第56話
「こ、これは……」
義姉さんが目に見えて狼狽えている。言い訳を頭の中から頑張って引き出そうとしているが、焦りがそれを邪魔していた。何だ、この空気。あと先生は目のやり場に困るので、脚をあまり動かさないで欲しい。
とりあえず、助け船を出すべきか否か迷っていると、義姉さんはわたわたと口を開いた。
「こ、これは……ユニフォームだよ!」
「ユニフォーム?」
「そうだよ……これ、はね?」
「は、はい……」
「私……夜9時以降に家事をする時には、メイド服を着なきゃ気が済まないの!!」
「…………」
義姉さんの言葉を聞き終えた梛ノ宮愛里は、いきなり俺の手を引き、リビングを出た。
そして、呆然としている義姉さんに頭を下げ、ドアを閉めると、こちらに顔を寄せ、声を顰めて話しだした。
「どういうことですか?あなたと違い、灯さんは常識人だと思っていたのですが、義姉・義妹のエキサイト本を持っていたり、BLに興味津々だったり、メイド服で家事をしたり、結構な猛者ですね」
「お、おう……」
うん、それ全部俺のせい。しかし、ここで全てを崩壊させる訳にはいかないので黙っておく。
「しかし、灯さんには何もツッコまない方がいいのでしょうね。性癖や趣味は人それぞれですから」
「いや、待て。その前に俺が常識人じゃないみたいな言い方は止めろ」
「はいはい、わかりましたから」
「その言い方ムカつくな、おい!」
「じゃあ、もう遅いので義姉さんを連れて帰りますね。この一点につきましては、あなたに迷惑をかけたことをお詫びします」
「あんまり詫びられてる気はしないが、素直に受け取っておこう」
俺に対し、初めてやわらかく微笑んだ梛ノ宮愛里は、この後すやすやと寝息を立てていた自分の姉を軽々と肩に担ぎ、自宅へと戻っていった。その様子をメイド服姿の義姉さんは唖然として見ていた。
先程の親切に倣い、こいつの謎の筋力にはツッコまないでおいた。
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