下りても下りても
「まあね、正直ここまで悪夢を見るとは思わなかったわ」
「確かに夢の中を自由に歩けるけど、その自由がないのよね。いつも恐怖映像というか体験というか、そういうのは望んでないの。もっと楽しい、なんなら空を飛んだり、魔法が使えたり、お姫様になったり、そういったことを望んでるわけ」
「夢の中に入るとなんか不気味でなんか気味悪くて」
「前のなんか思い出したくないけど、住宅街を歩いてたら耳をつんざくような音がして、うるさいから喫茶店に入ったけど、そこでは人を切ってそれをお客さんに出しててさ、いやーもうね、どうすればいい夢を見れるのかをね、知りたいわ」
「まあ今回も夢の中へ行ってみたいと思うけど、なるべくいい夢を見れますように……このシールを貼って……そうそうシールの名前はね。夢探訪だって」
「じゃあ寝るわ」
「……」
「……っぎ、ちょーっとぉ……」
「あー危なかったー、目が覚めたら、どっかの屋上の端に立っててさぁ、いまそこから離れた場所にいるんだけど、周りはふつうに明るいけど霧がかかっているわ。濃霧っていうのかな、一寸先は闇みたいな」
「めずらしく風は吹いているわ。生暖かいけど」
「見た感じ、たぶんどっかのビルの屋上、柵はなし。空を見てみると太陽が霧に反射しているからそんなに明るくないわ。遠くのほうにはうっすらとだけどビルが建ち並んでいるのはわかるって感じね」
「空気の感じは、霧が肌に触れるとかるく湿る感じね。寒くはなく、ぼんやり暖かいかな」
「うーん、ここにいてもしょうがないから、取りあえず下に降りてみたいと思います」
「階段は……あったアレが階段かな」
「非常階段らしきものを発見したわ。ここを下りていくわね」
「いま階段を下りてるんだけど、鉄階段ね。下りるたびにガンガンと音がするやつ」
「……はあ……さっきからずっと下りているけど一向に下に着かないわね。数十段の階段を下りて踊り場をとおり、反対側に階段を下りていく」
「ずっとその繰り返し」
「周りが霧がかかっているからわからないけど、手すり越しから下をのぞいてみても、霧で何も見えない感じだわ」
「とにかく下に向かってみたいと思います」
「……えー? もうどのくらい下りているのかなぁ、体感だと二時間は下りてると思うけど、全然下に着かないわ……あれ? なにあれ、踊り場のところに看板があるわ」
「いままでなかったのに……えっ!? 看板に書いてある内容が『ひきかえせ、したにはかいぶつがいる』って書いてあるわ」
「下には怪物がいる? どういうことかしら」
「引き返せって言われても、えーでも、正直、足がもうがくがくなんだよね。疲れたし」
「そういえば、これは夢なんだよね。目が覚めるまでここで待ってようかなぁ……いやダメよ、動画見てもらえないじゃない」
「がんばって、このまま下に降りて行きたいと思いまーす」
「……怪物がいる、べつに怖くなんてないわ。どんなやつがいようと愛と勇気で乗り越えてみせ……え? 真上で足音がする。わたしが階段を下りるたびに誰かが下りてきている」
「わたしが階段を下りた分だけ下りてくるって感じ」
「三段下りたら上から誰かが三段下りてくる。わたしが止まると相手も止まる」
ガンガンガン、ガンガンガン、ガンガンガン、ガンガンガン。
「いま踊り場のところにいるけど、真上にある踊り場のところに誰かがいる気配がするわ」
「まさかこれが怪物? うー、でももう疲れた。ちょっと休むわ」
ガン、ガン、ガン。
「えっ? 怪物が下りてきている……やばい!」
「とにかく下りていくわ! さっき恐くないって言ったけど、やっぱ怖いわ」
「……やだ、足音がだんだんと速くなってきている。わたしの下りる段数よりあっちのほうが数段多い」
「……はぁ、はぁ……やばいやばいやばい。待って待って、追いつかれる!」
「やばい、すぐ後ろにいるわ。ダメ、振り向けない」
シュッ、バッーーン!!!!
「えっ! 前方で何かが落ちた。なんか大きなものが落ちが音」
ビジャン、ビジャン、ビジャン。
「……なにかがこっちに上がってくる……霧がかった向こうから……」
「なにあれ、四つん這いで上がっ、てっ」
「きゃーーーーー!!!!」
ジリリリリリリリリリン。
「……やばー。顔が真っ黒で吊り上がった赤い目の女が、ブリッジをしながら階段を上がってきてたー」
「マジで最悪」
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