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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-01 "RETRIBUTION OF SADNESS"
32/93

CHAPTER-32

 

 僅かな危機感も抱かず、余裕を持って回避出来たか。そう問われれば間違い無く、答えは『いいえ』だった。

 しかし、それでも裕介はコガネムシ型IMWの爆発から逃れ、無事である。あえて減点要素を挙げるならば、彼が好んで着ている赤いジャケットの端に、微かに汚れが付いてしまった事だろう。


「ったく、お気に入りだってのに」


 ジャケットの汚れを払う裕介。彼の側で、コガネムシ型IMWの爆発の威力を示すように、煙が上がっていた。

 先程、コガネムシ型IMWの接近に気付いた裕介は、直ぐにデバイスを起動した。その力で飛び退き、爆発の範囲から逃れた訳である。超感覚で時間の流れが遅くなっている間、裕介はIMWの数や位置を元に爆発の範囲を想定し、安全地点を割り出したのだ。

 超感覚と、デバイスの力、そして豊富な戦闘経験。裕介がこれらを有していたからこそ、危機を脱せたと言える。


『流石ね裕介、でも気は抜かないで』


「ああ、分かってるさ」


 玲奈の言葉に、裕介は険阻な面持ちを浮かべる。

 敵はまだ、目の前に居るのだ。


「どうやら、本気で相手する必要がありそうだからな」


 戦闘スーツの少女が迫って来たのは、その直後だった。

 ワシ型IMWの驚異的なスピードと共に突っ込んで来る――裕介は敢えて動かずに、少女が自身のリーチに入り込むまで待った。

 そして、少女が繰り出したパンチを姿勢を低めて避け、裕介は彼女の背後に回り込む。少女がそれに気付き振り返るが、間も無く裕介は少女の背中に回し蹴りを繰り出した。


「らあッ!」


 力の限り繰り出された蹴りを、少女は右腕で防御する。


(……防がれた?)


 裕介自身の力に、デバイスによる強化も施された蹴り。常人ならば防ぐ事はおろか、反応する事すらも難しい筈だった。

 しかし衝撃までは受け流せなかったらしく、少女の細い体はワシ型IMWから離れ、宙を舞う。

 空中で後方に一回転し、少女は着地した。主を失ったワシ型IMWは、ただ滞空している。


「……」


 少女は黙ったまま、裕介の前に立っていた。互いの距離は数メートル、詰めようとすれば、直ぐにでも詰められる距離だ。

 裕介はTH2033を抜き、安全装置を解除した。


「誰かは分からねえけどよ、襲って来るなら本気で行くぞ」


 自身に敵意を向ける理由を尋ねる気など、裕介には既に無かった。

 これまでの様子から、少女が話す気など僅かも無いのは明白である事。そして、IMWの使用。裕介の選択肢は決していた。一般市民に危害が及ぶ前に、彼女を拘束する事だ。


『来るわ!』


 玲奈の言う通り、少女が地面を蹴って一直線に裕介に迫って来る。

 裕介は銃を構え、彼女に向けて引き金を引いた。致命傷を与える気は無かったので、急所から狙いを外している。

 少女が跳ぶ。地面に手を付かずに側転をするかのような動作を取り――弾丸のコースから身を外す。


(何っ!?)


 少女の人間離れした動きに、裕介は驚愕する。並みの体操選手を軽く超えるであろうその動きは、細身な少女が取れるようなアクションでは無い。

 受け入れ難い程の身体能力、恐らく考えられるのは、


『あのスーツに注意して、恐らく人工筋肉が搭載されているんだわ!』


 玲奈も同じ考えを持っていたらしい。藍色の戦闘スーツ、あれこそが少女の強さの源だ。

 彼女の力はあのスーツによって何倍、何十倍、もしかすると何百倍にも高められており、戦闘能力では文字通り、『ケタ違い』だろう。


(……上等だ!)


