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轟扇組



彼は言うならば博打屋だった。味も品質も薄いが市場の値段を遥かに下回る価格の“クスリ”をばら撒き、一山当てようとしていたのだ。人は金が欲しくなる、金が欲しくなったら賭けをする――この男も多分に漏れずその自然の摂理に従った。


「アッヒャ! お前もう生きて帰れねぇな?」


しかし、その賭けはカードを引く前に決着がついた。つまり『俺らの机でゲームをする資格なし』とテーブルから引きずり落とされたのだ。一体誰が? 男にはその答えがよく分かっている。

目の前の4人組の男達――この南千住に巣を作っている巨大な犯罪者グループのメンバーだ。そのグループを知らない人間なぞ都内ではいない。


――轟扇組。忌まわしく、そして恐ろしいその名前が男の頭の中で渦を作っていた。


「流石にこんな馬鹿な事されると僕たちも無視する訳にはいかないんだよね。そうそう、死刑宣告って奴なのかな」


早口で、それでいて耳に残る奇妙な声で語りかける男――彼の名は芝田。轟扇組の参謀を務めているが恐怖で震える男にはその名前が出てこなかった。


「死ゾ!死ゾ!リーサルリーサル死ゾ!」


タブレット端末を抱え、奇声を上げる少年もいた。見た目こそ幼いが、轟扇組の収入を管理している子役――福木である。当然ながら男にはその名前も、彼が叫ぶ“死ゾ”という言葉の意味も分からなかった。


「アッヒャ! やっちゃいましょうか?やっちゃいましょうよー」


先程から鉄バットを振り回していた男が口を開く。浅黒い肌をしているが、何処となくサッカー選手の風貌を漂わせている……インテル長友だ。怯える男はそう感じ取ったがこのインテル長友似の男に膝の骨を砕かれたのだ、今はその男の手で暴れている鉄バットの軌道に酷く怯えていた。

この男は、我刃と言う。


「……おいお前」


そして最奥にいた目つきの悪い男が言葉を発した瞬間、騒ぎ立てていた芝田も福木も我刃も口を閉じた。その男の言葉には鉛のような重みと鋭さが混在していた。まるでただ人を黙らせ、自分が喋る為だけの様なそんな声――誰の声も彼には届かないのだ。

恐怖で震える男は直感で理解した。こいつこそが俺の賭けを台無しにして、そして掃除のように俺の膝を砕かせた鬼の組長であると……彼こそが轟扇組組長『林拳打』であると。

林は膝の砕けた男の前に座り口を開いた。


「ウチのシマで糞不味いヤクが撒かれると聞いた時はどんな事件だよぉ……と思ったが。こんな田舎もんの雑魚だったとはな」

「僕らも少々馬鹿にされ過ぎ感が出てるんだよね、ホラホラこの前も似たような事があったじゃない」

「アッヒャ! 自分草いいすかwwwいいすかぁ↑wwwww」

「なんのバックも無くヤクばら撒くとかコイツすげえ変態だぜ? 死ゾ」


林が腰元から茶色の何かを取り出す。丸いそれはどう見てもガムテープだったが、果たしてそれを何に使うのか――男には理解できなかった。


「暴れんな……暴れんなよ……」


林がガムテープを引き延ばしたと同時に我刃が男を後ろから羽交い締めにする。折れた膝なんて気にしないかのような乱暴な組み付きに男が顔をしかめたがすぐに視界が消える。声を出そうと思っても出せない。男はハッと気が付いた。

林が身体全体をガムテープで拘束しようとしていたのだ。

無茶だと思った。手首や足首などピンポイントで固定するならまだしも体全体にガムテープをぐるぐる巻きにしても意味は無いように思えた。実際林はガムテープを使い切れておらず貼っても貼ってもすぐに剥がれ、その上からなぜか厚塗りするようにガムテープを貼り、そしてそれも剥がれていく。男から見ては完全に時間とガムテープの無駄に感じた。


ようやく丸々ガムテープ一個を使って男がぐるぐる巻きにされると、今更ながらより一層の恐怖に叩き落された。目も見えず、音もよく聞こえず、口もきけない。五感の殆どを締め出されたこの状況は恐ろしくてたまらなかった。


「おい、お前。冥土の土産に教えてやるよ」


林が静かに口を開く。が、ガムテープでぐるぐるにされている男には何と言ったかよく聞こえない。しかし、鉄バットが地面を突く高い金属音が僅かに耳に入って来た。


「ウチのシマに手ェ出したらどうなるか分かるか?」


何かが空中を切る音が何十秒も何分も長く聞こえた。


「戦争、だろう?」


鈍い音が響く。




林の貼ったガムテープはいとも簡単に剥がれていく。鉄バットで殴られる度に顔に貼った部分が、腕に貼った部分が、足に巻いていた部分が、意味もなく胴に巻かれていた部分が剝げ落ちる。もう大体剥がれていた。

夜風に靡かれ、視界が晴れる。目の前にはガムテープが所々張り付いている肉の塊が転がっている。血が滲み、全身が腫れ上がっている。

これを作るのに40分くらいだろうか……夏休みは大量に作っていたが何時の間にかどこかに捨てていた。また部室にでも置いとておくか――腕時計を確認しながら林は静かに息を吐く。


「アッヒャ! ヤク売るまえに地元のグループに絞められるとか馬鹿じゃねぇ!?」

「にしても最近こんなことが続いてるよね、先月からもう10件ぐらいこんな面白くない事が起きて流石に不幸すぎるんだよね」

「は?馬鹿かお前ら、こんなことが偶然な訳ねえだろ」


まるで馬鹿な後輩を諭すかのように、林は夜空に浮かぶ憎い程に明るい月に向かって、呟いた。


「事件だろぉ?」







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