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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-01 "RETRIBUTION OF SADNESS"
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CHAPTER-31

 

 裕介は玲奈と一緒に、アクアティックシティの広場を訪れていた。

 ビル街から外れたその場所には沢山の木々が植えられ、色とりどりの花が咲く花壇もある。整備の行き届いた一面緑色の芝生に、中央の大きな噴水が涼しげな雰囲気を添えている。

 周囲には家族連れが多く見受けられ、ボール遊びやかけっこをする子供達の歓声が響き渡っていた。


「それじゃ、私二つ買ってくるよ」


「あ、ならオレも」


 玲奈に続こうとして、裕介は制される。


「大丈夫、裕介は場所取っといて。今日は私の奢りね」


 断る理由は見当たらなかった。


「オッケー、遠慮なくご馳走になるよ」


 裕介が頷くと、玲奈は快活とした笑みを残してホットドッグの出店に歩み寄っていく。

 昼食の後、裕介と玲奈はRRCAアクアティックシティ支部に向かう予定だった。今度こそネイトを交え、3人で事件に関して話し合うつもりなのだ。

 手近なベンチを見つけ、裕介は腰を降ろした。


(こういう緑の多い場所も、必要だよな)


 アクアティックシティはビルばかり並んでいて、自然は乏しい――そういった認識を持つ人も多いと聞いた事があるが、それは間違いだ。

 

「んっ……」


 降り注ぐ日差しと、仄かな芝生の香りに包まれつつ裕介は伸びをする。屋台の方へ視線を向けると、玲奈が屋台の列に並んでいるのが見える。

 もう少し時間が掛かりそうなので、待っていよう。

 ――裕介がそう思った、僅か数秒後だった。


「……!」


 裕介は、驚愕に表情を染め上げた。

 時間の流れる速度が、急激に減速していくのだ。周囲の人々の動き、風に揺らぐ木々、噴水の水まで、視界に入るあらゆる物の動作が遅くなり、見渡す事が出来る。

 ――超感覚の発動。これが起こるという事はどういう状況なのか、裕介は誰よりも知っている。

 裕介の超感覚が発動する時、それは彼の身に『危険が迫っている』時だ。


(後ろか……!)


 後方から何かが迫っている、裕介がそれを認識した瞬間だった。彼が腰掛けていたベンチが、木っ端微塵に砕け散ったのだ。裕介が身体能力増強デバイスを起動し、後方へ大きく飛び退いて危機を回避したのと同時の事だった。


(派手な事しやがる……)


 着地した裕介の足元から、デバイスが発する水色の閃光が迸る。

 彼に攻撃を仕掛けたが回避された、だがベンチを砕くという破壊力を見せ付けたその者が地上へと降りてくる。

 藍色の部品で構成された戦闘用の特殊強化スーツを身に着け、フェイスマスクで顔を覆い隠した人物。顔は見えないがボディーラインで女性だと分かり、背の高さからして裕介と年もそう変わらないかも知れない。

 彼女は飛行する能力を持つ戦闘機械――ワシ型IMW(IMW-TYPE:EAGLE)の上に立ち、裕介を見つめている。顔が見えなくとも、彼女は自分を見つめている、裕介にはそれが分かったのだ。


「何者だ?」


 身構えつつ、裕介は藍色の戦闘スーツの少女に問い掛ける、返事は無かった。

 少女がワシ型IMWの背中を足の裏で軽く打つ、するとワシ型IMWはその翼を大きく広げた。そして、金属音と共に翼の淵部分から刃が出現する。

 彼女が何をしようとしているのか、考えるまでも無かった。


(話す気はさらさら無いって事か)


 

 ◇ ◇ ◇


 

 突然の轟音に、玲奈は弾かれるように振り返った。

 

