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Series1 好看 (hǎokàn)

 コロナ禍以降、爆発的に需要が増えた宅配レストランサービス。

東京には無数のお店があり、様々な料理を楽しむことが出来る。

しかし中には、実店舗を持たないレストランも少なくない。

現住所には空きビルだけがあり、実店舗が存在しない店がある。

それらは「ゴーストショップ」と呼ばれ、劣悪な環境下で作られる店もある為、消費者には見極める能力が必要とされる。

 今回紹介する4つのお店は、元調理師専門学校の2階に位置する衛生管理がしっかりとしたゴーストショップだ。

他階はレンタルオフィス等が入っているビルにだが、2階だけは調理場が残っており、それぞれ店舗に分けて4つのパーテーションで仕切られている。

それぞれの店舗ごとに衛生管理が徹底されており、オーナーが衛生管理の資格を取得しているゴーストショップの中でも極めて衛生管理が徹底されている店舗達である。

  稼働は24時間、朝勤スタッフは4時から12時までの勤務、日勤スタッフは12時から20時の勤務で、夜勤は20時から4時までの労働で、店が稼働している。

休憩はそれぞれ1時間、9時間拘束の8時間勤務である。

それぞれに繁忙時間が異なり、夜勤の1時間休憩は大体仮眠に当てられる。


 Series1 好看 (hǎokàn)

私の仕事は清掃と在庫管理から始まる。

この職場に転職して早三年、もう慣れたものだった。

私は以前誰もが知る百貨店に勤めていたのだが、執拗なカスタマーハラスメントに遭い、対人恐怖症となった。

それからすぐ病気で3か月休養を強いられ、3か月の病気療養後に自然解雇という形で失職に追い込まれた。

 しばらくは休職手当が国から支払われるため、今すぐ餓死するわけではないが、東京都内で暮らしているとそれだけでお金がかかるわけで、すぐに人と会わないでいい職場を探したが、やはり少人数の会社でも厳しく、就活が難航していた時、ふと見つけたネットサイトのスタッフ募集をクリックした。

仕事は本場台湾から直輸入したタピオカを取り扱うタピオカ屋好看 (hǎokàn)の求人だった。

接客か…。とページを閉じようとした時、私の目を留めたのは募集概要で、そこには「軽作業」「一人で黙々と作業したい方におすすめ」「夜勤スタッフ募集」の言葉が羅列してあった。

夜勤スタッフは20時から仕事が始まるため、人が少ない時間に家を出られるし、帰ってくるときも始発で帰れるから、人との接触は最小限に抑えられる。

何よりも厨房スタッフ「未経験OK」の言葉に背中を押され気が付くと面接の申し込みを済ませていた。

  当日の面接は17時からで、人通りの少ない道を通って着いた場所は、レンタルオフィスがずらりと入っている一つのビルだった。

こんな場所にタピオカ屋が入っているの?そんな疑問を抱きながら、階段で2階まで上がり、インターフォンを押した。

面接はとても簡易的なもので履歴書を渡し、週3回勤務希望なことを伝えると、ここは以前調理師専門学校のビルだったことと、この階だけは調理スペースとして残っていること、タピオカ屋の他にクレープ屋や韓国料理や、とんかつ屋が入っていて少人数で24時間稼働をしていることを教えてもらった。

また、夜勤スタッフは人員不足で基本2人で回していると言われたが、私にとっては少なければ少ないだけ有り難い。

私がすべての条件に、異論がなかった為か、とにかく人員確保をしたい為かその場で採用が決まり、週3回の夜勤勤務がそこで決まった。

 それから約3年、生活保護を受けながら、週に3回の夜勤アルバイトを続けている。

注文が入るとタブレットに通知が来る為、調理場の清掃や発注表を確認しながら、タブレットも確認していく。

タピオカ屋の繁忙時間は、意外にも深夜1から2時に集中している。

深夜まで働く人々や、働いた自分へのご褒美なのかとにかく注文が立て込む。

商品数が多く、ウーロンから抹茶、ジャスミン茶などお茶の種類だけでも10種類近くあり、さらに細かなカスタマイズも可能で黒糖タピオカ、ノーマルのタピオカ、ナタデココ、氷なし、ホット、など様々な注文に対応していく。

3時近くになると注文数は徐々に減っていき、そこで休憩時間を回す。私とよくシフトが被る韓国留学生のリネさんは基本その時間に仮眠を取り、私はピーク前の23時に休憩を取る。

