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ちょんまげとバズーカ  作者: シーサイド地蔵
3/5

『Aパート』



 この世界に来てどれだけ時間が経過したのか。私には、さっぱり分からない。何故ならこの世界、特定の行動をとらないと時間が進まないんだよね。例えば朝。幼なじみの迎えを頑なに無視したんだけど、体感時間で二時間経っても三時間経っても玄関の前から動かない。怖くなって時計を見ると秒針は動いてなかった。つまり、絶対学校に行かないといけないという事。もうノイローゼになりそうだった。


 この世界にはこなさないといけないイベントがあって、それを無視すると無理やりそのイベントに『世界』が結びつけようとする。敵は『世界』。勝てるワケないじゃない。私は色々と諦めて皆と共に生きて行く事にした。したんだけど……


 命が幾つあっても足りないって。


 美少女ゲーム舐めてたわ、何この死亡確率。私、下手したら三回死んでるもの。一回目は自殺願望のある子が屋上から飛び降りようとしたのを捕まえて、でも一緒に落ちてプールの中へ。夏だったから良かったけど、水入れてなかったら死んでた。二回目は吸血幼女と刀娘の殺し合いを身体はって止めて死にかけた。いや死んだんだけど、幼女と実は吸血鬼だった刀娘の二人と血の契約ってのをして生き返った。意味分かんないけど、これしか助ける方法が無かったんだって。まぁいいけど。そもそもアンタらが喧嘩しなけりゃ私が死ぬ事もなかったんですけどねぇ……。で、三回目。生徒会長様の暗殺を、身体をはって防いだ。あのさ、私、身体はるしかないワケ? 身を挺して人助けする意外にどうにか出来ないの? 毎回毎回滅茶苦茶痛いんですけど。いやまあ骨法娘に日頃からボコられて痛みには慣れてるし、最近じゃ不死に近づいて丈夫になってるんだけど。


 泣いていい?


 もう泣いていいよね?


 私はもうこの世界に従うしかないのだろうか……あの不可思議娘達の言いなりになるしかないのだろうか……そんな考えが頭を支配し始めていたその時。私はある事を思い出した。


 ある日、私がお風呂に入って髪を洗っていた時の事。髪の毛を洗うのも男になった影響か荒っぽくなっていた私は、シャンプーではなくボディソープを使って洗うという暴挙に出た。結果は髪がギシギシして、大変な事に。でも怪我なら放っておいたら元に戻ってしまうから、同じように髪の毛も治るだろうと思ってたんだけど……結局次の日もギシギシしたまま。朝シャンする羽目になった。


 髪の毛は、強制力の対象外なの? だったら……だったら、あの娘たちに。この世界に一矢報いる事が出来るかもしれない。


 そう思い立ったその日。いつものように学校生活を送った後、私は急ぎ街の理髪店に向かった。いらっしゃいませと言う理容師、そこには不可思議娘たちの息のかかった連中の気配は無い。私は高鳴る胸を抑えながら理容師に促されるまま椅子に腰を掛けた。そしてどんな髪型になさいますかと問われ、こう返したのだ。





「ちょんまげ」










 帰宅した私は台所で夕飯を作る義妹に「ただいまでござる」と挨拶をした。何言ってるのよ、と言いながら私の方を向く。そして固まった。まるでピシッとヒビが入ったような、そんな空気に支配される。さあどうする、さあどうするのさ義妹よ!


「お、おおおおかえりなさいお兄ちゃん! 遅かったのね、どこいいいいってたのかな?」


「髪の毛切りに行ってた」


 流そうとしてもそうは行かないよ。私だって生半可な覚悟でこんな事したんじゃないんだから。さあどうする、どうするのさっ!


「う……あ、あ……」


「感想、聞いてるんだけど?」


「うわあぁぁぁぁぁぁんっ!! お兄ちゃんが狂ったぁぁぁぁぁあああっ!!」


 あははははははは!


 勝った、私は勝ったんだ! そんなセリフ言わないよね? こんな展開、あるわけないもんね? 私は、私はこの世界に勝ったのよぉおおおっ!!


 私は勝利の雄叫びを上げ、満足した顔で洗面台に立った。鏡には時代劇から飛び出したようなサムライがいる。いやーあの理容師さん腕いいわ。普通ちょんまげなんて結えないでしょ。それにしてもイケメンて得よね、こんな頭でも格好いいもの。うーん素晴らしい。これあれだね、新撰組の沖田さんみたいだね、実物しらないけど。


 私は鼻歌混じりで義妹の作りかけていた夕飯を仕上げ、一人黙々と食べる。今日は静かでいいわぁ。ま、可哀想だから義妹の好きなデザートでも作って冷蔵庫に入れといてあげましょう。面白いもの見れたお礼よ。





 さて次の日、先ずは幼なじみを衝撃でぎこちなく動くロボットに変えると、私は意気揚々と学校へ向かった。こんなに気持ちよく登校するのなんて初めてかも。さあ皆こちらを見よ。物語の主人公がちょんまげになっている姿を。君たちは私を囲って、一体どんな物語を紡ぐつもりなのさっ!!


