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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-01 "RETRIBUTION OF SADNESS"
20/93

CHAPTER-20

「まさか、あそこまでデバイスの力を……?」


 呟くように発せられた秀文の言葉に、メイシーは頷いた。


「裕介君ね、身体能力増強デバイスとの適合率が97パーセントなのよ」


 大型モニターには、驚異的な速度と身体能力で倉庫内を制圧していく裕介の姿が映っていた。

 1人の男を倒したと思った次の瞬間、裕介はすぐさま他の者の側まで移動し、同じように叩き伏せる。瞬く間に、犯罪者達は次々と戦闘不能な状態に追い込まれていく。

 さらに裕介は時折、人間離れした動きを見せていた。それは決まって彼に向けて銃が撃たれた時であり、『速い』という言葉で言い表せない動作で、銃弾を避けている。


「97パーセント? まさか……」


「正真正銘に本当よ。裕介君の適合率を計測したの、ルーシーだから。間違いは無いわ」


 自身の言葉に信憑性を与えるように、メイシーは言う。

 彼女が口にした『デバイス(DEVICE)』とは、『神経直結型身体能力増強機器』の事である。人間の身体能力を強化する機器を体の何処かに装着し、神経を通じて脳と接続し、制御する。すると装着者の身体能力はデバイスが持つ作用によって強化され、視力を強化するデバイスなら視力が増し、聴力を強化するデバイスならば聴力が増すのだ。

 ただし、デバイスによる身体能力の上り幅には個人差があり、同じ筋力増強デバイスを装着しても100メートル走で17秒という記録しか残せない10台の若者も居れば、マラソンランナー並みの記録を叩き出す5歳の子供も居る。

 その者がどれ程、そのデバイスによって身体能力を向上させているのか――その値を『適合率』と呼び、大多数は40~50パーセント、高くても80を上回る事は珍しいという。


「抜きん出た適合率の高さこそ、彼がグレードSに認定された理由の一つでもあるのよ」


 自身の長い黒髪に触れつつ、メイシーは告げる。


「しかしメイシー先輩、逢原君の動きは何なんですか? 僕には銃弾を避けているとしか」


 間髪入れずに返された疑問、黒髪の香港人少女は口ごもり、モニターに映る裕介を見つめる。

 すると秀文が、疑問を重ねて来た。


「同時に複数のデバイスは使えない筈、だとすれば、彼は一体どうやって……」


「デバイスなんて使っていないわ。裕介君のあの『能力』は、彼自身が持っている物だから」


 秀文が「えっ……?」と疑問を発したのが分かる。信じられない、という気持ちに満ちた声だった。

 当然だ。何のデバイスにも頼らずに、常人が銃弾を見切り、さらにそれを避ける事など理論上不可能。文字通り、『あり得ない』事なのだから。


「気になって調べてみた事があるんだけどね、裕介君は経歴データに最高レベルの保護プログラムを適用しているから。グレードAの私の権限では閲覧不可能、詳細は不明って所ね」


「……なるほど」


 秀文は数文字で返事をし、考える様な面持ちを浮かべた。

 メイシーはモニターに視線を戻す。


「終わったみたいね」



 ◇ ◇ ◇



「よし、と」


 先程まで銃声が鳴り響いていた倉庫内は、打って変ったように静けさに包まれていた。

 ものの数分間で、倉庫内の目に付く犯罪者達全員を倒した裕介。玲奈からの通信で周囲に敵は居ない事を確認し、拘束用バンドを用いて男達を1人ずつ後ろ手に縛っていく。

 最後の1人を拘束していると、後ろから声がした。


「突っ走った戦い方だな」


 裕介は振り向かなかった。振り向かずとも、声の主が誰なのか分かるから。


「もう聞き飽きたぜ、それ」


 最後の1人の手首に拘束用バンドを掛け、裕介は立ち上がる。そして声の主――ネイトに向いた。


「てか、んな事言うならお前も少しは手を貸せよ」


「僕が出るまでも無かった」


「何だそりゃ」


 信頼されているのか、されていないのか。裕介には分からなかった。

 ヘッドセットから、玲奈の通信がある。


『その部屋にはもう、敵は潜んでいないわ』


 裕介は耳を澄ませ、玲奈の言葉を聞く。


『残りは……その後ろの扉ね』


 裕介が振り返ると、そこには大きな扉があった。入口のそれよりも数倍の大きさがある事を考えると、フォークリフト等でコンテナを運搬する際に用いられる搬入口、といった所だろうか。

