県警
花火が上がり屋台が並び、一人の例外なく皆笑顔を浮かべる南千住にまた新しい“例外”が足を踏み入れていた。
その二人は明らかにこの状況では異質な恰好をしていた。片方は少し柔らかめな印象のスカートスーツの女性だがもう一人、老け顔の男の方は余りにも異常だった。線が見えるほどに綺麗なスーツ、ぴっちりと留めたネクタイ、何より堅苦しいまでの雰囲気……胸元で光る岡山県警のバッジがそれを助長する。とても祭りには似合わない。
「此処が南千住ですか、なんだか雰囲気が聞いてた話と全然違いますねぇ」
肩を揉み解しながら老け顔が髭に塗れた口を開く。余りにも不衛生に伸びたそれはもみあげと重なって、獅子のような蛮勇さをも醸し出している。
「雰囲気どころじゃないですよ、お姉ちゃん。此処は轟扇組本部のある不良の町……こんなに人が居る事もおかしいですし、何よりこの催し物は――」
「祭り、でしょ?」
お姉ちゃん――信じがたいが彼女達は姉妹である。岡山県警組織犯罪対策一課特別捜査班、福田姉妹。岡山県警のエリート中のエリート二人組である。
彼女らは改めて周りを見渡す。並ぶ屋台、混みあう人々、楽しそうな若者、和やかな家族。とても日本最大の不良グループ、轟扇組の本部が置かれている町とは思えない。
「ど、どうしようお姉ちゃん……一度岡山に戻って二課や公安にも手伝ってもらった方が良いんじゃないでしょうか……」
「無駄じゃないですか? はっきり言って岡山県警の中で僕らより異常事態に対処できる人いませんし、情報なら現地であるココの方が沢山転がってると思います」
「はわわ……そうですね、その通りです」
姉である福田バーサーカーは自他ともに認める完璧な才女である。その功績は岡山県警だけでなく警視庁にも伝わっており、伝説のオンナ刑事と呼ばれているほどである。それ故に岡山県警の対策第一課特別捜査班という特殊な意味を持つ部署に配属されている。そしてそれを誇りに感じる、正にデキる淑女だ。
妹の福田雛は姉の評判と比較するとあまり大きくは語られない。勿論、決して無能という訳ではないが地味な雰囲気を拭いきれない。その事を何よりも自覚しているのは本人だが、先を行く姉の背中は離れ過ぎており、雛にとって追い付けるものでは無かった。その認識がより強く彼女の印象を地味に、それでいて弱気にしていく。
「それに手掛かりって言うのは一種の駆け引きの上に成り立っています。糞に例えると分かりやすいですね。いかに早く上質な糞を手に入れられるか、いかに早く相手の顔面に糞を塗りたくられるか。出遅れると相手に糞まみれにされてしまうんですよ」
「すごーい……流石お姉ちゃん……」
「あとは……応援を呼んでも多分県警は誰も来れませんよ」
「えっと…………」
「資格ある者だけが挑める糞の溜まり場……ここはそういう場所だって事です」
バーサーカーは事あるごとに糞を例えにすることで知られている。戦闘、情報、会議。彼女の使うあらゆる技術は糞で置き換えられており、それを惜しみなく使う。その力は南千住という土地に於いては皮肉の様に輝かしい能力であった。
特別捜査班にして糞魔御霊後継者――福田バーサーカー。彼女もまたこの地に“招かれて”いた。
「とにかく、轟扇組本部に向かいましょう。上手く行けば川土手下一派や御曹司の手がかりが見つかるかもしれません」
「はい、わかりました。でも私にうまくできるかな……」
「何とかなりますよ。糞まみれ! 糞まみれにします!!」
屋台が続く大通りを彼女達はゆっくりと歩く。とても似合わない堅苦しい衣装を着ている二人組であるにも関わらず、周りの人々は何も疑問に思う事が無いのかただ祭りを楽しんでいる。彼女達には彼等がまるで取り付かれたように祭りを貪っている様にしか見えなかった。強欲に、盲目の様に。雛は恐怖すらも覚えたが、バーサーカーは小さくほくそ笑んだ。
「……狂気の沙汰程面白い」
新たな例外は決して雑踏に溶け込むことも無く、轟扇組へと歩み進んだ。




