CHAPTER-23
片腕を失い、仰向けの状態で倒れ伏すパワードスーツを見下ろしつつ、裕介は「ふう」と息を吐く。
戦闘用兵器を一撃で退け、それも真正面から戦いを挑んで勝利した彼は、さも当然と言わんばかりの面持ちを浮かべていた。
「終わったか」
声に振り返ると、いつのまにかネイトが側に居た。
既にオオスズメバチ型IMWの姿は倉庫内に無く、自身がパワードスーツと交戦している間、彼が撃退したという事が容易に想像できる。
「ああ、そっちも片付いたみてえだな」
ネイトは頷き、動く様子の無いパワードスーツの方へ視線を動かした。
『お疲れ様裕介、ネイト君。後はランドンを拘束して』
裕介と、恐らくネイトも考えていたであろう事を代弁するように、玲奈が言った。
「オッケー、最後の仕上げだな」
玲奈に返事をすると、裕介はパワードスーツに向かって歩を進め始める。
全壊してしまったのか、或いは操縦者のランドンが気を失ったのか。パワードスーツは全く動く様子は無く、先程のマシンガンを乱射していた様子が嘘に思える程、沈黙していた。
さて、まずはこのデカブツからランドンを引きずり出すか――と、裕介はその薄汚れたボディに手を伸ばす。
『うっ、があああああああああッ!』
突如、パワードスーツのスピーカーから叫び声が上がった。声の主はランドンである、明らかに様子が変だ。
「!?」
ボディに触れようとしていた裕介の腕が、止まる。
『な、何だ、どうなってやが……ぐあああああああッ!』
尋常じゃない叫び声が、スピーカーを通じて裕介とネイトへ降りかかる。
そして突如、沈黙していたパワードスーツが動き始めた。バラバラとボディの破片を落としつつ、関節部分から煙を上げ、見るからにぎこちない動作で。
「様子が変だぞ……!?」
パワードスーツではなく、裕介が言ったのはランドンの事だ。
『せ、制御が効かな……うがっ、ぐあああああああ!』
断末魔を思わせるその声を最後に、もうランドンの声が発せられる事は無かった。ボディから幾つかの小さな爆発が起こり、パワードスーツがグラグラとその巨体を震わせる。
裕介はイヤークリップヘッドセットに指を当て、耳の中に押し込んだ。
「玲奈、一体どうなってる?」
僅かな間の後、玲奈は、
『っ! これは……!?』
何かに気付いたような玲奈の声、しかし裕介には彼女に問うている猶予は無かった。
パワードスーツが再び、2連装式マシンガンの銃口を裕介とネイトに向けてきているからだ。片腕を失っても、もう片方の腕が残っている。
「任せろ」
ネイトは既にデバイスを起動していた。彼がその片腕を振るった瞬間、前方の地面が陥没し始める。
直後、パワードスーツの2連装マシンガンが火を吹き、同時に裕介の体感時間が落ちていく。放たれた弾丸が全て、裕介とネイトの前方で直角に地面に向けて落ちていくのが見えた。
デバイスの力で、ネイトは重力の壁を作り出したのだ。目には見えないが、今裕介とネイトの前には虚空から流れ出る滝の如く重力の防壁が展開されている。パワードスーツが放つ銃弾は全て叩き落とされ、地面に突き刺さっていく。
「裕介」
右腕を前方にかざして重力の壁を展開し続けながら、ネイトが顎で前方を指してくる。
彼の仕草の意味を理解し、裕介は親指を立てた。
「オッケー、少し待っててくれ」
ネイトが頷くのを見て、裕介は重力の壁から飛び出した。
身体能力増強デバイスを起動し、僅か数秒でパワードスーツとの距離を詰める。銃弾は全てネイトに向けられている為、何の手間も無く接近する事が出来た。
「っらあ!」
喧しい銃声と共に火を吹き続けるパワードスーツに、裕介はその左腕を突き立てた。
鐘を鳴らすような重い金属音が倉庫内に響き渡り、引き換えに銃声が止む。裕介の拳に押し出される形で、パワードスーツが再び地面に崩れ落ちた。
裕介は、パワードスーツのコクピット部分を覆うカバーを掴み、強引に引き剥がした。
ランドン・グティレスの顔が出て来る。
しかし彼はうなだれており、その両目は閉じられている。男の頭からは数本のコードが伸びており、パワードスーツ内部の装置に繋がっていた。
「……おい」
裕介はランドンに発するが、反応は無い。
手を伸ばそうとした時、パワードスーツ内部の装置から大きな火花が飛んだ。
「うおっ、と……」
反射的に、裕介は手を引き戻す。
玲奈の言葉が届いた。
『裕介、ランドンの生体反応が無いわ。残念だけど……』
「マジかよ……」
玲奈の言葉が何を意味するのか、裕介には考える暇も無かった。
パワードスーツから離れると、ネイトが歩み寄ってくる。彼はパワードスーツ内部のランドンを見つめ、続いて裕介と視線を合わせる。
何も言わずに、裕介は首を横に振った。
「これは……?」
何かに気付いたような声を発し、ネイトはランドンに手を伸ばす。彼はランドンの胸ポケットから何かを取り出した。
「データスティックか?」
「ああ」
ネイトから投げ渡されたそれを、裕介は片手で掴み取る。
データスティックとは、コンピューター等に接続してデータの読み書きを行う記憶装置だ。さほど、珍しい物ではないように見える。
気付くと、一部分が焼け焦げていた。
『損傷しているみたいね。だけど重要なデータが入っている可能性もあるから、裕介、持ってきて』
「分かった、後で届ける」
玲奈に応じて、裕介はネイトと視線を合わせた。
「まさか……こんな事になるなんてな」
「……」
ネイトは何も言わずに、パワードスーツの中で絶命したランドンに視線を向けた。
「IMWに、しかもこんなパワードスーツまで。こいつら一体どこから手に入れた?」
裕介が言うと、ネイトは腕を組み、考え込むような面持ちを浮かべる。
「詳しく調査する必要があるな」
無数の弾痕に、破壊された壁やパワードスーツ。至る所に戦闘の余波が刻み込まれた倉庫内に、ネイトの言葉が重々しげに発せられた。




