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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-01 "RETRIBUTION OF SADNESS"
22/93

CHAPTER-22

「ランドン・グティレスだな?」


 確認するというより、今から拘束するという事を宣言するという感じで、裕介はランドンに言った。

 ランドンは答えない。答えずに、眉の一つも動かす様子も無く裕介を、そしてネイトを睨み付けてくる。微かに、その口元に笑みが浮かぶ。


「何が可笑しい?」


 ネイトが問うと、ランドンは口を開いた。


「俺を追い詰めたつもりか?」


 ランドンは、ポケットから小さなリモコンのような機器を取り出す。裕介達が何かを言う間もなく、ランドンはそのリモコンを口に当て、叫んだ。


「起動!」


 ランドンの後方に置かれていた巨大な金属ケースが爆発した。弾け飛んだ金属片や砂埃が、裕介達へと襲い掛かってくる。


「!」


 姿勢を下げて金属片を避けつつ、裕介は砂埃越しに前方を見やる。ランドンの横に、巨大な影が浮かんでいた。


「IMWか?」


『違う、あれは……?』


 砂埃が晴れていく、同時にその姿が露わになっていく。

 4メートル程はあろう鈍い銀色のボディ、闇に浮かぶような緑色のセンサー、そしてその両腕に装着された、物騒極まりない2連装マシンガン。

 カプセルのような胴体から手足が伸びたような形の、戦闘兵器だ。


『2足歩行式戦闘用パワードスーツ……あんな物まで……!?』


 人工筋肉を内蔵し、装着者の身体能力を大幅に強化する、或いは銃などの武装を装着者によって制御し、直接相手を攻撃する兵器――『パワードスーツ(POWERED EXOSKELETON)』、マシンガンによって武装されている事から、ランドンが繰り出したのは恐らく後者の方だろう。

