第二十七話「九番テーブルにご指命入りました?」
第27話「九番テーブルにご指命入りました?」
”聖剣”の話をしよう――
”聖剣”とは、読んで字の如し、
名は体を表す……と語れば”聖なる剣”、”神聖なる神の祝福を受けた剣”
と言うことになるが然に非ず。
敢て一言、二言で表現するなら……
英雄が携えし神話の剣!
比類無き威力の宝剣!
他に類を見ない超弩級の兵器!
――いや、どれもピンとこない?
そうだな……
”世界のあらゆる存在を無意味なものにする碌でもない代物”
――うん、やっぱりコレが一番シックリくる
そして――
俺、鉾木 盾也は”聖剣”の実物を見たことが無かった。
”武具職人”擬きのような仕事をしているのに?
と、思うかも知れないが俺だけじゃ無い、
世界中の殆どの人間がお目に掛かったことはないだろう。
何故なら”聖剣”は最高の戦士たる英雄、つまり戦士系の英雄級にしか所持することが出来ない代物だからだ。
現在、英雄級は世界に八人しかいないという。
つまり、この世に存在する聖剣は”八振り”しか存在しないと言うこと。
戦士に限らず魔導士も、その能力を行使して幻獣種と戦う時は職人の製造した武具が必ず必要だ。
しかし、英雄級の”聖剣”に限っては――
彼ら、彼女らが自らの力で生み出す事が出来る。
”聖剣の召喚”とも呼ばれるらしいが……
「……」
俺はその”聖剣”なる不遜な存在に一家言があった。
見たことも無い存在に何故?
俺の言い様はまるで聖剣の存在を疎ましく思っているようだ?
それは、そうだろうな……
そして――
俺、鉾木 盾也は”聖剣”の実物を見たことが無かった。
そう、ついこの間までは……
ガチャリ!
立て付けの悪い古い木製のドアを開けて、出来損ないの職人が来店する。
「…………」
”幾万 目貫”はいつも通り、古びた木製カウンター向こうで怪しい黒頭巾で佇んでいた。
「今日は”妹の方”じゃないのか?」
入るなりの俺の言葉にヤツは頭巾から露出した目を細める。
「毎度どうも。鉾木くん、今日は何用で?」
俺の質問に答えるつもりは毛頭ないようだ。
「……金毛、九尾の狐の事について聞きたいことがある」
いつも通りな相手に、俺は単刀直入に尋ねることにした。
幾万 目貫に回りくどいことを言っても意味が無いからだ。
「九尾の狐?大妖怪の?」
「いや……そういう伝承的なものではなくて、実際にはそう名乗っている人物か?」
「人物?」
「いや、それもちょっと違うな……」
俺はどう説明したものかと少し悩んだが、やはりここは原点回帰だろう。
つまり――
幾万 目貫に回りくどいことを言っても意味が無いから……だ。
「古の大妖”九尾の狐”とか、羽咲・ヨーコ・クイーゼルの祖母を騙る”聖剣”……確か羽咲が言っていた”グリュヒサイト”のことだ」
「…………」
その瞬間、幾万 目貫の双眼は僅かに開き、驚きを表現する。
この男が本当の意味で驚くのは珍しい。
いや、俺は見たことが無かったかも知れない。
「これは……また……突拍子の無いことを」
戯ける男、しかし俺の目は真剣だ。
俺には”ある仮説”があり、それを裏付ける……
いや、これは今はいい……
「…………」
「…………」
――
「ふぅ、なるほど、なるほど、鉾木 盾也だからこそ……意気地が無く、無責任で卑怯な鉾木 盾也くんだからこそ、善くぞ其処に至った訳かね」
幾万 目貫は俺の顔をマジマジと見た後で、なんだか面白く無さそうにそう呟いた。
この男は色々と悪趣味な冗談を口にしては然も有りがちに喜怒哀楽を演じてみせるが……
本当のところ真面な感情など無いのでは無いか?
