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シスブロ:ロストフライト1184  作者: velvetcondor guild


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第十九話

驚異の現代食


それから三十分も経たないうちに、湿地の一角は、香ばしい、凶暴なまでの匂いで満たされることとなった。


自衛隊員たちが用意した食事。それは、義経たち中世の人間にとって、生まれて初めて目にする「異次元の食糧」であった。


ベコッ、ベコッ、と小気味よい音を立てて缶切りで開けられたのは、自衛隊の誇る**戦闘糧食(ミリ飯)**の缶詰やレトルトパックであった。


大きな平皿(プラスチック製)に盛り付けられたのは、真っ白に輝く、ツヤツヤとした**「白米(米飯)」**。


この時代、民が食べるのは赤米や麦、粟、ひえなどの雑穀であり、白米は極めて貴重だった。


しかも、隊員たちが大釜(野外炊具)で炊き上げたその白米は、一粒一粒が信じられないほどふっくらと立ち、泥臭さが一切ない、完璧な純白の輝きを放っていた。


そして、その白米の横にドロリと、深い茶色の液体がかけられる。


**「ビーフカレー」と、「ハンバーグステーキ」**であった。


「……何だ、この黒い泥のようなものは」


佐々木定綱が、差し出された皿を前にして、箸(自衛隊員が渡した割り箸)を持つ手を震わせながら呟いた。


スパイスの、鼻を突き抜けるような刺激的な匂い。

そして、肉がじっくりと煮込まれた、濃厚な脂の匂い。

彼らが知る「ひしお」や「味噌」の匂いとは根底から異なる、食欲を狂わせるような香気だった。


「毒ではありません。カレーという、私たちの世界の食べ物です。ご飯と一緒に食べてみてください」


真一が、食べ方を手本で見せる。


義経は、真っ先にスプーン(これも初めて見る道具だった)を手に取り、カレーと白米をすくい取って、口へと運んだ。


「お、御曹司……!?」


息を呑む武者たちの前で、義経の動きが完全に止まった。


彼の脳内で、衝撃が弾けていた。

ピリリとした心地よい辛味が舌を刺激したかと思えば、その奥から、尋常ではない肉の「旨味」が、これでもかと溢れ出してくる。

中世の日本において、仏教の禁忌により四足の獣(牛や豚)の肉を食べることは表向き禁じられており、食べるとしても野生の猪や鹿の肉を、大雑把に塩で焼くか煮るかする程度だった。


しかし、この皿の上にある肉は、信じられないほど柔らかく、口の中で繊維がハラハラと解けていく。

そして、ジャガイモや人参といった、彼らがまだ見ぬ未来の野菜が、その濃厚な汁の中に完璧に溶け込んでいた。


「美味い……! 辛い、しかし、手が止まらぬ!」


義経は、我を忘れてスプーンを動かした。二口、三口と食べるうちに、彼の額からは心地よい汗が吹き出し、冷え切っていた肉体に、爆発的な力が満ちていくのが分かった。


「お前たちも食え! 食うのだ!」


大将の言葉に、弁慶や佐々木兄弟も一斉に皿に飛びついた。


「なんじゃこれは、米が……米が美味すぎる!」


「この、丸くて分厚い肉のハンバーグは、一体何の肉だ!? 噛むと中から肉の汁が溢れてくるぞ!」


「美味い、美味い!」


武者たちは、泣きそうな顔をしながら、現代の戦闘糧食を貪り食った。

長年、日本の過酷な風土の中で、粗末な玄米や塩辛い魚、干し肉だけで命を繋いできた彼らにとって、現代の栄養学と食品加工技術の粋を集めた「ミリ飯」は、文字通り、神の国の料理そのものであった。

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