起
今日も今日とて天界は大忙し。死んだ人たちは列を成して転生受付窓口へとやってくる。下っ端神様たちは死者の無理難題を聞き取り書面に落とし、それを転生作業係の元へと送る。その日書類を受け取ったのはミスが多いダメダメな神様で、だから当然の如くこんなミスが起きてしまった。
それは転成者の行き先を決めるデータの入力操作ミス。デスク上に二人分の書類を広げて同時処理しようとしてミスるという、馬鹿馬鹿しいくらいに程度の低いミスだった。そして可哀想な事に、この二名の望んだ転生先は余りに対照的な世界だったのだ。
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『Aパート(女)』
死んだら天国に行くなんて、本気で信じる奴を私は軽蔑していた。居もしない神様なんて信じて、胡散臭い連中に金を貢ぐ。そんな人間にはならないぞ、と心に決めて生きてきた。けどいざ自分が死んで、今まで否定してきた存在を目の前にすると……うん。信じるしかないでしょ、という気になる。神様って居るんだね、本当に。
神様がいて、天国がある。それは納得した。けど生まれ変わりなんて出来るとは思わなかったからさすがにビックリしたよ。それも好きな世界に行けるとか、ワケわかんない。そんな事やって何になるんだろう。どれだけ欲深い人間かチェックしたいのかな。よくわかんないけど、だったら正直に言ってあげよう。どうせ叶わない願いだろうから。
「私は『ゾンビハンター狂花』の世界に行きたい! それも最初からバズーカとかマシンガンとかアイテムコンプリートしてて、身体能力も滅茶苦茶強化してて! あ、Ⅳの世界ね、それ以外は自力でクリア出来たけどⅣは無理だったから」
アクションホラーの『ゾンビハンター狂花』は私が得意とするゲームだ。けどⅣだけはゲームバランスがおかしくてクリア出来なかった。Ⅴ以降は逆にぬる過ぎて面白くなかった。Ⅳ、Ⅳだけはどうしても死ぬ前にクリアしたかったのに……。私の心残りと言えばそれだけだ。学校は面白くなかったし家でもお母さんがコロコロ代わってその度に嫌な思いするし、未練なんて無い。友達も本当に仲の良かった子は別の学校に行っちゃったし。Ⅳのエンディングを見たかった、それだけなんだよね。心残りは。
ああ、人造ゾンビのボス、グレイマン。奴がバズーカで粉々になる姿を見たい。脳みそぶちまけて絶命する姿を見たい。きっとそれはとても気持ちいい事なんだ。そんな思いで、願いを口にした。そして……なんだかよくわかんないけどそのまま転生手続きが終わっちゃった。
ねえ、本当に?
本当にゾンビハント出来るの?
私は興奮状態が収まらないまま、神様に連れられて異世界へのゲートをくぐって行った。
『Bパート(男)』
まさかデパートの屋上で雷に打たれて死ぬとは思わんかった。それもネタとして、今じゃ珍しい百円入れてグオングオン動くパンダの乗り物に跨がって写真を撮ろうとした所で。信じらんねえよな、セルフタイマーでカシャッていったと同時だぞ? 遺影があれだったら間抜けにも程があるって。まー雷の間近にあったからカメラもぶっ壊れてんだろうけど。
で、死んだら神様が出てきて転生させてやるとか。いいよ、ほっとけよ、こっちは落ち込んでんだからさ。そんな俺の気も知らないで希望用紙を渡してくる神様。だったら好き勝手書かせてもらうぜ、俺の願いはこうだ。
「美少女ハーレム万歳なギャルゲー世界に行ってエロエロ三昧な人生を送りたい。勿論裕福な家に生まれて義理の妹と二人暮らし、小さな頃に結婚の約束した幼なじみがいて、超金持ちな生徒会長が俺に惚れてたり格闘技にハマったぼっちな女の子がいたり、挙げ句の果てには異世界からやってきた超絶美少女が嫁になる、そんな世界に転生希望」
どうだ、叶えられねえだろ。んな世界ねえから。これ俺がハマってたギャルゲーの話だから。それも「今更要素」しか無いテンプレストーリー展開なのに、問題行動で話題を提供したアイドル声優が偽名で参加してて妙なプレミアついちゃってる奴だから……って関係ねえな、それは。とにかく詰まらんけど俺には最高なゲームだった。そんな世界に行けたら、まあ雷で死んだのも笑って済ませられるよ。一生エロエロで次死ぬのは腹の上ってんならな。
えっ、いいの?
受理されたの?
やっべマジか興奮してきた! あ、そういやあのゲームの主人公って美形だったよな、やっほぅ俺ブタメンからイケメンに昇格だぜ! 見てろ俺をバカにした糞ども、これから俺は勝ち組になってやる! そして全てのヒロインを孕ましてやるんだ!
……え、早くしろ?
すいません、興奮しちゃって。
フヒッ(豚声)