 ガヤガヤとざわめきが広がって行く。学校の正門前はモーゼの十戒のワンシーンのよう。海開きだっけ。なんだっけ。まぁいいや。とりあえずそんな光景が広がる中、一人の勇者が私の前に立ちふさがった。……生徒会長だ。


「涼太郎様……」


「やあ、会長。おはようでござる」


 さあどうする生徒会長。どんなリアクションをとるつもりなのさ。


「珍しい……髪型ですわね。どういった心境の変化なのでしょう」


 あら? 普通に返した。


「新撰組にハマってしまってね。沖田さんだよ」


「まぁ……」

 驚いたような顔をするが、直ぐに微笑んだ。

「新撰組ですか、それは良いですわね。けど残念ですわ、沖田様では誰とも結ばれませんもの。近藤勇様なら私が松井つねを名乗れましたのに……」


 あ、ヤバ。変に詳しいわこの人。


 結局この後リアルタイムで当時を知ってる刀娘と吸血幼女も加わって圧倒的劣勢に立たされる私。私の必死の反逆は終わり、不可思議娘たちに新撰組ブームを巻き起こしただけで終わってしまった。


 私、頑張ったよね?


 もう泣いていいよね?


 次の日、学校の制服が浅葱色のダンダラ羽織りに変わった。私は後悔で初めて人前で泣いた。









『Bパート』



「お姉様、私は火炎放射器をいただきます」

「お姉様、私はマシンガンを使いますっ」

「お姉様、お姉様、私お姉様が使ってるバズーカがいい!」


「「「「「あ、ずるーい!!」」」」」



 あっひゃっひゃっひゃっひゃ! やったぜ俺様ハーレム完成! すげえよ俺、やれば出来る子だったんだな。このゲームって生き残った奴らを味方に出来るんだけど、見事に女の子を六人ゲットしたぜ! 時間との勝負ではやいとこ見つけないとゾンビに殺されちゃうから俺も必死だった。多分、仲間に出来る子はこれで全員だと思う。男? それが居なかったんだよな。これ多分Ⅳだわ、男の研究者はみんな自分の身体改造してゾンビみたいになってるから、味方では出てこないんだ。て事は、あの悪名高きバランスブレイカーに俺は挑んでる事になる。いやぁ耐久力∞のコスプレしてりゃ死なないから安心だね。俺はネグリジェ、仲間の娘たちは猫耳ナース、狐耳巫女、犬耳メイド、兎耳……普通にバニーガール、そしてレオタードの悪魔っ娘。勿論美味しくいただいたし、いただかれちゃいました。もうね、俺女でいい。生えなくていい。


 このまま居住施設であっはんうっふんしてても良かったんだけど、やっぱりそこはホラ、お約束通りエンディングは迎えたいワケで。俺もⅣのエンディングは見たかったしこの娘たちも安心させてやりたかったしさ、こうして完全武装であの最悪のボス、グレイマンに立ち向かおうとしているのだ。


「いい? これから私たちが挑むのは最悪の敵よ。死なないとは思うけど、気を弛めないで。あなた達の肌に傷をつけていいのは、私だけなんだからね」


「お姉様ぁ……」×6


 うえっへっへっへ! いやあ最高。めっちゃ最高。神様グッジョブだよ、これならギャルゲーよりずっと楽しい。食料だって無限だからグレイマン倒したら俺たちだけの楽園を築こう。


 俺たちは押し寄せるゾンビたちを蹴散らしグレイマンのいる研究所の最深部へとたどり着いた。そこは遺伝子改良の技術の粋を集めた部屋。グレイマンの生まれた場所である。ただ殺す事に特化したグレイマンが、ゾンビの精鋭たちを従えて俺たちを待っているのだ。さあ、決戦の時。俺たちは武器を構えて、その部屋の扉を開いた。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 天界にてダメダメな神様は説教タイムの真っ只中。今日もまた上司に怒られていた。


「だから! 死者の希望を吟味せずそのまま適用するバカがあるかっ! もしゾンビをうまく倒せたとしてもまともに暮らせない環境しかなかったら飢えて死んでしまうだろっ! とにかく急いで生存を確認してまともに暮らせる環境を整えろ! もしくは、渡航可能な世界でまともな環境のある世界に移してやれっ! 何よりも優先だ、はやくしろぉっ!!」


「は、はひいっ!」


 ヨタヨタと腰を抜かしながらダメダメな神様は走る。そして自分のデスクへ行きデータを確認。ゾンビハンター狂花の世界に生存を確認すると、すぐさま転送システムを起動してその魂に座標を合わせ、隣の世界に移した。彼らのいる空間丸ごと、強引に……








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