 どうやら、ロックされているようだった。


「玲奈、この先にランドンが?」


『1人の人間の熱源反応を感知、そう考えて間違いないわね』


 ヘッドセット越しに、キーボードを打つ音が聞こえて来る。玲奈はロック解除の作業に入ったのだろう。


『解除に1分くらい掛かりそうだわ。裕介、ネイト君、少し休んでて』


「オッケー」


 裕介は一息つき、扉の脇の壁に背中を寄り掛からせる。

 しかし、決して気を抜いては居なかった。手下達は拘束しても、扉の向こうにはまだボスが居る。何か仕掛けてくる事は容易に想像が付く。

 ネイトは、胸のホルスターから裕介が持つのと同じ銃――TH2033を取ってマガジンを抜き、残弾数を確認していた。

 ヘッドセットを通じ、玲奈がキーボードを打つ音が聞こえて来る。


『……あっ!?』


 驚愕に溢れた玲奈の声と共に、打音が突如止まった。


「どうした?」


 尋常ならざる様子に何かを感じ、裕介は問う。玲奈は切羽詰まった声で応じた。


『無数の飛行物体……!? IMWだわ!』


 直後、何かが砕ける音が裕介の耳に飛び込んでくる。

 振り返った瞬間、倉庫の天井近くにはめ込まれた窓ガラスが粉々に砕け散っており、裕介は音の源がそれだと理解した。

 そして、窓ガラスを砕いた物体――数えるのも馬鹿らしくなる、空を飛び回る無数の銀色の物体が視界に入る。


(マジかよ……!)


 裕介は、窓ガラスを破って倉庫内に現れた物が何なのか、即座に理解した。


『ヴェスパマンダリニア型だわ、2人とも注意して!』


 オオスズメバチ型IMW(IMW-TYPE:VESPA MANDARINIA)――無数の個体でグループを作りつつ飛行し、集団で標的を襲うタイプのIMWだ。

 内部には人間を行動不能にさせる毒、そしてそれを注入する為の針が仕込まれており、刺されれば命の保証は無い。気性が荒く攻撃的な性質を持つ昆虫を模しているだけあり、対人戦闘においてその凶悪さを発揮する兵器である。

 裕介は直ぐに、側のコンテナの陰へと身を隠す。キィィィン……! というオオスズメバチ型IMWが飛翔する独特の動作音が、嫌でも鼓膜を揺らしてくる。


「大量殺人用IMWじゃねえか、何であんな物……単なるワルの集団じゃねえのかよ!?」


 繰り出された想定外の攻撃手段に、裕介は疑問を隠そうともしない。


『その筈だけど……詳細を探っている暇は無いわ、ロック解除まで持ちこたえて!』


 玲奈の言う通り、考え事をしている状況ではなかった。

 人を簡単に殺せる兵器は倉庫内を飛び回り、裕介達を探している筈。感知されずにやり過ごす、という選択肢は無かった。

 故に、戦う以外に道は無い。


(仕方ねえ、あのIMWは見る限り古いモデルだ、それなら……!)


 手立てはあった。

 裕介やネイトにまだ襲い掛かってこないという事は、感知能力がさほど高くないIMWという事。つまり比較的古い型という事だ。

 古い型のオオスズメバチ型IMWは、1体のリーダー機が他の全個体に指令を出し、統制している。そのリーダー機を破壊すれば、その指令を受けて動いていた個体は全て行動不能となるのだ。

 

「よし……」


 勿論、1体のリーダー機を判別することも容易くは無い。

 しかし裕介にはそれを見つけ出し、破壊する自信があった。彼には銃弾をも見切り、時間の流れに抗う『超感覚』。そして、デバイスによって得たスピードとパワーがあるのだから。

 コンテナの陰から飛び出し、裕介は倉庫の天井付近を飛び回っているオオスズメバチ型IMWを見やる。

 と、不意に前方にネイトの背中が現れた。裕介は驚く。


「っと、何だよネイト?」


 裕介に背を向けたまま、彼は言った。


「僕がやる。その方が早い」






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