編纂者
広間に置かれた大円卓、だが明らかに空席の方が多く座っているのはわずかに4人であった。
だが集ったバケモノたち、その半数が単一で世界を改変しかねない力を備えている。
「こうやって集まるってのは大事なことだ。理由を説明……してほしいなぁ」
冗長に話す男はパっとしない、どこにでもいそうな風貌をしていた。だがこの場において存在できている時点で、それが全くの見当違いであることは想像に難くない。
彼こそ数ある並行世界において最大級の規模を誇る、”コンプレックス”の創造主たるガッツリ閃電 千世である。詩篇の長さが力の強さとでもいえるなか今が休眠の時期であったとしても、ことそれにおいて彼に及びつくものなどいない。
その彼をして序列18位に甘んじているのはきっとそれが”なろう”ではないから。もしもその住処”夜想曲”を出てくることがあれば順位は大きく変動するはずだ。
「うーん、返答がないなぁ。川が近いからかな?」
「うるさえなー、川とかどうとか知らないですよ」
そんな彼の話の腰を折って、随分と若い少年が声を上げる。だが年齢とは不釣り合いにその存在感は閃電を優に超えていた。
末期の筆運びにして終末の笛吹きよりの使者、十六夜 白の序列は第14位である。たった4位の差はその地力の差を示しているかのようでもあった。
数々の原典を吸収し続ける事こそが本質である、その刃は無敵 に最強 をかけ合わせ頂点にも届きうる。
「まぁ、なんて手厳しいんでしょう。僕はもうちょっと人にやさしくしてもいいと思うなぁ」
「……」
それきり無言の十六夜 白と話し続ける閃電は決定的に噛み合わない。編纂者としての特異性なのか、その口が空いている限り紡がれる音は止まらない。
序列は単なる力の差を示したもので、だからこそ差が歴然としたものになるのだが。個々の関係とはなんら関係ないために、このようにともすれば格上をからかっているかのような図式も互いの逆鱗に触れない限りにおいては成立しうる。
ただしそれが4位ほどの差であったのならば。
「会合と聞いて集まったのに四人しかいないのか‥‥。会話の内容もコミュ障の典型だし」
その者はうどん2017、名に等しい序列2017位である。四桁位の者は自己の世界を持たない、いわば間借りしているような存在だ。
単体としての力は二桁位に比すれば無に等しく、低次元である低次連続世界の腕利き、俗に言うジグマシンゲみたいに強い人の足元にも及ばない。
だが彼らは編纂者のみに突き立てる刃を持つ。そして彼は十六夜 白を目の敵にし常に吠え続けている。それを見逃し続ける心情とは如何様か。
「今時チート転生なんて使い古されて失笑ものですよ。どんだけ遅れてるのかと」
「……」
「そういう風に突っかかるのは良くないなぁ。反省しといて下さーい↑」
その会話にもならない騒音たちをたしなめるように声がかけられた。
「みなさんお待たせしました。ですが少々荒れているようですね。状況をお間違えですよ」
声の主は最後の一人、序列番外はecoなecho。全てが未知数の彼は他者への進言こそを本懐とし己で動くことはない。
だからこその未知数であり、あくの強い彼らが押し黙った理由である。
「今回集まってもらった理由を説明させてもらいます」
「そもそも説明以前に人を呼び立てるのが……」
「言葉に割り込むのはノイズになるだけでなく品性を疑われますよ。今回の議題は二つ、まずは序列14位十六夜 白が低次連立世界に召喚されたことです」
「それは本当かい十六夜君?面倒なこともあったもんだねぇ」
「意味がわからんかった。ゲームかなんかの世界かと思ってステータスだそうとしても出なかったし」
自分の話題になったためか重い口を開けて再び話し出す十六夜 白の言葉は、しかし存外軽い印象を与える。
果たして押し黙る彼と軽い彼どちらが本来の十六夜なのか、その真相は末期のみが知っている。
「そこで調べてみた結果、最近少々おかしなことになっている世界があるようです。その世界について今後どうするかというのが一つ目です。二つ目についてなのですが……」
「ンーッ!ンーッ!」
空間が捻れ戻ったあとには、まるでもともとそこにあったかのように猿轡をされた宇宙忍者が投げ出されている。
縄を外そうと暴れてはいるがその女の子のような細腕では不可能に思えた。
「女の子をしばりあげるなんて親切だねぇ↑」
「これへの処罰を何にするかなのですが」
「知らないですよ。てかこいつはなんなんですか」
