第3話
今日もゆるくいきます!
そういえば、サクラクエストの放送日でした。
不本意ながら幽霊を連れて学校に到着すると、もうほとんどの生徒は自分のクラスの確認を終えたしく、掲示板の前には10人いるかいないかだった。
「さてと、俺様のクラスは何処かな?」
「ほざいてろ。絶対にツッコまないからな」
俺はA組か。クラスメイトは……いや、止めておこう。担任もクラスメイトも、ちゃんと確認するのは教室でいい。こっちの方がちょっとしたスリルを味わえるから、刺激が欲しい方にはオススメだ。某カレーチェーン店の3辛くらいの刺激だが。
オッサンは俺の右隣をふわふわと漂いながら、何故かほっと胸をなで下ろしていた。
「ふぅ、とりあえずお前が共学でよかったぜ。男子校だったら、何の楽しみもなく過ごす羽目になってた」
「いや、そんなのどうでもいいから。それよか、何でお前は俺に取り憑いたんだよ。俺は悪霊に呪われるような事はした覚えがないんだけど」
「悪霊じゃねえし、呪ってもいねえよ!あれ?そういや何でだろうな」
「え?さらに記憶喪失?何それ、笑えないんですけど」
なるべく声を抑えて会話しながら角を曲がると、誰かにぶつかった。
「あ、すいません!」
「こちらこそ……」
いかん。幽霊との会話で注意力散漫とか、誰もフォローしようが無い。よし、オッサンはなるべく無視の方向で。
ぶつかった相手は少し赤みのある長い黒髪が印象的な女子生徒だった。思春期男子の習性で顔を確認しようとしたのだが、彼女は大してこちらを気にとめるでもなく、そのまま歩いていった、のだが……
「おい!この女、黄色だぞ」
「黄色?」
オッサンが口にした色を、オウム返しでこちらも口にしてしまう。すぐに何の事か気づいて、口を閉じ、すたこらさっさとその場を去った。その女子の方は見ないようにしながら。
「…………」
背後からの視線を感じる気がするのだが、俺の気のせいだろう。そうに決まってる。きっとそうだ。
「お前、結構バカだろ」
「うるさい。絶対に後でお祓いしてやるからな。そんで、地獄に送り返してやる」
「……地獄から来た前提かよ。だいぶ失礼だな、お前」
見知らぬ女子にフラグが立つ可能性が消えた事を憂いながら、静かに扉を開く。
中にいる見知った顔数人が声をかけて……こなかった。どいつもこいつも、既に新しいご近所付き合いを始めていて、少し出遅れた気分だ。こうして過去の人間関係は清算されていくのだろう。
「お~っ!!教室だ~っ!!」
おっさんは鬱陶しいくらいに教室内を飛び回っている。
普段、病弱でたまにしか学校に来れない後輩キャラならまだしも、オッサンが学校ではしゃぐ姿を見ても、何の足しにもならない。
オッサンが女子のゾーンを軽やかに低空飛行しているのを横目に……別に羨ましくなんてないんだからねっ!……ぼけーっと座っていると、教室前方の扉が開き、スーツ姿の女性が入ってきた。
その女性は2、3歩くらい歩いて立ち止まり、勝ち気そうな瞳で教室内を見渡した。全体的にキリッと整った顔立ち以外は、肩ぐらいまでの少し癖のある黒髪と、タイトスカートから伸びる白い足がやけに印象的だった。多分、担任の先生だろうか。あと背は少し高く見える。
「うん、もう揃ってるみたいね!」
颯爽と教壇まで歩き、その女性……いや、間違いなく先生は、見た目通りのよく通る声を教室内に響かせた。
「はい、ちゅーもーく!」
その言葉に教室内は静まり返る。皆はポカンとしていた。
オッサンも何故か正座している。こら、学内でも可愛いと評判の柊さんの隣に陣取ってんじゃねえ。図々しいにも程がある。
「はい、今日から君達のクラスを受け持つ事になった梛ノ宮美潮です。よろしくっ!」
何故か敬礼を決めた先生に、皆がぱちぱちと小さく拍手を送る。俺も自然と手を叩いていた。
オッサンは……もう説明は不要か。このローアングラーめ。
「あはは、ありがと!じゃあ皆、まずは……」
幽霊の存在など、もちろん気づきもしない先生は話を進めようとするが、教室前方の扉が再び開き、体育教師の権田先生が顔を出す。
「梛ノ宮先生。教職員はまず職員室に集合ですよ」
「はい」
読んでいただき、ありがとうございます!