本国から急な呼び出しがあったとか?あの急ぎ様は皇帝からかしら?」


 「こ、皇帝!?」


 またもや思いも寄らない大層な単語が出たことに俺は目を丸くする。


 ザワッ!


 俺の大声とその単語に、聞き耳を立てていた周りの観衆がざわめく!


 ――うわっ!


 つい、うっかり……遠巻きにギャラリーがいることを忘れていた!!


 「いや……まぁ……そうか流石だな、羽咲(うさぎ)は」


 とはいえ、あの位置からなら俺とポニテ美少女の通常の会話までは聞き取れていないだろう。


 「そんなに驚くこと?羽咲(あのこ)のクイーゼル家はファンデンベルグ帝国の伯爵家で、羽咲(あのこ)自身も帝国の騎士、それにクイーゼル家は遠縁だけど現皇帝の血筋だから」


 「あぅ……」


 俺は黙ってしまった。


 ていうか言葉が出ない。


 皇帝の遠縁……


 貴族とは聞いていたけど……


 「解ってると思うけど?携帯電話とかは既に繋がらないわよ、国家の重要案件で帰国したのだから……」


 コク!コク!


 俺は無言で頷く事しか出来ない。


 こういう話を聞くと、羽咲(うさぎ)という少女は別世界の人間だと……


 現実を再認識させられる。


 「じゃあ、(はがね)を待たせてるから私は行くけど?」


 「……ああ」


 用事が済むとアッサリと別れを告げるポニテ美少女に、俺はなんだかもう、ただ呆然と見送るだけで……


 ――(はがね)?……きいたことあるような、ないような


 とかすかに思いつつもそれどころで無かった。


 「そうそう!その”お守り”……ふふ、”羽咲(わたし)だと思って肌身離さず持っていてね、大好きな盾也(じゅんや)くんへ(はあと)!”って事らしいから」


 ザワワッ!!


 去り際に、一際大声でそう言って校舎の中に消えていくポニーテール美少女。


 ”峰月(ほうづき) 彩夏(あやか)”嬢はすこぶる愉しそうに、ちょっとだけ意地の悪い笑みを浮かべていた。


 ザワ!ザワッ!ザワワッ!!


 三度……いや四度か、ともかく大いにざわめく聴衆!


 「な……」


 もちろん、内容は俺に対する嫉妬とやっかみの罵声がオンパレードだ!!


 「なんだってんだぁぁ!!この状況、わかってんのかよぉぉ!!」


 既に校舎に入って見えなくなったポニーテール美少女に向け、俺の虚しい叫びが木霊する。


 「…………くそ」


 ――いや、(むし)ろ解っててだろう……性悪ポニテ娘め!!


 ザワ!ザワッ!ザワワッ!!


 野次馬達はあらぬ誤解で、口々に俺の悪口を喚き、そして殺意の視線を向けていた。


 「…………」


 だが、後に残された俺の表情が暗いのはそんな罵詈雑言のせいじゃない。


 「”大好きな盾也(じゅんや)くんへ”……か、ふっ」


 俺の乾いた唇は、なんとも空しい失笑を浮かべていた。


 それは――


 羽咲(うさぎ)・ヨーコ・クイーゼルという、とびきりのプラチナブロンドツインテール美少女が、そんなことを言う可能性は間違いなくゼロだという事実を……


 悲しいかな、俺は確信しているからだった。


 ――


 結局、俺はそのまま野次馬でざわめく校門前から早々に立ち去り、


 少し歩いたところで立ち止まっていた。


 「……」


 そしてジッと手に持った紙袋を見る。


 ガサ、ゴソ……


 路上にもかかわらず、ポニーテール美少女に手渡された紙袋を開ける俺。


 ――いや、”お守り”だから!


 ――早めに確認した方が身の安全のために良いから!


 「…………」


 ――うう、決して帰るまで待ちきれない子供のような心境では無いぞ!


 誰に言い訳しているのか?俺はゴソゴソとソレを開ける。


 「!……これは」


 果たして袋の中に入っていたのは――


 (なめ)した革紐の先に鈍い光を放つ小粒の石が着いたネックレス。


 それと自筆で二枚のメモ書き。


 「…………」


 ――盾也(じゅんや)くんへ


 ――ごめんね急に、でも、あまり時間が無くて


 ――それでこの”お守り(アムレット)”をプレゼントするので、出来たら肌身離さず持っていて下さい


 ――あと、あまり無茶はしちゃ駄目だよ?


 メモ書きにはそう書いてあった。


 ”私だと思って” 云々(うんぬん)と ”大好きな” の下りはもちろん記述が無い。


 「…………」


 ――いや、一応だよ!


 一応、確認だけしとこうかなぁーって、思っただけ!


 ――あはははっ……あは……はぁ……


 ――


 「……コホン」


 気を取り直して、二枚目……


 ――ん!?


 これは明らかに筆跡が違う?


 ――羽咲(うさぎ)の親友の彩夏(あやか)だけど


 ――取りあえず羽咲(うさぎ)の緊急連絡先を書いておくわ、悪用はしないように


 ――あと、飽くまで緊急連絡先だから、愛の囁きとかでは使わないように


 「…………」


 ――くっ!なんて……なんて奔放な(ひと)なんだ、あのポニテ娘は……


 しかし、ファンデンベルグでの羽咲(うさぎ)の連絡先を入手できるなんて、


 あの”峰月(ほうづき) 彩夏(あやか)”って女も恐らくかなりの身分なんだろう。


 ほんと、枸橘(からたち)女学院恐るべし!


 ――


 俺は羽咲(うさぎ)の緊急連絡先とやらが記述された用紙をポケットに丸め込み、溜息を吐いた。


 「なんか……疲れた」


 そしてトボトボと歩き始めた俺は――


 その重い足取りとは裏腹に帰路では無く、何故か”幾万(いくま) 目貫(めぬき)”の店の方へと向かっていたのだった。


第26話「手紙(ブリーフ)お守り(アムレット)?」END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