 驚愕していたのは裕介も同じだった。IMWが繰り出された際も十分に想定外だった、しかし今度はそれをも遥かに超える攻撃力を誇る兵器なのだ。

 ランドンが高笑いする。


「分かったかガキ共、ここが手前らの墓場だ!」


 直後、窓ガラスが割れる音が鳴り渡る。

 割れた窓から、オオスズメバチ型IMW達が室内へと飛翔してきた。恐らく、先程裕介とネイトが振り切った個体達だろう。


『IMW出現、注意して!』


「っ!」


 飛んでくるオオスズメバチ型IMWのグループを、裕介は前転して躱した。すぐに姿勢を直す。オオスズメバチ型IMWは滞空したまま、追撃してくる様子は無い。

 ランドンの方へ視線を向けると彼は無く、そこにはパワードスーツのみが立っていた。


『バラバラの肉片になって後悔するんだな、俺様に牙を剥いた事を!』


 スピーカーを通じて発せられるランドンの声が、彼が既にパワードスーツのコクピットに入り込んだ事を示していた。

 ランドンが操縦するパワードスーツが、巨大な二つの拳を打ち付ける。


「何がどうなってんだよ……!」


 人間を破壊するのに十分な武装を備えた兵器を前に、裕介は呟いた。

 ネイトが彼の側に立つ。


「IMWは引き受ける」


 その言葉が何を意味をするのか、裕介には考える暇も無かった。


「あのデカブツをオレだけでやれってのかよ?」


「無理か?」


 ネイトの目は、裕介を見ていなかった。彼はデバイスを起動させようと、衣服の袖を捲っている。

 彼への皮肉も含めて、裕介は自信満々に即答した。


「……いや、余裕さ」


 裕介とネイトは散開した。裕介は再びパワードスーツ、もといランドンに向く。


『死ぬ覚悟は出来たか?』


 耳障りな動作音と共に、パワードスーツの両腕に装着された2連装マシンガンの銃口が、裕介に向けられる。


「……ふー」


 呆れるように、裕介は溜息を吐いた。

 そして、結果は分かっていてもランドンに最後のチャンスを与える。


「降参するなら今の内だぜ? 許してとか言ったって許さねえからな」


 裕介はその言葉の1割に降参する猶予を与えるという意味を込め、そして残りの9割には挑発する意味を込めていた。

 当然、というよりも予想通りランドンは逆上する。


『砕け散れ!』


 パワードスーツの2連装マシンガンが火を吹いた。

 その瞬間――裕介の超感覚が発動する。時間の流れが一気に遅くなり、撃ち出された弾丸が飛んでくる様子が、残らず目視出来る。

 凄まじい連射速度で、放たれる弾丸が倉庫の床を、壁を穿つのが分かる。常人ならば既に肉片に変じているであろう状況だった。

 

(全部、見える)


 しかし、弾丸の雨の中に居てもなお、裕介は焦りも恐怖も抱かない。

 自身の顔の数センチ横を、灰色の弾丸が掠めていくのが見えた。

 


 ◇ ◇ ◇



 パワードスーツの内部、装弾数の弾丸を撃ち尽くし、ランドンはモニター越しに倉庫内の様子を確認していた。

 倉庫内は正しく焦土、至る所に弾痕が刻み付けられ、無残に破壊され――先程まで前方に立っていた少年は影も形も無い。

 

(……よし)


 少年の姿が無い事を確認し、ランドンはほくそ笑んだ。

 同時に、弾を無駄に使ったと僅かながらも後悔する。激情に任せて弾丸を撃ち尽くしてしまったが、撃つのは、ほんの数発程度で良かったのだ。

 余計に撃った所為で、倉庫内には砂埃が巻き上がっており、視界が非常に悪くなっていた。

 

「吹き飛んだか」


 ランドンが言った瞬間、モニターが警告音を発した。

 

「!?」


 モニターを見る、ランドンは驚愕した。



 ◇ ◇ ◇



「マシンガンぶっ放しただけで、もう終わりかよ?」


 近くで見ると、パワードスーツは裕介が思っていた以上に巨大だった。そう、彼はランドンの掃射を潜り抜け、パワードスーツから数メートル先の場所にまで接近していたのだ。


『何っ……!』


 恐らく、ランドンは先程の裕介の戦いを見ていたのだろう。銃弾を避けられ、自身の手下達が成す術も無く裕介に薙ぎ倒されていく様子を。故に、彼は裕介に銃による攻撃が通用しない事は知っていた。だとすれば、マシンガンの掃射ならば仕留められるとでも思ったのだろうか。

 もしそう思っていたのならば、『甘い』としか言いようが無かった。


『こ、の……野郎!』


 パワードスーツが拳を振り上げる。

 真上から繰り出されたパンチを、裕介は少し後方へ下がる、ただそれだけの動作で避けた。続けて繰り出された薙ぎ払いも、姿勢を低めて躱した。

 続いて繰り出されたパンチ――裕介は今度は避けずに受け止めた、左手のみで。


『っ!?』


 自身の拳の数倍の大きさもあるパワードスーツの拳を片手で受け止めつつ、裕介は言う。


「そんなオモチャを繰り出せば勝てるとでも思ったのかよ」


 2連装マシンガンを搭載し、人間を簡単に殺せる力を持つパワードスーツを『オモチャ』と言い切り、裕介は言う。

 彼はデバイスを起動させており、その足元には水色の閃光が発せられている。

 パワードスーツの拳を横へ払うように弾く、そして裕介は身体能力増強デバイスの力を発揮し、跳ぶ。刹那、デバイスによって強さを何倍にも高められ、金属をも貫く武器と化した裕介の拳の一撃が、パワードスーツの右腕を胴体から切り離した。

 

『ぐっ、あっ……!』


 ランドンが意味も無く発する、右腕を失ったパワードスーツが背中から地面に崩れる。

 その胴体部分を片足で踏み付けて、裕介は言い放った。ランドンを、戦闘用パワードスーツを素手で一蹴してみせた彼が言うからこそ説得力がある、その言葉を。


「RRCA、なめんな」






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