凶暴にして共謀
「ワルサー♪ピーサンジュローク♪コルトフォーティーフォー」
月曜の昼下がり、コンビニから出た菊花丸の足取りは軽い。週に一冊しか刊行されない幻の漫画雑誌を手に入れ、これから穴が開くまで一人で楽しくニタニタしようと心を弾ませていた。
一歩、二歩、三歩、四歩、五歩、タクサァン……彼の足取りは歩を進める毎に早くなる。彼は決まって漫画雑誌を読む場所を決めていた。
「あぁあ、ありました!僕は此処で漫画読むのが好きなんです!!」
辿り着いたのは大きな公園。丁度隣に、彼の有名な轟扇組の本部が居座っていることからあまり人気は無いが、此処の日差しを菊花丸は気に入っていた。
「ふむふむ……あっヒソカ!!もう復帰してたんですウェ!?」
公園を埋め尽くす穏やかな芝に座り込み、菊花丸は食い入るように漫画雑誌を読み漁る。やはり作者が書きたい漫画を描いている方が嬉しい。俳句を作りたいと泣きながらバイクを作る俳人と一緒で、その作家がやりたい事をそのままやらせるのが面白いのだ。
「全く同感ですねぇ、演者のやらせたいようにすれば彼らの舞台は輝くんです」
菊花丸の耳は確かにその声を捉えていた。しかし彼が咄嗟に振り返っても、其処には誰一人として立っていない。
腑に落ちず視線を漫画に戻すと、その奥に見慣れぬ人影を見た。
「ウェ!?まさか新手のスタンド使い!?!?」
漫画雑誌を丁寧にしまい、菊花丸は半歩後ろに飛び下がった。しかし目の前の男は只、笑みを絶やさず浮かべるだけ。
「いやぁ、僕ですね、森っていうんですけど、ちょっと此処で面白い映像が取れそうだなぁって」
「映像……まさかサッケを再放送しようと……」
「ちょっと違うんですよねぇ……いや、そうだなぁ……」
森は微かに口元を歪ませ、次いで顔も歪ませる。狂気に囚われた眼元が小刻みに震え、その口を開けさせた。
「虐殺ですよ!!子供のッ、子供による虐殺のドラマ!!殺して殺し殺され殺すんですよ!!」
「プシュッ……」
この男の狂気に、菊花丸は僅かに押された。乾いた口にプシュッと重い空気が入り込む。
「だから大人には死んでもらうんです。子供たちの舞台に似合いませんから……当然あなたもです、陰陽師さん」
「恐ろしいっすね」
「それともアレですか、子供が死ぬところでも見たいんですか?」
「……そんな」
菊花丸は震え、そして感じた。己の心を。
友情を、努力を、勝利を。
「そんな……間違った記ウォックを植えつけちゃダメだ!」
言葉と共に菊花は呪術札をタクサァン投げ付けた。およそ人間が投げ出したとは思えない加速度でそれは突き進み、森の身体を貫こうと進む。
だが森にとってそれは止まっているようにも見えた。札を切り落とし、次々と紙屑へと変わっていく。
「あつ……なんですかこれ」
「僕オリジナルの技、アマテラスですウェ。ナルト!」
切り裂かれた札は激しく燃え上がり、たちまちに森の周りを包囲した。その炎はたとえ掠っただけでも、服が焦げ落ち、その肌に無遠慮な熱を叩きつける。
「あぁ、オモシロイっすねこの技。織江君に今度練習させようかな」
しかし森にとってこの痛みすらも刺激の材料だった。体に覚え込ませるように、その痛みを受けていく。
だからと言って彼の身体が不死身な訳では無い。この熱量の中で何もしないでいれば、只では済まない。何とかしてこの炎の包囲網を突破しなければ――森の思考は静かに響いた声が叩き潰された。
「アツイねぇ、アツイしアブナイねぇ。でもこの技って避けなきゃでしょ?」
森の足元に包みが落とされる。刹那、彼の身体は爆風に押し潰され、宙に投げ出された。地面に叩きつけられた森が最初に感じたのは、痛みではなくその視界の違和感。
「目が……見えない」
「目にくるっと失明させて頂きました。これ喰らうともう頭アッピラバーン!」
森は耐えきれず吹き出した。大人というのは面白くない戦い方で自分を誇示する生き物だと思っていたが、何故この南千住の大人はこんなにも楽しませてくれるのだろうか。森はたまらなく不思議で、そして面白かった。
「陰陽師さん……私は誤解してました。この舞台に子供以外は似合わないと。沢山の大人たちを観て、そして戦い、失望し、大人はツマラナイと。そう思い込んでいたんですね」
「ヴヴヴ……何が言いたいんですウェ!?」
「陰陽師さん!アナタも殺し合いをすべきだ!子供を殺し、子供に殺されるんだ!!」
「フザケンジャネーヤイ!誰がそんな――」
菊花丸が言い終える前に、高速で射出された巨大な何かが彼を轢き飛ばす。しかしその痛みに気付く事にすら間に合わず、菊花丸の意識はフェードアウトしていった。それこそ段々と衝撃でメニ……する前に。
「は?なんで陰陽師の方を狙ったのかまるで意味が分からないんだよね。失明してる方狙えば確実にそいつは倒せたんだよね」
「えっ、森さん失明してたの?っていうかどう見ても怪しいの陰陽師の方じゃん。森さん滅茶苦茶良い人だぜ」
福木は林の反応に違和感を覚えた。彼の経験上、大抵こういう場合は組長が大事な話を部下にしていない時だ。
「組長さんはあの怪しい男と知り合いだったんですかねぇ……」
「おいぃぃぃ!?お前ら森さんの事知らないの?」
「しら ないです」
「少々も」
福木は否定し、芝田は首をすくめる。林は殊更大きく、溜め息を吐いた。まるで偉大なる組長にとって、使えない部下の替えなど幾らでも用意できるのだと如く。
「森さんはな、Twitterで俺に連絡してくれた良い人なんだよ。それで轟扇組について色々アドバイスくれてさ。レジスタンスとは積極的に対立を生むべきだとか、Tは全部起動した方が良いとか。めちゃくちゃ頭良いよな」
「あのさぁ、組長のTwitterに連絡しただけなら僕らが知ってる訳ないんだよね。なんていうかな、流石に組長に対して殺意が沸くって奴?」
「それよりも言ってることが怪し過ぎるッピ!悪い奴ゾ」
「はぁ!?森さんの事疑うのやめろよ!!」
福木が呆れ半分にパメラを進化させるとほぼ同じタイミングで、芝田が気付いた。棒立ちだったその森という人物がいつのまにか姿を消し、公園には誰一人として残っていない事に。
「ほら、ほらほら。その良い人が勝手にどっか行っちゃうなんて有り得ないんだよね。閲覧注意!轟扇組のリーダーが無能すぎる 確かにこれはイライラするわwwwみたいなスレが立っちゃうんだよね」
「お前馬鹿か?森さんめちゃくちゃ忙しいからな。週7だぜ?用事なら仕方ないじゃん。それよりさ、焼き肉行こうぜ。お前ら3220円持って来いよ。ジュース飲みたかったら+480円で」
「死ゾ」
タブレットの画面で砕け散るパメラを見ながら、福木が呟く。破壊をもたらす恐怖の組長の力を、福木と芝田は改めて思い知るのであった。