言葉を交わす間にもペンギンにもメンヘラにも聞こえる不協和音で啼き続けるそれは庇護欲よりも不快感が先に立つ。
「それについてはわたしが説明しましょう。これはシノギPrime、鳴くと泣く奴とも呼ばれているようですが。そしてその罪状は十六夜 白が召喚された世界への過度の干渉及び事象の改変です」
「にわかには信じられないねぇ。序列も付いてないぽっと出が介入できるなんて」
「とりまこいつに話を聞いてみようかね」
いうが早いか腰の剣を抜きはなち忍者の腕を縛る縄を斬り捨てる。こんな肌に密着した縄を肌を傷つけずに斬るとか流石達人すぎるだろ。
だが‥‥。
「拘束さえ解ければコッチのもんガバ!拘束中ぼくが何も考えていないとでも思ったガバ?」
手足が自由になると同時にシノギが彼に躍りかかる。残心の隙をついた攻撃は確かに序列を持たないとは思えないほどの鋭さをもつ。
「な、なんじゃ、それーーー…… ガハッ。なーんてな俺がそんな攻撃見切れないとでも?」
「クゥーン」
しかしそこまで、その刃は14位に届くほどではない。突き出した剣を絡めとられ弾かれる。十六夜 白が握るはデュランダル、かの英雄が振るった不滅の聖剣である。
そのもの真作ではないらしいが、シノギの愛刀も業物ではあったがこれと比べるのは酷というものだろう。
「このように暴れるのですよ。だから話を聞くこともできず困っていたというわけで」
「放すガバ!今日ぼくさ、カウンセリング受けなきゃなんだよね」
「何を言ってるかもわからないと、どうすればいいんだろうねぇ」
押さえつけられたシノギをよそに再び始まる意味のない会議。だがそれに十六夜 白だけが参加していなかった。眼前の敵性から目を離すほど彼は慢心していない。
だからこそその変化に気づいたのだろう。先ほどまでの騒がしい様子とは打って変わった妙な静寂は彼に警鐘を伝える。
「ンンンンンーーー!!!」
「ガァ!!?」
彼は呻く、咄嗟に飛びのいたとはいえ振り回された腕がかすめた。それだけで彼が吹き飛ばされるほどの膂力は先ほどからは考えられないものだ。
爆煙が晴れたとき立っていたのは果たしてシノギか、押さえつけられる前のににやついた顔などしていない。俯きなにか端末を操作しながら滅茶苦茶に足を振り回している。
「ンーッ!」
怒号とともに繰り出された後ろ蹴りはあまりにも幼稚。だがその破壊力だけを見れば児戯だと、そう笑えるものはそういない。次々に繰り出されるそれは一つ一つが絶死の凶弾となり空間を穿つ。
「事前情報がお間違えですね。捕縛するに際してはここまでは暴れなかったのですが」
「何だよそれ!?」
「俺さ今日女の子の日なんだよね。だからそうやってバカにするのやめてくれないかな」
「はぁ?」
支離滅裂な妄言を聞き流し、尚も粋るシノギを制圧すべく十六夜 白に力が漲る。これこそ末期の真価、継ぎ接ぎされた原典を再現し昇華する。
「身体神化強化トランザム!!オーディン!!」
暴れ狂う剛腕を潜り抜け、瞬時に肉薄する。放たれた斬撃は三角形デルタの軌跡とともにシノギを二枚おろしにせんばかりの勢いで打ち付けられた。
ズッドンッ!と不協和音が鳴り響きシノギの全身が衝撃に軋む。凄い音と共に地面が陥没しあまりの威力にソニックブームも出た。
「ン―ッ!?」
「お前の罪は数えたか?」
残心をきめて剣を収める。いかな未知数のシノギといえども耐え切れずしばらく起きてこないことは火を見るより明らかであった。
「でこいつどうすんの?」
「ここまで暴れるんだったら干渉権の剥奪と力の封印ぐらいはしといてほしいなぁ」
「そうですね、ではシノギPrimeの低次連立世界への干渉権の剥奪及び封印処置を加え十六夜 白が召喚されたとされる世界に追放することを強くお勧めします」
地に伏すシノギにecoなechoの手がかざされその姿がかき消える。何事もなかったかのように立ち上がると十六夜白に向き直った。
「もし不穏なことがあればあなたに動いてもらいましょう。一度召喚された身ならば再度の干渉も影響が少なくて済むはずです」
「わかったよ。何かあった時にいけば良いのね、はぁ」
「もちろんシノギのことだけではありませんが」
最後に付け加えるようにつぶやき彼はシノギのときのようにいずこへと消える。招集したものがいなくなったからにはこの会議は閉幕であろう。
しかし果たして序列14位を一方的に召喚するほどの世界を知ったうえで閃電が動かないと、そう信じるのは些か無理がある。
この干渉がいかな結果を生み出すのか知り得る者はいないのだから。




