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対峙



「――という訳で、今の南千住周辺はとんでもない戦場になってるんだよね。なんだろう、言うならば北朝鮮と韓国の国境みたいな?」

「このまま放っておくと全員死ゾ」


近所の空き倉庫――轟扇組本部と化したその倉庫で、芝田と福木が南千住の現状を林に伝える。


「敵対組織もそうだけど、レジスタンスもこの騒ぎに乗じて何か起こすかもしれないんだよね。ほら、三枝君とかもいるじゃない?そういうのってやっぱり看過できない状況なんだよね」


林は黙々と割りばしとガムテープで得体の知れないオブジェを作っていた。だが、やはり彼の貼ったガムテープはいとも簡単に剥がれ落ちて林は何度も何度も同じところにガムテープを貼り続けていた。


「T20の確保はもう我刃が向かってるけど、多分無理なんだよね。まあ俗に言う組長さんの腕の見せ所さんなんだよね」

「林組長、ご指示を。」


僅かな沈黙。林はその手を止めて、そして小さな声でつぶやいた。


「――だろ。」

「ん?」

「こんなん戦争だろ!?!?」


林が机の上のガラクタを叩き払う。折角ガムテープでぐるぐる巻きにされていたのが無残にも飛び散った。林曰く、掃除係の虎さんが一年前に亡くなってから、この部屋はどんどん汚くなっている――何故自分で片付けないのか、誰もが抱く疑問だが、誰もが口に出来ない疑問であった。


林はそのまま黙りこくったままで、何も話さない。福木と芝田は別にそんなことが聞きたかったのではないのだが、どうやら林は組長として意見を求められたとは思っていなかったらしい。


「で、組長。一体僕らは何をすれば良いのかな?」

「えっそれ俺に聞く!?……そうだなぁ、轟扇組のメンバー全員で話し合おうぜ、大事な話だし」

「は?全員集めるとか流石に無能すぎるんだよね。ピンチを切り抜けられない組長とか『激ヤバ注意!この不良グループのリーダーが雑魚過ぎるwww』ってスレが立てられるんだよね」

「このまま死ゾ」


そう、林は存在感こそ際立っているがリーダーシップが致命的なまでに足りていない。轟扇組とレジスタンスとの抗争も林の統率力の無さが生み出したようなものであった――無論、林だけが悪いという訳でも無かったが。


「じゃあ逆に皆はどうしたいの?そこ分かんなきゃやっぱり何も出来なくね?お前らも考えと――おいぃぃぃ!聞いてたか今の!?」


いつの間にか、芝田と福木は手元の端末を操作していた。我刃からの救援依頼が一斉送信で送られていたのだが、林は全く気付いていない。


「我刃が戦闘ガバっちゃったガバねぇwwwww」

「マジかよあいつ使えねえな……芝田君どう思う?」


芝田の鼻で鳴らした笑いが響く。まるで吐き捨てるかのようなその笑いは、その場で静かに木霊する。


「じゃあ僕、好きにさせてもらうから。」

「は?おい芝田!お前俺の言うことが聞けねえのか!!一応組長だぞ!?」

「……少々?」




芝田は部屋から消えた。一瞬で。















「アッヒャ!?こいつ強すぎるだろ……」


我刃の振るった鉄バットは見事に、この得体の知れない化け物の頭部にめり込んだが、臆する事も、ましてや防御もせずに、熱く加熱された半田ごてを我刃に突き刺す。その刹那、我刃の鉄バットが閃き進路を弾く。


『モオオオオオオオオオオ!!僕はそんなんじゃ死なないぞぉぉぉおおぉぉぉお!!!!!!』

「あっぶね!?もう許せるぞおい!」


まるで暴れまわる猛牛のようにただひたすら攻撃を繰り出されては反撃すらも出来ない。あの轟扇組の戦闘狂と呼ばれた我刃が押されていた。


「やべえよやべえよ……もの凄い、強い奴と当たっちゃったよ」


一時後退――我刃としては珍しく、そんな事を考えていた。その場の全ての敵を狩り尽すまで止まらない、そのポリシーを捨てようとしていた。


『駄目だァ!そんな動きじゃあ生ごみになっちゃうよぉぉぉ!?』

「アッヒャ!?」


距離を離そうと小さく後ろに飛んだ瞬間――その僅かな動作の間に、T20はまるで獣が己を縛っていた鎖を解き放ったかのように、恐ろしい程の速度で我刃へと飛び進んだ。研ぎ澄まされた槍の様に、半田ごてを我刃へと向けて人間の動きを逸脱した真横飛で。


我刃は死をも覚悟した。



『モオオオ――おぉぉ!?!?』

「徳川様、逃げてはダメですよ?」


T20が吹き飛び、強烈な破裂音が辺りに響く――紛れも無い銃声であったが、それに紛れて小さく、男の声も交じっていた。


「あっ店長!来るの遅すぎィ!」

「は?キレそう」


彼の姿は異様だった。チェックの戦闘服に身を包み、背中には何故かナップザックが背負われている。

何より彼の左腕は、むき出しの銃身となっていた。


『No.893 田中瑠』それは轟扇組が発見した究極の人口生命体。

そして、彼の名前。


「あと田中瑠、俺は徳川様じゃなくて我刃だからそう呼べってイワナ……書かなかった!?」

「……徳川様、まだまだこれからですよ?」

『モオオオオオオオオオ!!!!』


倒れていたT20が起き上がる。胸に開いた風穴は半田付けされて塞がっていた。


「めんどくせマジで。やめたらこの仕事?」

「ダメでしょ」


T20の攻撃を我刃が受け止め、その一瞬の隙で田中瑠がT20を撃ち抜く。完璧な連携だった。

田中瑠へと攻撃の矛先が向いても我刃の強烈な一振りがそれを防ぐ。T20の身体にも影響が出始めていた。


『フンッこのまま戦いは続けられないよォ!フンッ』

「アッヒャ!何やってんだあいつ……」

「動力切れなんだよなぁ……」


動力切れから起きるガス欠音を撒き散らしながら、T20は建物の上へと飛び立った。


「……徳川様?追い掛けなくていいんですかね?」

「ぬわああああんもう疲れた」


バットを投げ捨て、我刃は大の字になる。すっかり気力体力共にを使い果たしていたのだ。


「ホラ田中瑠もこっち来て」

「嫌です……」





その様子を双眼鏡で観察する男が一人、呟いた。



“もう少し改良する必要があるんだよね”と




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