と、思わせるほどに人間離れしている。
それは俺個人の感想ではあったが、多分事実だろう。
「それで?何故それをこの僕に?」
「……」
俺は答えずに、黒頭巾を見つめている。
意味なんて無い。なんだか此奴ならなにか知ってそうな気がした――
つまり、身も蓋もなく言ってしまえば”勘”なのだから。
「わかったよ、鉾木くん」
――やはりか……
やはり幾万 目貫は”なにか”を識っている。
「……」
俺はそのまま、若干緊張気味に続きを待つ。
「だったら……そうだね。そう言うことは”本人”に聞くが良いだろう」
――は?
――今、なんて言った?本人?
幾万 目貫は諦めたような、しかし若干、楽しそうな声で確かにそう言ったのだ!
「本人っておまえ、なに言って……」
「おーーい、玉ちゃぁぁん!!鉾木くんがご指命だよぉぉっ!」
――って、おい!
なにキャバクラの指名みたいに呼んでんの!?
…………いや、行ったこと無いけど
――玉ちゃん?
ガタガタッ
やがて店の奥の方から、なにやら物音が聞こえ……
「まさか……いや?」
有り得んだろ?そもそも、それが出来りゃ世話が無い……
シャララーーーン
「……………………ま、まぢでっ!?」
澄んだ鈴の音のような、軽やかな音を響かせて……
討魔競争の時と同じ空気――
――
「全く、妾は同伴客で疲れておるのに、場内指名まで入れるとは……目貫は人使いが荒いのう」
「本気でキャバクラかっ!!」
「…………」
「…………」
世の理不尽に、思わず叫んだ俺を不思議な顔で眺める二人の…………人外共。
「”きゃばくら”とはなんじゃ?」
あそこまでノっておいて――
純真な瞳を向ける基本、純和風美女……
「う……うう」
――ってか、俺は本当に行ったことないですよ……これほんと
店の奥から現れたのは平安貴族のような艶やかな着物を身に纏った若い女。
たっぷりとした長い黒髪と、同色の切れ長の細い瞳。
艶のある和装美女は、どうやら九本ある黄金の尻尾は、本日はどこかへ収納しているようだ。
「…………」
つい、条件反射でツッコミを入れた俺だったが、やはり信じがたい光景だ。
「ほんと、本気で現れやがった……」
こんな簡単に会えて良いのか?展開的に。
「なんじゃ?鉾木、阿呆のような顔をしおって……おお!そうじゃ、妾の”うぃっと”に富んだ物言いか?あれが気になっておるのじゃな?安心せい、あれは戯れ言じゃ」
――いや、だれもそんなの信じてないって……
――ていうか、こんなキャラで良かったっけ?
「うむ、話は粗方聞いておった。見事じゃ、鉾木。さすが妾が見込んだ男子」
――くっ、完全にペースを乱された
これでは駄目だ!もっと核心を突かなければっ!
「あの……玉ちゃんって?」
――ちっがぁぁーーうっ!!
なに聞いてんだ?俺?
それ気になることか?
女の子の源氏名由来を会話の入り口にって……
――ほんとにキャバクラに来た一見客かよっ!
自身に激しくツッコミながらも、俺はそこから次の言葉が出ない。
「玉は”玉藻”のたま、存ぜぬか?」
「…………」
――そう……きたか
「玉藻御前……あくまで九尾だと言い張るつもりか」
相手がそこに拘ってくれたおかげか、俺は若干ペースを取り戻していた。
――言わずもがな
玉藻御前は”九尾の狐伝説”に登場する人物で、平安時代に鳥羽上皇に仕えたとされる絶世の美女、妖の仮の姿だ。
「言い張るもなにも、後人たちがそう呼称したのであって妾はその”いめーじ”に迎合しておるに過ぎぬ」
思いのほか口が滑らかだ。
つまり……隠す気は無い?
「そうかよ、なら教えてくれるのか?」
そうして俺はやっと核心に迫る。
俺の問いかけに、平安時代の麗人は細い瞳をさらに細め、妖艶な口元に少し角度をつけて優美な所作で頷いた。
「うむ、そうじゃな。そもそも妾は千年ほど前に……」
第27話「九番テーブルにご指命入りました?」END




