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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-01 "RETRIBUTION OF SADNESS"
18/93

CHAPTER-18

 裕介は自らの愛車に背中を預け、携帯の画面を見つめていた。そこに映っているのはウィレムから渡された位置情報――ランドンが潜伏している廃倉庫の場所である。

 画面を切り替え、位置情報と共に渡された倉庫の写真を表示する。そして前方に見える倉庫を今一度確認し、裕介は確信した。

 あの倉庫に、間違いない。


「よし、あそこだな」


『あの倉庫は元々、アメリカ合衆国本土との交易に使われていたの。裕介とネイト君がいるJエリアは、アクアティックシティの貿易拠点とも言える場所だから』


 左耳のイヤークリップヘッドセットから、玲奈の声が届く。


『2039年当時と比べて、現在はシティの人口も増えて、交易もより盛んになった。そこで、より設備が充実した保管場所が求められるようになったみたい』


「それであの倉庫は使われなくなった、って事だな」


 海が近い場所故に、風には潮の匂いが含まれていた。裕介はふと、VRMSでの実習を思い出す。まさか、サイバースペースの埠頭に行った直後に、現実で同じような場所へ赴くとは思っていなかった。


「これから向かう。玲奈、状況は?」


 ネイトは玲奈に問いつつ、車から降りた。


『倉庫周辺、及び倉庫内に多数の熱源を感知。ランドンの組織の構成員である可能性が高いわ』


「了解」 


 潮風に赤いジャケットを靡かせつつ、裕介は指の骨を鳴らした。


『裕介、ネイト君、装備の用意は整ってる?』


 裕介はジャケットを捲り、左脇の茶色いホルスターから拳銃を手に取る。マガジンを引き抜いて残弾数を確認すると、指でくるくると回しつつ仕舞った。


「準備万端、デバイスも装着済みだしな」


「同じく」


 ミッションへの意気込みを押し出すように、裕介は応じる。ネイトも同様だった。


『了解。それではこれより、作戦開始』



 ◇ ◇ ◇



「大丈夫だったんですか、あの2人だけで?」


「全然大丈夫よ。彼らはこの支部の星とも言えるエージェントですもの」


 RRCAアクアティックシティ支部、第23オペレーティングルーム。

 天井の高い室内を見渡して、まず初めに視線を向けるであろう場所は、数台のコンピューターや幾つもの大型モニターが設置された一画だろう。しかし見渡せば、ガラステーブルにソファー、冷蔵庫やコーヒーメーカー、さらに螺旋階段で床と繋がったロフトスペース等、生活用品が設置された場所も目に留まる。

 機械だらけのどこか無機質感漂う空間と、それとは不釣り合いなインテリアコーディネートが映える、生活感溢れる空間。

 相反する雰囲気が両断されたように存在するこの部屋で、『メイシー・リー(MACY LI/李美詩)』は、疑問を呈した後輩――秀文に即答した。


「そっか。あなたはまだ、彼らの実力を目にした事が無かったわね」


 メイシーは香港出身で、腰辺りまで伸ばした黒髪と、切れ長の黒い瞳が印象的な少女だ。

 彼女は裕介達よりも1学年上であり、18歳。つまり先輩にあたる。学業の成績が極めて優秀で、試験では常に学年内で1、2を争う成績を保持している他、7ヶ国語を理解するという才能も有していた。

 自身の才能を誇示する訳でもなく、誰にでも優しく接する性格の持ち主であり、清廉潔白を絵に描いたような少女と言える。


「それと彼女……玲奈の実力も」


 メイシーが視線を向けた先には玲奈がおり、彼女はヘッドセットを装着し、メタルラックに取り付けられた幾つもの大型モニターに向かっている。その画面には裕介とネイトが装備している小型カメラの映像や、倉庫周辺の映像が映し出されていた。

 