リネさんは大学と並行で日本語学校にも通っているそうで、まだ日本語が拙く、会話というよりはジェスチャーでコンタクトを取るため、私にとってはとてもありがたい存在だ。

また人当たりがとてもよく、配達員とのやり取りを積極的にかって出てくれるため、対人恐怖症の私にはぴったりな職場だ。


 3時半を回ると注文はほとんど来ない為、20時から4時までの売上入力と、販売数を日報としてPCに打ち込み、不足している在庫のチェックと調理場の清掃、消毒を行う。そして気が付くと4時になっており、朝勤のスタッフと入れ違うようタイムカードを押して、更衣室に向かい着替えて退勤する。

着替え終わり、店を出る頃にはもうすでに始発が走っており、空いた女性専用車両に乗り、帰宅する。

これが私の仕事ルーティンだ。

 私は人と接したくはないが、社会からドロップアウトしたくもないという相反する気持ちを抱えて生きている。

社会の一員でいるにはどうしたって人と関わらなければならない。

今私と関わる人間は精神科の先生と、リネさん、ケースワーカーの立村さんだけだ。

そして足りない生活費は健常に働いている方々の血税から頂いてなんとか生計を立てている。

そんな自分が情けなくて悔しくなる。でも自分で自分の人生を畳む度胸すら持ち合わせていない。社会復帰を果たせない自分がみじめで情けなく、現実から目を背けるように太陽に背中を向けて歩き続けた。

 ハプニングは唐突にやってくる。

出勤のために準備を進めていた19時近く、オーナーから電話がかかってきた。

嫌な予感がして電話を取ると、

「リネさんが学校でインフルエンザに感染したようで、今日の勤務に来られない。」 

私の嫌な予感は当たる。

「それで、代わりの人を探したんだけど…」

ほら、やっぱり当たった。

「了解です」

19時50分に職場に到着し、着替えと消毒を済ませて調理場に向かうと、昼勤のスタッフさんと入れ違いになり、

「私一時間だけなら残れるけど、残ろうか?」

と話しかけられた。初めて見る昼勤スタッフさんに緊張し、なんていえばいいのか思考だけがぐるぐると巡り言葉が覚束ない。

「いや大丈夫です。それじゃ別にいてもいなくても変わりません。」

やっちまった。 私の脳内には、有り難いお申し出なのですが、夜勤のピークは深夜帯になりますので、お気遣いなくお帰り頂いて問題ありません。という言葉が浮かんでいたのに、口から出た言葉は全ての尊敬語と謙譲語を取り除いた暴言にも取れる伝えたいことの原液そのものだった。

さすがに少しの沈黙があったが、昼勤スタッフのお姉様はさすがの人生の先輩で、

「そうだよね。中途半端に一時間だけいられても困るよね。昼勤とはピーク時間も違うし。ごめん、忘れて。一人で大変だろうけど頑張ってね。」

と気遣いの塊のようなお言葉を頂戴してしまった。

「すみません」

吐息と共に出た謝罪の言葉は相手に届いていたのか私には確認する術がないが、さっとすれ違いタイムカードを押した。

 まずは、調理場の清掃と消毒。食洗器が止まっていたら中の器具類を取り出し乾燥させる。これでいつ注文が入っても対応が可能だ。続いて在庫をチェックする。昼でどれだけ何が無くなって、何を発注しなければならないかをタブレットと冷蔵庫を見て確認していく。

 今日は金曜日、ピークタイムは少し早めにやってきた。

22時を回った頃から、定期的に鳴り響くタブレットの注文を知らせる音。

私は注文を受けながら、配送手配をして次の注文の準備を同時にこなしていた。

それでも手が足りずやはり3件、4件と溜まっていく。

ひたすらに手を動かし、清掃、準備、作成、配送手配を準備していく。

「ねぇ、良かったら洗い物だけでも手伝わせて」

気がつくと向かいの調理場381クレープ担当のスタッフさんが私の近くにいた。

「えっと、あの?え?」

私は、注文のことで頭がいっぱいで思考が止まってしまっていた。

「うちのピークタイムは深夜だから。今は暇だし、手伝うね。」

スタッフさんはそういうと山のように溜まった調理器具を軽く水で流し食洗機に運び始めた。

その他にも、韓国料理店のスタッフの方が、

「商品、ここ、おいて。渡しとく」

と言葉数は少ないが友好的な表情で配送を手伝ってくれました。

「す、すみません」

頭を下げながら次から次へとやってくる注文をさばいていく。

気が付くと使いやすい位置に調理器具が戻されてあり、尚且つ商品を入れる手持ち付きの袋がさりげなく配置されていて、準備して袋にストローと入れると自動的に持って行ってくれていた。

