第54話
誰だ!至福の時を邪魔しやがるのは!
者ども、出会え出会え!と迎え撃ってやりたいところだが、そんな兵力は有してないので、自分で迎え撃つべく、スタスタと早歩きで階段を降りる。
とはいえ、不機嫌さは抑え、インターフォンのモニターを確認した。
「……先生?」
「ハロ~グッモ~ニ~ン」
モニターに映っているのは、訳の分からないことを言いながら、カメラに手を振る梛ノ宮先生だ。
うわ、思いきり酔っ払ってやがる……。
しかも「ただいま」って、ここアンタの家じゃねえから。
対応は一つしかない。とりあえず……スルーで。
ガチャッ。
「へ?」
鍵が開く音がしたので、玄関を見てみたら、梛ノ宮先生がドアを開け、覚束ない足取りで入ってきた。
案の定、顔は真っ赤に染まり、授業中のしゃきっとした立ち振る舞いからは想像もつかないくらいに、夢見心地な笑顔を浮かべている。いや、それより……
「ど、どうやって鍵を……」
「ん~?ピッキングだけど」
「さらっと犯罪行為に手を染めないでくださいよ!つーか、何でそんな技を習得してんですか!」
「この前、ボスを倒したらレベルアップして覚えたのよ」
「それ、ゲームの世界じゃねえか!」
「納得できないなら、『あいつ、ワンアップしたんだな』って思ってくれていいわ」
「思えねえよ!担任教師がピッキング習得することのどこがワンアップなんだ!」
「あぁ~疲れた~」
「聞いてねぇ……」
「ただいま~♪」
「っ!うわっ……」
酔っ払いにしては俊敏な動きで、梛ノ宮先生が抱きついてきた。正確には、飛びかかってきたという言い方の方がしっくりくるような状態だが、どちらにしろ予想外の行動に対応できずに、俺は仰向けに倒れてしまう。
「ん~♪」
「せ、先生、力強っ!」
思いきり抱きしめられて、体が痛い!しかも滅茶苦茶酒臭ぇーーーー!!!!
普通、美人が抱きついてきたら、甘い香りがぱあっと弾けるはずなのだが……さっきの義姉さんみたいに。
そんな思春期男子の淡い期待をあっさりと打ち砕くような色気のないハグに、俺はげんなりとした。
「せ、先生…………!」
さらに一つ問題に気づく。
倒れた拍子に、俺の手は梛ノ宮先生の胸をしっかりと掴んでいた。
いや、これはですね、わざとではないんですよ?これは不可抗力というものでして、先生が酔っ払ったのがそもそもの……
「……弟君?」
底冷えするような恐ろしく冷たい声音。
目を向けると、そこにはメイド服のままの義姉さんがいた。
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