「逢原君と美澤さんの実力なら、VRMSの実習の際に拝見しました。流石はグレードSだと感じましたよ」


 秀文が眼鏡に触れつつ言う、メイシーは頷いた。


「そうでしょう? それじゃあ……実戦での裕介君達をよく見ておく事ね」


 メイシーは自身の長い黒髪に触れつつ、秀文に促した。自らの後輩達への信頼、そして尊敬の念を込めた言葉と共に。


「禾坂君、きっとびっくりするわよ」



 ◇ ◇ ◇



 コンテナの陰に隠れつつ、裕介とネイトは倉庫へと距離を詰めていく。

 入口まで数メートルの位置まで差し掛かった時、前方に数人の男の姿が見えた。彼らの耳に入らないよう、裕介は小声で、


「玲奈」


『検索中……出た。彼ら全員、RRCAに手配されている犯罪者達よ』


 質問をする頃には、玲奈は既に照合を終えていたようだった。

 コンテナの陰に隠れたまま、裕介は男達の様子を伺う。何かを話したと思うと、彼らは倉庫の中に入って行った。

 ネイトが言う。


「支部長の情報の裏付けは、これで十分だ」


「ああ」


 裕介は頷き、ヘッドセットを耳に押し当てるようにする。


「玲奈、倉庫の周辺に他に人は?」


『居ないわ。でも、倉庫の中には沢山居る。さっき入って行った何人かを含めてね』


 続けてネイトが、


「これから倉庫の制圧に向かう。玲奈、いつも通りバックアップを頼む」


『了解。情報は逐一知らせるわ』


 3人同時通話中なので、ネイトと玲奈の会話も裕介の耳に入る。

 ネイトが視線を向け、促した。


「行こう」


「オッケー」


 頷きつつ返事をし、裕介はコンテナの陰から飛び出す。そしてネイトと共に倉庫の入口へ駆け寄る、入口のドアがロックされていた。


『ちょっと待って、すぐに解除するから』


 玲奈の言葉と共に、彼女がキーボードを打つ音が聞こえてくる。

 数秒後、ドア脇のロック装置のランプが赤から緑に切り替わった、開錠したのだ。


「よし……!」


 ドアが開くと同時に、裕介はネイトと共に素早く倉庫内へと踏み入る。

 刹那、裕介から数センチ先の地面に銃弾が着弾した。着弾音と共に土埃が舞い上がり、倉庫の床に弾痕が幾つも刻まれた。


「!」


 裕介は視線を上げた。コンテナが至る所に積み上げられた倉庫内には独特の臭気が漂っており、天井に取り付けられた換気口が空気を取り込む音が、隅々まで届き渡っている。

 そして、銃を手にした男達の視線が、裕介とネイトに向けられていた。

 しかし、裕介もネイトも僅かたりとも脅える様子を見せない。脅えるどころか、その毅然とした面持ちを全く崩していなかった。


「勝手にロックを解除する奴が居ると思えば、誰だお前ら!?」


 そう叫んだ男の手には、銃口から煙を吐き出す銃が握られていた。先程発砲してきたのはこの男らしい。

 玲奈からの通信が入る。


『照合完了、ここに居る全員が手配者だわ』


 裕介は小声で、「了解」と返した。


「ここは秘密基地ゴッコして遊ぶ場所じゃないぜ、おっさん達」


「ああ?」


 男を睨み返して、裕介は挑戦的な意思を隠そうともせず言う。


「警告だ、ここに居る全員拘束させてもらう。さっさと投降しな」


「……ああそうか、RRCAだな? お前ら」


 途端、倉庫内が笑い声に包まれ始める。「RRCAも人手不足か?」等という嘲るような言葉と共に。


「おい、ドアをロックし直せ!」


 先程裕介とネイトに発砲した男が命じる。後方から電子音が鳴るのが分かる、ドアが再びロックされたのだろう。


「これでお前らに逃げ場はねえ。RRCAには散々苦い汁を飲まされて来たんだ、借りを返させてもらうぜ……!」


「ふー……」


 裕介は溜息を吐いた、男の言い分には全く筋が通っていないからだ。自業自得、逆恨みもいいところである。何にせよ、まともに話が通じる相手だとは初めから思っていなかったが。

 予想通り、正しくそうだった。


「あばよ、クソガキ!」


 男が銃口を向けてくるのが分かる。入る際の威嚇射撃とは違い、今度は命中させるつもりだろう。

 次の瞬間、銃声と共に弾丸が放たれた。






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