 裕介は少しも引く様子を見せない。そう、型破りな強さを有しているのは、彼も同じだ。

 弾丸を避けた少女は、真正面から裕介に挑みかかって来た。戦闘スーツの作用によってかなりの威力を伴ったパンチや蹴りが、裕介に向けて繰り出される。デバイスが無ければ、応戦するのは難しかったかも知れない。


『不意の一撃に注意して!』


 デバイスの力、そして裕介には体術の心得がある故、まともに攻撃を受ける危険は無きに等しい。しかし、気は抜けなかった。


(戦闘スーツといい、戦い方といい……単なる女の子じゃねえな、こいつ)


 戦闘スーツによって大幅に強化されているとは言えど、少女としては高過ぎる戦闘能力を備えていた。動きに無駄は見当たらず、攻撃は休む隙無く繰り出され、そして鋭い。かなりの戦闘訓練を積んでいる事が伺えた。

 フェイスマスクの裏で、彼女がどんな表情を浮かべているのかが気になる。


「お前、一体オレに何の用があるってんだ?」


 少女のパンチを手の平で受け止めつつ、返事は恐らく来ないと承知した上で裕介は問うた。デバイスを起動していなければ、恐らく止める事など出来なかっただろう。

 返事は無く、少女は拳に力を込めるのみ。

 やはり、話が通じる相手ではないか――裕介がそう思った時、


「貴方が許せないの。どうしても」


 フェイスマスク越しに放たれた少女の言葉を、裕介は確かに聞いた。

 その声には、言いようの無い冷たさが込められていた。恨みや憎しみをそのまま吐き出したかのような、背筋が凍るような感覚を与える声だ。

 誰とも分からない少女から向けられた言葉に、裕介は戸惑うような気持ちになる。


「何……?」


 もう、少女は応じなかった。代わりに、玲奈の声が発せられた。


『裕介、後ろ!』


 裕介の超感覚が発動した。

 後方から、ワシ型IMWが刃を出し、裕介へと迫っていたのだ。

 デバイスの力で跳躍し、裕介はワシ型IMWの突進を回避する。凶悪な刃を剥き出しにした戦闘兵器が、彼の真下を通過した。


『IMWの動きに気を付けて、不意を突いて襲って来るわ!』


 ワシ型IMWは、少女を乗せていない状態でも活動可能だ。つまり、今の裕介は2対1の状態で戦っているという事になるだろう。


(こいつは、流石に分が悪いか)


 デバイスを起動した状態の裕介にも対抗する程の、少女の強さ。さらに、恐らく刃以外にも凶悪な兵器を搭載しているであろう、ワシ型IMW。

 如何にして彼女を退けるか――考えを巡らせていた時だった。

 少女が再びワシ型IMWの背中に飛び乗り、裕介に接近しながらIMW運搬カプセルを放った。


(またかよ……!)


 少女が放ったのがコガネムシ型IMWだという事を確認した瞬間、裕介は後方へと飛び退く。コガネムシ型IMWが爆発を起こすと、裕介は超感覚とデバイスの力で爆発の範囲から逃れ、そしてまた新たなコガネムシ型IMWが向かってくる。

 それを数度繰り返した時、裕介は自分が市街地に居る事に気付いた。後退を繰り返す内に、広場から出てしまったらしい。


『いけない、市街地であんなIMWを使われたら……!』


 幸い、市街地に人の姿は無い(恐らく、玲奈が出した避難命令の効果だろう)。

 だが周囲にはビルが立っており、その中には人の姿もある。特別な建材で作られている故、倒壊の危険はまず無い。しかし、一般市民に危害が及ぶ事態は絶対に避ける必要がある。

 例え『もしかしたら』程度でも、あってはならないのだ。

 さらに、広場と比べると狭いこの場所では、コガネムシ型IMWの爆発を避ける際の逃げ道が限定されてしまう。


「っ、煙が邪魔で……!」


 コガネムシ型IMWは、もう裕介の元に飛翔しては来なかった。

 しかし、追尾式小型爆弾とも言えるその兵器が発生させた煙は広範囲に充満し、裕介の視界を遮っている。故に裕介には、少女の位置を掴む事が出来ない。彼女の狙いは、これだったのかも知れない。

 身構えていた時、


「!」


 煙の一部を突き破るように、IMW運搬カプセルが裕介に向けて飛んで来た。考えるまでもなく、それは少女が放った物。

 どうやら彼女は、容赦の欠片も無く追撃を繰り出すつもりらしい。






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