大量の注文に忙殺されながら、何とかピークを乗り切り気が付くと3時半を回っていた。

 「ふぅ…。」

一息ついて気が付くと、調理場は清潔に保たれており、洗い物も一切ない。

「今日は手伝っていただき本当にありがとうございました。」

おどおどしながらも、調理場にいる方々に向かって頭を下げた。

「いいのよ。困ったときはお互い様だから。」

「こういう時は持ちつ持たれつだから。」

向かい側の381クレープのスタッフさんやはす向かい韓国料理屋の方々が労いの言葉をかけてくださりました。

私は改めて皆さんに頭を下げ、在庫確認業務をし、売上日報を入力した後、朝番スタッフに引継ぎを終えて更衣室へ向かった。

着替えながら、今日の営業を振り返る。

やった。今日はしっかりやり遂げた。オーダーミスも無し、店舗満足度も維持し、時間に遅れることもなく配送手続きもスムーズだった。

色んな人の力を借りてではあるが、今日の営業は一人でもしっかりやり遂げることが出来た。

 今日は気分がすごくいい。見ず知らずの色んな人の役に立つことが出来た。

私は社会の誰かの役に立つ歯車になれたのだ。

その事実が何よりもうれしかった。私は太陽の当たる道を選んで歩きだした。


「日本語の最も難しいところは3つの形容がある所。ひらがなカタカナ漢字が入り交じる文章を日本人はスラスラと読めてしまう。」

私は韓国からやってきた語学留学生という名目で日本にやってきた。

しかし本当の理由は、別にあった。

日に日に衰弱する母と、値上がりする薬代。

保険適用外の薬ばかりを処方され、両親と兄妹3人計5人家族の家計は火の車となった。

昼は仕事をしやすくするために語学学校で日本語を学び、夜から朝にかけて働き続ける。

そんな生活を私は自分自身で選んだ。

いつも通り職場に入り清掃消毒を終え、オーダー表を見ると、苦手な文字が羅列していた「観音寺ウーロンミルクティー、黒糖タピオカ入り、Lサイズ。氷少なめ」

見事な漢字カタカナひらがなの羅列に読むだけでくらくらしてくる。

まずは読めた黒糖をプラスチックグラスに規定量を注ぎ込む。

次に、ミルクティーの選定だ。私が迷っているのを察した葉瑠さんが、私にふっと「観音寺ウーロンミルクティーだよ」と教えてくれた。

言葉数の少ない葉瑠さんだが、仕事はとても優秀で私が困っているとさっと手を伸ばし、さりげなくフォローしてくれる。

 氷を少なめに入れて、観音寺ミルクティーを入れ、機械に容器をセットする。

しっかりと蓋が貼られた状態で、異物混入がないか目視で確認し、専用ストローと一緒に手提げビニール袋に商品を詰め、オーダーレシートを貼り付けて配送ルートの確保と配送商品レーンに乗せる。

「Speed eatでーす」

配送スタッフがやってきた。

何処の配送か分からず、とりあえず扉を開けると、葉瑠さんがパッションフルーツティーナタデココトッピングを持ってきた。

商品を受け取り、配送スタッフさんに手渡し、タブレットを操作する。

スタッフに配送しましたのボタンを押すだけの簡単な作業だ。

「ピーク過ぎたから、先に休憩入って」

葉瑠さんにそう声を掛けられ、深夜2時を回っていたことに気付く。

「お先に休憩いただきます。」

ぺこりと頭を下げ、手袋を捨ててエプロンを外しながら、仮眠室に向かった。

 今日は朝から語学学校に行き、17時から19時までティッシュ配りをしていた。疲労困憊。疲れのピークはすでに達していた。

ふっと目を閉じ、仮眠室のベッドに横になる。

この仕事が終わったら、次は新聞配達だ。寝る時間はこの一時間しかない。

たまにふと我に返る。私は何をしにこの国にやってきたのか。

母の治療費を稼ぐという大義名分の中、言語の習得とアルバイトに明け暮れている。

同級生たちは、近所の大学に通い、バイトをして溜まった資金で東京へ遊びに来る。

きっと私よりも東京の観光スポットに詳しいだろう。

同じアルバイトでしっかりと語学留学生として過ごしている人もいる。

私は語学留学生の就労規則に違反しながらも実家へお仕送りの為、身を粉にして働いている。

いつかこの時間が私の人生において役に立つ日が来るのだろうか。

わからない、今はわからないまま、太陽の沈んだ夜更けに目を閉じ、夢を見る。


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