第8話
今回もよろしくお願いします!
予想以上に頭がおかしい奴だ。
朝っぱらから幽霊に取り憑かれるだけではなく、こんなイベントまで発生するとは……今日はどこまでも厄日のようだ。こんな日はさっさと家に帰り、不貞寝するに限る。
「待ちなさい」
「いや、帰る。つーか、そのオッサンあげるから、もう帰らせてください。お願いします」
「いらないわよ。こんなの」
「そう、答えを急ぐなよ。傍から見れば中々お似合いだって」
「潰すわよ。この悪霊ごと」
「なあ、お前ら。さっきから、ひどくない?」
彼女は、こちらに了承を得ることもなく、手招きをした。
「ついてきて」
「……まじか」
「なあ、そろそろどいてくんない?」
そのまま神社に向かうのかと思いきや、何故か公園に連れてこられた。
……おかしい。女子と並んで歩き、公園で今から語り合うというのに、まったくときめかない。オッサンが香椎に首根っこを掴まれて、引きずられているからだろうか。
彼女は、そんな俺の心情などお構いなしに、ドーム型の遊具の中へ入っていった。
「こっちよ。はやく来なさい」
「いや、待て」
何、高校生が普通に入っていってんの?砂場の近くにいる主婦や子供の視線が痛いんですけど。
俺が躊躇っていると、彼女はクールな目つきに軽く怒気を孕ませた。
「はやくしないと、あっちのマダム達に、あなたに犯されると伝えにいくわよ」
「お前は最低だ!!」
渋々ながら、ドームの中に入る。さすがに高校生の体格となると、少しきつい。気分的にも色々ときつい。
中は妙に涼しくて、丸や三角の形の灯りが射し込んでいた。懐かしさがふつふつと込み上げ、秘密基地ごっこをしていた頃を思い出した。今は誰の秘密基地なんだろう?
「ちょっと。暗いからって、変な妄想はしないで貰えるかしら?新藤君」
「してねーよ……あれ?自己紹介したっけ」
「されてないわ」
彼女は少しずつ距離を詰めてきた。
見てくれはいいが、初対面から変人すぎて、関わる気などなかったから。それなのに知ってるということは、もしかして……
『やっと二人きりになれたね』
『実は私……新藤君のことが……』
ちょっとオッサンが邪魔だけど、まあいいか。おい、馬鹿な生き物を見るような目でこっちを見るな。
彼女の方からは、見た目よりずっと甘い香りが漂ってくる。そのことを意識すると、胸が高鳴った。
何か外で物音が聞こえた気がするが、今は確かめる気にはならなかった。
「ねえ」
「はいっ!」
「急に元気ね。それより……」
「?」
「そこにいるのは新藤君の知り合いかしら?」
「え?」
その言葉に慌てて振り向く。
「や、やっほ~。弟君」
「……姉、さん」
「…………」
「…………」
「…………」
「何だよ、この空気」
どうしてこうなった。
何故かドーム型の遊具の中で、義姉と初対面の女子と幽霊と並んで座っている。かなりシュールな光景だ。
姉さんは落ち着かない感じできょろきょろして、俺もつい似たような動きになる。彼女は何事もなかったかのように澄ましている。実際何もなかったけど。
姉さん曰く、忘れ物を取りに家に戻っていたら、俺を見かけたので、つい後をつけたらしい。今後はコンビニの立ち読みも用心せねば。
「あの……」
姉さんがおずおずと口を開く。暗くて表情はよくわからなかったが、何となくイメージはできた。
「お邪魔、だったかな?」
「……いや、べ「全然構いません」」
姉さんの問いに答えようとしたら、彼女がぶった切るように割り込んできた。
「私はこの男に半ば強制的に半ば無理矢理半ば力ずくで連れ込まれただけですので。それでは失礼します」
「は?」
「え?」
「ぷぷっ」
爆弾発言を残した彼女は流れるような動作でドームから出て、振り返ることなく去っていった。
その背中が見えなくなってから、何ともいえない沈黙が訪れる。……何故だろう。さっきより涼しいな。オッサンは腹を抱えて笑っている。
「ね、義姉さん。帰ろっか」
「弟君」
「は、はい……」
姉さんから妙なオーラを感じる。
あ、これヤバイやつだ。
「少し話を聞かせてもらえるかな?」
どんなオーラを放っていようが、その笑顔は優しさに満ちていた……。
読んでいただき、ありがとうございます!