「あれは……?」


 裕介が腰掛けていたベンチが残骸と化し、芝生の上に散らばっている。裕介は無事のようだが、問題は彼の前に居るその人物だ。

 飛行する機械――恐らくIMWに乗り、藍色の戦闘スーツを身に着けた少女。

 彼女はIMWを操り、正面から裕介に襲い掛かる。デバイスを起動し、裕介は大きく跳躍して回避する。戦闘スーツの少女はワシ型IMWを使いこなし、追撃を繰り出す。


「おい、何だよあれ……!?」


「ベンチが粉々だぜ?」


 突然の出来事に、周囲は騒然となる。

 玲奈は出店の列から外れ、ショルダーバッグを開ける。彼女が取り出したのは拳銃だ。

 RRCAが正式採用している拳銃――TH2033。だが、玲奈のは少し違う。彼女のTH2033は、アイノックスモデルだ。裕介やネイトが所持している黒塗装のそれとは違い、高強度ステンレス製の、眩い銀色のボディを持つTH2033。

 拳銃の支給を受ける際、RRCAエージェントは黒塗装、或いはアイノックスモデルのTH2033からどちらかを選ぶ事が出来る。大部分は黒塗装を選ぶが、玲奈はアイノックスモデルを選んでいた。


(とにかく、市民の安全を……!)


 TH2033アイノックスに弾丸を装填し、玲奈は真上に銃口を向け、引き金を引いた。

 弾丸は宙で炸裂し、花火を思わせる大きな音と共に赤い閃光を放つ。警報装置のそれを思わせる閃光と共に、地上から約10メートル程の空中に『EVACUATION ORDER』という文字が浮かぶ。


「あれは……避難命令だ!」


 男性がそう叫んだのが分かる。彼の言う通り、玲奈が打ち上げたのは避難を促す信号弾だ。『この場から離れろ』という意味合いを持つ物で、非常時に使用される。

 市民達が1人残らずこの場を避難したのを確認し、玲奈は裕介の様子を確認する。彼は戦闘スーツの少女の攻撃を避け続けている。2人から視線を離さずに、玲奈は携帯を取り出した。


「もしもしネイト君、直ぐに来て!」



 ◇ ◇ ◇



 ワシ型IMWに仕込まれた刃を使い、裕介を切り裂こうとする少女。

 スピードに加えて、優れた旋回性能まで備えているらしく、正面からの攻撃を避けても後方から即座に追撃を繰り出して来る。攻撃の合間を見て、裕介はイヤークリップヘッドセットを片耳に装着した。


(市民は……よし、避難したな)


 周囲を一瞥して、広場から市民達が居なくなったのを確認した。そこに居るのは玲奈のみ、彼女が避難指示を出してくれたのだろう。

 これで周りを気にせず戦える――そう思ったのは、戦闘スーツの少女も同じだったらしい。腕の部分から、彼女は銀色のボール状の物体を取り出した。


(……! マジかよ)


 少女がその物体を裕介に向けて放る――ボール状の物体、IMW運搬カプセルが二つに炸裂し、中から多数のIMWが出現した。

 IMWは即座に起動し、裕介に向けて飛翔して迫って来る。デバイスの力で後方上空へ飛び退く裕介、イヤークリップヘッドセットが着信音を鳴らした。


「応答!」


 即座に電話が繋がり、玲奈が危機感に駆られた様子で言ってくる。


『逃げて裕介、標的に接近して自爆するタイプのIMWよ!』


 少女が繰り出したのは、コガネムシ型IMW(IMW-TYPE:SCARAB BEETLE)だ。玲奈の言う通り、内部に爆弾が内蔵され、標的と一定の距離を詰めると大爆発を起こす。飛行能力を有している点、そして対人用に作られたIMWという点はオオスズメバチ型IMWと共通している。

 しかし、オオスズメバチ型が大量殺人用のIMWなのに対し、コガネムシ型は標的を確実に殺害する事に重点を置いたIMWだ。小型故に僅かな隙間からも侵入可能で、数センチ程度の小さなボディからは想像も付かない規模の爆発を起こせる。言わば、小型で大量に持ち運べるミサイルだ。


(本気でオレを殺す気だな、あいつ……)


 裕介は芝生の上に着地しつつ、ワシ型IMWに乗って滞空している戦闘スーツの少女を見て思う。


『後ろ!』


 玲奈の声とほぼ同時に、再び時の流れが遅くなる。

 振り返った瞬間、裕介は目を見開く。数機のコガネムシ型IMWが彼の背後に接近し、銀色のボディからオレンジ色の光を放っていた。自爆する体制に入っているのだ。

 

「ちっ……!」


 直後――コガネムシ型IMW達が大爆発を起こした。裕介は、完全に爆心地に居た。






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